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魚の話  2006年2月17日
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はぜの話…

 ひらひらと 釣られて淋し 今年鯊  虚子

 ハゼについて詳しく記載されているサイトを眺めたら、世界に2,000種以上いると記載されていた。

 驚いた。
 と言っても、驚いたのは種類の多さではなく、多忙な研究者にもかかわらず、単なる魚マニアの立場から、「私的ハゼの百科事典」(1)というホームページを開設してくれた点である。

 何故、ハゼを選んだのかが大いに気になるが、愛嬌ある顔が決め手かもしれぬ。

 もともと、ハゼは、身近に沢山棲んでいる小魚で、捕るのも簡単だから、馴染みが深い。
 夏から秋にかけて、内海の防波堤や河口での釣り遊びにも最適だ。
 子供から大人まで人気があるのは当然だろう。

 但し、小魚だから、食べ方のバラエティは少ない。家庭では、もっぱら天麩羅タネか唐揚げになる。
 もちろん、佃煮などにもできるが、作るのが面倒だし、大量に獲れることもないだろうから、食べたければ専門店の製品を買った方がよさそうである。
 底に棲んでいる割には、揚げ物の味は結構淡白だ。からっとした食感だから、結構美味しい。
 もっとも、偶に食べるからそんな感想になるのかもしれないが。

 遊びからいえば暑い頃が楽しいが、旬は秋だろう。
 特に、11月は、江戸前の釣りと天ぷらの乗合船で楽しむ人が多い。木更津沖や横浜沖まで行くことも多いようである。(2)
 一方、本格派は、手漕ぎの「ハゼ練り船」で深川廻りを挙行するらしい。和竿を使った釣りで、風情を楽しむのである。

 釣り人は多いが、ハゼの良い点は、初心者でも簡単に釣れる点だ。場所を間違えず、魚がやってくる満潮に合わせれば、必ずと言ってよいほど釣れる。

 道具仕立ても簡素なもので十分。
 竿(約1m)に針(3〜4号)と糸(1〜2号)の簡易セット(1000円位)だけで、十分釣れる。 但し、釣果を入れる容器は持参する必要がある。バケツでよいのだが、問題はハゼが飛び跳ねること。蓋がないと往生する。

 但し、餌の青イソメ(500円)は購入しないと、釣れるとは限らない。
 最近の子供は、この餌が気味悪いそうだ。こまったものである。

 釣り方といっても、海底に餌がつきそうな感じにすればよいだけ。ほとんどコツなどいらない。
 但し、数を競うつもりなら、ハゼを速く外し、餌を速く付け、すぐ投げ入れる連続行為を徹底的に練習する必要がある。釣り人は、このことを「手返し」がよいと言う。これが自慢なのである。
 尚、名人クラスに挑戦するなら、竿を複数操るだけの手業にも熟達しておく必要がありそうだ。

 などと書いていて、「江戸和竿」を思い出した。魚の種類毎に特注する類の、竹製漆塗りの工芸品である。いなり町の東作、銀座東作、南千住の竿忠、池之端の竿富など、江戸からの系譜が今でも生きており、知る人ぞ知る世界がありそうである。(3)
 下町空襲で街は消失したが、落語同様、人が受け継いできたきた。(と言う話を聞かされた。)

 竹の表面の美しさを生かした漆仕上げ。2本継ぎで、糸が竿の中を通る。当然ながら、糸巻きが付いている。昔のものを見ると、これが象牙製。
 深みのある色は、美しいの一語につきる。(4)

 そのため、江戸和竿が欲しい人は多いようだ。しかし、3〜4万円と結構値がはる。もっとも高価なのは数十万円しており、名人の作品だと、もう一桁上になるそうだ。
 普通の生活をしている人には、とても手がでない。
 もっとも、自作に挑戦すると、もっとお金がかかることになるが、それもまた楽しそうだ。

 まさに粋の世界と言えよう。
 要するに、手漕ぎの「ハゼ練り船」で深川辺りで小魚を釣るだけのことにもかわらず、遠くに出かけていって大物釣りに挑戦するような気分に浸る訳である。

 それが江戸の伝統そのものということのようだ。・・・ 「本来は船でやるのが標準的なんですけど、この頃は陸でやるはぜ釣りが多いですけどもね。昔はもう陸のはぜ釣りってのは、お子さんとか、女の方とか、そういう方のおやりになる釣りで、はぜ釣りってのは船でやるもんっていう風にね。
 で、だいたい彼岸のお中日(ちゅうにち)から始めたんですよ。だからわたし達も、お彼岸のお中日っていうと、よくはぜ釣り行ったもんですよ。昔は、お彼岸のお中日のはぜは中気のまじないになるってね、よく言われてね。」(5)

 縁起かつぎも、江戸の喜びであったようである。

 ハゼの話をするつもりが、つい江戸和竿の話になってしまった。

 --- 参照 ---
(1) http://homepage2.nifty.com/PhD-mukai/
(2) http://www.f-fujimi.com/fuji_joho.htm
(3) 東作 江戸和竿師の系図一覧
  http://www.isoto.net/wazao/dentou/edo01.htm
(4) 伝統工芸品の映像紹介[江戸和竿協同組合]
  http://www.kanko.metro.tokyo.jp/tra/goods05.html#20
(5) http://www.edocraft.com/products/yoshida/creator_jp.htm
 

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