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魚の話  2005年6月24日
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ほやの話…

 浜風を 味わうごとし 海鞘の味 残れる舌に 冷酒乗せれば  佐々木幸綱

 海鞘(ホヤ)の出荷は、宮城県は歌津と志津川、岩手県は綾里、越喜来に集中しているらしい。勿論、養殖である。育つのに数年かかるようだ。

 食べるのはもっぱらシーズンの時だけだから、収穫作業はさぞや大変だろう。
 なにせ、新鮮さが命の食材なのである。

 ・・・ということを知ったのは、実は、結婚してからである。
 そもそも、こんな奇妙な食材があること自体、初耳だった。

 海のパイナップルと言われていると聞き、素晴らしいものを期待していたのだが、見せてもらったら、気味悪い赤褐色の色だったから、驚いた記憶がある。
 ホヤを最初に口にした時は、およそ美味しいとは思わなかったのだが、何回か食べていたら、止められなくなった。所謂、やみつきである。
 今や、ホヤの夏が楽しみである。

 新鮮なホヤを酢の物で頂くと、本当に幸せな気分になる。
 一方、間違って、“新鮮そうな”ホヤを食べると、不幸のどん底に陥る。臭いだけで、なんの美味しさもない。見立ての眼力に自信がない人は避けるべき食材といえる。

 もっとも、新鮮でも、味も香りも癖が極めて強いから、嫌う人も多いと思う。俗に言う“えぐさ”があるからだ。慣れると、これが嬉しくなるのだが、初めてだと耐え難いかもしれない。合わないと悲惨である。香りではなく、一瞬にして不愉快な磯臭さに変わる。
 食感も独特である。シロップ漬の多少筋っぽい黄桃といった感じだろうか。

 それに、得体のしれない奇怪な生物という印象は拭えない。魚でもなければ、貝とも思えないし、海鼠やウミウシの類とも違う。初めて見ると、こんな生物がいるのだと本当にびっくりすること請け合いである。
 従って、お頭つきの目が気になるような気の小さい人に、現物や、調理の様子は見せない方がよい。

 調理しているところを見ると、その独特の構造に驚かされる。

 先ず、格好が奇妙である。パイナップルというより、イボイボ突起がついた手りゅう弾といった感じだ。南洋の珍しい果物といわれると、そうかとうなづきそうな外見である。
 口なのだろうか、2つある堅固な部分を切り取り、そこから包丁をいれて周りの硬い殻を剥ぎとる。そうすると、マンゴー状の身がでてくる。黒っぽい内臓があるし、腸らしきものもある。黒い塊は捨てるが、他は食べることになる。よく洗えば、調理はそれでおしまいである。
 洗い方で味が変わりそうだ。コツというより、好き好きなのではないかと思うが。

 書くと簡単な調理に聞こえるが、結構面倒だ。包丁に慣れていないと難しい。

 昔は、東京ではほとんどみかけなかったのだが、最近はそこらじゅうにある。嬉しいが、流行ると高価な珍味になってしまわないか心配である。
 なにせ、1個100円程度の食材なのである。

 魚でもないのに、ついホヤを取り上げてしまった。夏になると、これだけは逃せないのである。


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