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魚の話  2005年5月6日
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さくらますの話…

 蛇を追ふ 鱒のおもひや 春の水 蕪村

 鱒と言えば、渓流でのルアー&フライフィッシングのイメージが思い浮かぶ。
 もっとも、釣り人に聞くと、そう簡単に釣れるものではないらしい。魚を獲ることより、釣り自体が楽しいのだろう。

 渓流の鱒はサクラマスという名前だ。この魚は、海に下っている時は全身銀白色だが、産卵期に川に戻ってくる頃になると「婚姻色」を呈す。

 昧噌汁も 山女魚も渋き ひとり旅 山口草堂

 サクラマスと同じ渓流に住むのが、山女魚(やまめ)だ。美しい魚である。同じ種だが、黒色の斑紋があるから、一目で違いがわかる。住む川によって、この斑紋は微妙に違うそうである。

 この両者は、幼魚の時は見分けがつかないそうだ。
 と言うより、同じ魚だろう。成長して川から出ようとしない魚が山女魚で、海に出て行って、1年過ごした後、とてつもなく大きくなって戻ってくるのがサクラマスだ。

 釣り人は、山女魚を“渓流の佳人”と呼ぶそうで、5月モノは鮎など目ではないと目の色を変えて語る。

 マニアの話はバイアスがかかっている可能性もあるが、この時期の山女魚が美味しいことは確かなようだ。
 とはいえ、一般の人にとっては、まだ暖かいとは言い難い時期に、渓流釣りのお供をする気力は湧かない。

 せいぜいが、ヒッピーが流行った頃のベストセラー、「Trout Fishing in America」(RICHARD BRAUTIGAN, 1980)(1)を思い出す位で留めておくしかあるまい。

 神父の竿に 虹鱒躍り 吾妻笑みぬ 中村草田男

 もっとも、素人にとっては、確実に釣れる虹鱒釣りの方が楽しい。貪欲な魚なので、初めてでも必ず釣れるからだ。
 但し、養鱒場の釣堀に入ったりすると、大変なことになる。入れ喰い状態だから、釣れすぎになる。釣った魚は購入させられるので、遊びはすぐに終了するしかない。こうなると、楽しい遊びではなくなる。

 つくづく、こんな魚でよかったと思う。虹鱒は外来種だが、養殖場以外の生息地は未だに特定の湖や川に限られている。すぐ釣れるので、消えてしまうのだろう。
 お陰で、在来種が生きていけるのである。

 まさに食欲の塊のような北米出自の魚だが、どういう訳か、華麗なイメージがある。
 リゾートエリアの清冽な水で育った魚を一流のシェフに料理してもらい、素敵なダイニングルームで頂くという舶来文化が残っているからかもしれない。

 正直言って、ムニエルは古典的調理の感は否めないが、逆にこのことが歴史を感じさせる。木作りの落ち着く調度に囲まれて、「脱亜入欧」に燃えた古き時代を想いながら、ハウスワインとともに、料理をのんびり味わうのは結構楽しいものである。
   ・日光金谷ホテルのダイニングルーム、“日光特産虹鱒料理 虹鱒のムニエル”(2)
   ・富士屋ホテルのメインダイニング「ザ・フジヤ」、“箱根虹鱒富士屋風”(3)

 --- 参照 ---
(1) 米国では忘れ去られた感じがするが、日本では愛読者は多い。
  これは翻訳者の貢献によるところ大だ。 藤本和子「リチャード・ブローティガン」新潮社 2002年
  http://shinchosha.co.jp/cgi-bin/webfind3.cfm?ISBN=401402-8
(2) http://www.kanayahotel.co.jp/nkh/facility/dining/dnma0021.htm
(3) http://www.fujiyahotel.co.jp/fujiya/restaurant/popup/t_lunch_arakart.html

 --- 註記 ---
[陸封魚]    [海降魚]    画像はアマゴ→
ヤマメ-------サクラマス
アマゴ-------サツキマス
アメマス-----エゾイワナ
ヒメマス-----ベニザケ
ニジマス-----スチールヘッド
 出典: 上野輝彌・坂本一男「魚の分類の図鑑」東海大学出版会 1999年

 --- 附記 ---
 鮭の味噌漬けはよく見かけるが、鱒と記載されたものは滅多にみかけない。両者の区別は曖昧だ。なにせ、ベニザケは鱒なのであるから。漁師は、秋に産卵しに帰る魚を鮭と見なしているらしい。
 5月に獲れたサクラマスの味噌漬は間違いなく絶品だが、味噌漬はベニザケやギンララが一般的なようで、店頭には並ばないようだ。
 尚、北大路魯山人著「魯山人味道」には、鮭ではなく、安価な鱒のお茶漬けが登場する。
 但し、鮭鱒は、種より、獲れた時期と場所で質が大きくかわるから、同じ美味しさを味わうのは簡単ではない。極端な話、産卵後の鮭など「ほっちゃれ」と呼ばれる位である。


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