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魚の話  2005年3月11日
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あいなめの話…

 「あいなめ」は漢字では、鮎並あるいは愛魚女と書くそうだ。

 鮎並という漢字は、電車の広告で使われていたことがあったから、知っていたのだが、「あいなめ」の当て字と思っていた。正式なものとは驚いた。
 もともとが、鮎と同じように縄張りを持つ習性があり、形も似ていることで名付けられたという。
 沿岸の岩場の底で、同じ場所にずっと居座っている変哲な魚なのだろう。
 海釣りマニアなら、一回は釣ってみたくなるのではなかろうか。

 一方、愛魚女という表現は、完璧な当て字らしい。割烹の言葉のお遊びから広がったのかもしれない。

 命名から、姿が鮎とウリ、と誤解しがちだが、相当違うものが多い。黄褐色だけでなく、赤褐色系統や暗緑色のものもある。概して、冴えない色が多い。しかも、よく見ると細かな黒の紋様がある。おそらく、住んでいる岩に合わせた保護色だ。
 鮎のような美形とは言い難い。

 歌川広重の『魚づくし』にも、「しま鯛・あいなめに南天の図」(2)がある。
 江戸では馴染みの魚で、春先から初夏にかけ、ずっと楽しませてくれる魚だったと思われる。とはいえ、南天と一緒に描いた位だから、脂がのった、旬モノが特に嬉しかったに違いあるまい。

 もっとも、「あいなめ」という名前は関東でしか通用しない。

 北海道では「あぶらこ」、東北では「ねうお」、関西では「あぶらめ」と呼ばれている。

 名前から見て、北海道では、白身の割りには結構脂っこいね、と評価されたのだろう。語感から、即、東京送りになってしまう魚のような気がする。寒いから脂がきつそうだし、同じ白身魚なら鱈(たら)で十分な感じがする。

 東京以外では、それほど珍重されないかというと、そんなことはなさそうである。

 驚いたことに、中国地方では大人気だという。
 なんと、その名は「籾種失い」。

 あまりに美味しくて、なにがなんでも食べたくなり、籾種まで売ってでも、手に入れたくなるほどなんだと。
 瀬戸内海での評価は極めて高いのである。

 「あいなめ」で一番美味しいのは、2〜3年モノの30センチ弱くらいの大きさらしい。
鱗は細かいから簡単にとれるそうで、中骨を抜いて三枚におろし、骨切りすればよい、とのことだ。

 但し、背の方だけは小骨が無いから刺身にするとよいそうだ。と言っても、鮮度が落ちやすい魚だから、一般家庭では無理だろう。
 もっとも、寿司屋に登場するのも、4年もののような大型らしい。普通に売られている「あいなめ」で提供している訳ではないようだ。

 背以外は、小骨が多いから、見かけは鮎に似ていても、焼き魚には向いていない。どう見ても、煮付けがよさそうだ。特に、春の初摘み若布とあわせれば、最高だろう。

 もっとも、しっかり骨をとれば、照り焼きも結構よさそうな感じがする。
 ぱりっと焼きあがった皮に山椒の香りをつけた焼きモノは春らしくて楽しいと思う。

 関西なら、脂っこさを抑え、白身の美しさを保てる、碗モノにして、雅な感じを出して楽しむのではなかろうか。

 当然ながら、和食だけでなく、洋風にもいける魚である。ポアレにして、皮のカリットした食感と、香ばしさを出せれば、素晴らしい一品になるのは間違いない。
 脂っこいが、蛋白な白身魚だから、優れた料理人にかかれば、絶品ができそうである。

 又、小型で10センチ程度なら、から揚げがよい。南蛮漬けも定番料理らしい。

 美味しいだけでなく、栄養成分を見ると、活用しがいがある食材と言える。
 小ぶりの1尾(200g)でも、1日所要量の64%もの蛋白質が含まれており、ビタミンDとB12が多いのが特徴である。 もちろん、ビタミンB1/B2/ナイアシン/Eも相当含まれている。(3)
 昔から、病人に良いと言われてきた魚だけのことはある。

 有難い食材だが、成長が遅そうだし、群れる類の魚ではないから、さらなる高級魚化が進むのは間違いなさそうである。

 ・・・と書いていたら、無性に「あいなめ」のポアレが食べたくなってきた。

 --- 参照 ---
(1) 上記、名前の話の出典:  川崎洋「魚の名前」いそっぷ社2004年12月
(2) 2005年2月 東京国立博物館に展示.
(3) http://www.glico.co.jp/navi/pdx010_1.htm#h10020
 

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