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魚の話  2005年8月15日
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とびうおの話…

 飛魚の 翼の光り 波を切る 高濱年尾

 トビウオの体は模型飛行機のようにスリムで、背が平たく腹側が三角の形状をしている。
 胸鰭は長くて広げると全長並になる上に、立派な幕がついていて翼そのものだ。尾鰭は下半分が長くなっており、跳びあがる際に海面を叩ける頑丈さがある。
 消化器も簡素で食物の体内滞留が短いようになっているという。

 こうした構造のお陰で、海面から数mの高さを時速60Km近辺で、200m程度滑空するという。どの程度信用してよいのかわからないが、この前後の数字が通説になっているようだ。(1)
 群れをなして飛ぶ姿を見たことがあるが、正に圧巻である。
 鮪など時速100Kmは軽く出るから、追われれば跳んで空中を逃げるしかない訳だ。

 もっとも、都会育ちには、魚達が遊んでいるようにも見えるが。

 運動量が激しいため一気にエネルギーを消費することになる。このため、トビウオの身には脂分がほとんどない。一方、食餌の絶対量は多いから、海水のミネラル成分は多量に蓄積されることになる。
 当然ながら蛋白質リッチで淡白な味となる。他の魚のような旨みは少ないが、健康志向の現代にはピッタリの魚と言えよう。

 だが、残念ながら、ボデッとした体型だから丸のままの焼魚には向かない。火が通りにくいのである。味をつけてから油で揚げると美味しいと思うが、こうなるとカロリーが嵩んでしまう。
 となると、お奨めは刺身だろう。もっとも、あっさりし過ぎだから、好きな人は限られるかも知れない。鮪のトロ好きにはもの足りない。
 それに、なんといっても厄介なのは、小骨が多い点だ。生の料理は一寸面倒なのである。

 淡白で、いかにも和にあった健康素材だが、擦り身で使うのが一番合っているような感じがする。

 あと、忘れてならないのが、卵のトビコだ。オレンジ色なので、寿司屋では目立つ。お馴染み品だが、イクラ程の人気はないようだ。
 トビコは、どういう訳か、タラコのような袋に入ったままの卵にはお目にかからない。又、あれだけトビコが出回るのだから白子もありそうなものだが、こちらも見たことがない。持ちが悪すぎるのだろうか。

 おそらくトビウオの一番の利用シーンはこうした食材ではなく、出汁の材料だろう。
 脂分が少なく、干しても酸化臭がでないから圧倒的に優位だからだ。
 そのためか、頭と内臓を除去して煮た後に乾燥させた「あごだし」は人気があるようだし、焼いてから干した「焼きアゴ」や「焼きトビ」を絶賛する人も多い。こちらは、長崎や博多では正月料理用の定番ものらしいし、関西でも最高級品の部類との位置付けだという。

 どういう訳か、本場での呼称はトビウオではなく、もっぱらアゴである。「丸あご」、「角あご」など種類も豊富だ。

 ともあれ、トビウオは九州から山陰が本場である。
 なかでも、島根県人はトビウオがお好きなようで、県の魚になっている。(2)
 夏を告げる魚として愛着がある上、飛躍イメージが嬉しい訳だ。すり身にして焼き上げた大ぶりの竹輪「あご野焼き」もウリのようだ。

 通を任じる呑べいに聞くと、肴はトビウオが最適と言う。

 刺身かと思ったらクサヤである。
 本場物のクサヤなら、ムロアジなど目ではないという。トビウオなら蛋白質が酵素で分解される旨さだけをしっかり味わえるから、確かに素晴らしいかもしれない。
 又、こんがりと焼いた五島直送の塩アゴも逸品だという。塩漬け品を干して硬くなったものである。凝縮した出汁を味わうのと同じだから絶品に違いない。

 両者ともに、美味しい酒には最高のつまみかもしれない。但し、跳びすぎて深酔いしなければの話だが。

 --- 参照 ---
(1) 末広 恭雄「魚の博物事典」講談社 1989年 ---海面上10m, 時速70Km, 滑空距離400m, の記録が記載されている.
(2) http://www2.pref.shimane.jp/suisan/tobi/2d-tobi.html
 

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