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魚の話 2005年8月5日 |
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あわびの話…波かける 岩根につける 鮑貝 こや片恋の たぐひなるらん 藤原俊成アワビといえば、すぐに“磯の鮑の・・・”の話になる。 アワビは分類上では、マキガイのオキナエビス目のミミガイ科だ。巻貝が一枚に見えるのだが、確かに尋常の一枚貝の構造ではない訳だ。二枚が一枚になったという見方は極く自然なものといえよう。 片恋の話は万葉集に登場する位で、とてつもなく古い。未だに語り継がれるところを見ると、アワビに親しみが湧く人が多いのだろう。 伊勢乃白水郎之 朝魚夕菜尓 潜云 鰒貝之 獨念荷指天 [万葉集 11-2798 “寄物陳思”] 読み下しは簡単ではないが、意味はわかる。 但し、この時代のアワビは「鮑」ではなく、「鰒」だ。どうして変わったのだろうか。 ともあれ、貝なのに、虫偏ではなく魚偏であるから格が高い漢字なのは間違いない。おそらく「鰒」は品がある文字なのだろう。 今でも、志摩半島東端の国崎(御料鰒調製所)では「鰒」の文字が生きており、奉納用アワビのしを作っているそうだ。これが伊勢神宮で神饌として供えられる。(1) 伊勢神宮でなくても、アワビはお供物の基本である。三宝の盤には、米飯盛りに海産物が載るが、だいたいが、のしアワビ、伊勢エビ、昆布だ。これにホンダワラも加わることもある。 橙や勝栗は食材としては別系統な感じがする。 1200年以上前から、アワビは重要な海産物だった訳だ。上質モノは中国にも輸出していたのではないかと思う。 蛸がアワビにへばりついて窒息させているところを見つけ、コツンと叩けば、簡単に両者一緒に獲れるらしいから、特別な道具が作れなかった時代は盛んだったろう。 なにせ、アワビから真珠が取れた位だ。 東大寺三月堂(法華堂(2))の本尊、三眼八臂の不空羂索観音の宝冠にはその名残りがある。残念ながら、お堂の中は暗いので細かなところまで見えないが、銀製の阿弥陀如来像を中心にした透かし彫り構造になっているようで、多数の宝石がちりばめられているそうだ。このなかに格段に大きな「鰒玉」が含まれていると言われている。 但し、歴史があるといっても、中国の比ではない。延命食や仙薬に関心を払った秦の始皇帝の時代は紀元前だ。 歴代の皇帝がタウリン豊富なアワビを珍重したのは間違いあるまい。今でも、漢方でアワビの殻の粉を「石決明」と呼ぶことにも現れている。文字から見て、目を明るくする効果がある石という意味だろう。 身の方ではなく、殻が薬というのは不思議な感じがするが、身の方は薬というより、皇帝の基本食材だったと思う。干しアワビを蒸したり煮て繊維を十分に柔らかくし、酒を加えて、アワビから出た汁全量を戻すように煮込めば、素晴らしい料理ができるからだ。 こんな点を考慮すれば、干しアワビ珍重文化はおそらく海外伝来である。 (日本流は刺身だろう。もっとも、甲府の煮貝、三陸の塩辛、富山の粕漬のように、色々と追求したようである。) もっとも、中華料理は干しアワビではなく水煮の缶詰を使うのが基本のようだが。 おそらくオーストラリア辺りがメインになっていると思われる。 大きなアワビの産地はオーストラリア、カリフォルニア、日本に絞られているようだ。 日本は餌となる海草がある上、稚貝を育てて放流することで定常的な漁獲量を維持できているようだ。 お陰で、刺し身で磯の香りと貝の身の旨みを楽しむことができる。 但し、アワビといっても色々あり味は相当違うようだ。 世界には約100種あり日本では約1割がいるそうだが、日本では小型のトコブシも入れて5種と見れば十分らしい。 北方で獲れるのが小さ目のエゾアワビ。これと同一系と思われるのがその南方で獲れるクロアワビ。細身で身の色は暗緑色。 刺身にするとコリコリ感が強いから人気があるとみえ、値段がはる。要するに、涼しい場所を好むため成長が遅く、身が締まるのである。 一方、比較的暖かい海を好み、身が柔らかいのが、赤茶っぽいメガイアワビと淡い黄褐色がかっているマダカアワビだ。もっとも色は当てにはならないようが。後者は大きくなるし、肉がふっくらしているのでステーキ用に向くらしい。大きなものは余り獲れないようだが。 女貝というからメガイアワビが雌で、マダカアワビが雄だと思っていたら、全く別の種類だという。それぞれに雄雌があるそうだ。 もっとも、こんな解説に意味はなくなりつつある。チリ辺りでも育成される時代だからだ。 生物の空輸も珍しくないそうだ。 アカアワビ、アカネアワビ、ビクトリアアワビ、ヘリトリアワビといった南北米・豪産が結構入ってくるそうだし、各種トコブシ系が台湾や東南アジアから相当流入しているという。さらにはアフリカ産もある。 こうなると、とても種など覚える気にならない。 --- 参照 --- (1) http://www.kintetsu.co.jp/senden/Database/KU-Htm/ku0006.html (2) http://www.naracity.ed.jp/tsuzaka-e/time/%E4%BA%8C%E6%9C%88%E5%A0%82/nigatudou.html#sanngatudou (3) http://www.minayo.co.jp/nigai.htm (参考) 世界海産貝類大図鑑 平凡社 1985年 「魚」の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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