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魚の話  2006年4月28日
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うつぼの話…

  蛸坊主 ウツボ野郎に 食われるな   与太者嫌いが詠んだ句

 ウツボは鰻系の魚だが、魚というより、太った海蛇に見える。普段は岩穴に隠れていて、突然、大きな口を開けて獰猛に襲いかかるイメージもある。海のギャングと呼ばれる所以である。
 噛んだら最後離さない性質だから、指詰めされないように、よく注意しろとの話を聞いたこともある。

 獰猛で、それこそ、向かうところ敵無し、と思うと間違いである。タコが好敵手なのである。もちろん、ウツボがタコの急所を狙って、ガブリと噛み付けばウツボの完勝だが、外すこともある。そうなると、タコは、足でウツボの首を全力で絞めあげるから、ウツボはあえなく窒息死に至るのだとか。互いに、暫く見合ってから始まるというから、壮絶な戦いだ。(1)

 こんなことを知ると、恐ろしく喧嘩好きな魚に見える。
 しかし、夜行性だから、昼間なら、ちょっかいを出したり、手を出して縄張りを侵さない限り、ヒトにはなにもしないらしい。
 とはいえ、“意外と人懐っこかったり”するとの説は、にわかに信じがたいが。

 というのは、どう見ても、ウツボにとっての一番の敵はタコではなくヒトだからである。

 学者が教えてくれなくても、ウツボのタコ好きなど、漁師はとっくにご存知である。
 そして、タコの大好物が伊勢海老というのも有名だ。
 そうなれば、当然ながら、ウツボを伊勢海老のガードマンに仕立て上げることになろう。
 そして、その程度で終わる筈がない。
 ヒトは結構貪欲であるから、運悪くガードマンになれなかったウツボ君は調理場に回されることになる。

 素人には恐ろしげな魚に映るが、プロにかかれば、ウツボ捕獲など赤子の手をひねるようなものだ。
 タコの足が一番だろうが、普通は安価なイカの内臓や鰯などを、細長い籠に入れて、夕方、岩場に沈める。翌朝、引き上げればウツボにお目にかかれる。
 単純な脳細胞の魚なのである。

 ところが、市場で人気がある魚ではない。少なくとも、関東では滅多に料理には登場しない。
 皮膚は鰻のようにぬめっているし、活かしておくのも難しいからだろう。といって、死んでしまえば、傷みが速く厄介な食材だ。しかも、骨っぽいから、調理はえらく面倒だ。
 これでは、好まれる筈がなかろう。

 もっとも、このお蔭で乱獲を免れたとも言えよう。

 たいていは、旬は冬とされているが、たまたま他の魚が余り獲れそうにない時に、それではウツボでも獲るかといったところではなかろうか。

 そんななかで、ウツボ獲りに注力している地域もある。  関東圏では、館山市相浜が干物を作り続けているそうだ。
 串本などの紀南では、昔から名物だという。(2)こちらは、干物ベースの佃煮が主力らしい。

 さらに南に下ると、高知市の西隣り土佐市から須崎市の、郷土料理になっている。こちらは、お祭りにも出るそうだから、本格的である。
 この地域では、肛門から上がたたきか刺身、下は骨抜きして、唐揚げ、天ぷら、煮凝りに用いるようだ。(3)

 特に、厚手の皮を焼いた香ばしさと、皮の下のゼラチン質の口当たりが絶妙な上に、身が淡白だから、絶品だそうである。それなら、すまし汁、南蛮漬け、照り焼き、となんでもござれだろう。それに、水炊きでもいけるに違いない。
 ウツボ尽くしコース料理が可能である。

 昔は、この地域だけの人気料理だったらしいが、ここまで来ると、全国に“土佐のウツボ料理”が知られるようになってしまった。

 黒潮圏以外でも、動きがあるようだ。
 熊本県天草郡五和町のあらを使った料理「きだこ鍋」が“くまもとふるさと食の名人”にリストアップされている。(4)

 流石に、ここまで来ると、乱獲の恐れ濃厚といえよう。
 ともかく、今では高級魚である。

 イメージも変わってきた。ギャングではなく、愛すべき魚になったのである。ウツボの縫いぐるみが人気商品だという。(5)

 もっとも、ウツボの仲間の写真を眺めていると、(6)そんなものかもしれないという気にもなる。結構、綺麗で、可愛いものがある。
 なかでも、沖縄に住むハナヒゲウツボには、思わず見とれてしまった。目の覚めるようなコバルトブルーが、ことのほか美しい。このウツボはプランクトンを食べて生きているそうだ。

 --- 参照 ---
(1) http://libsv.eiyo.ac.jp/library/ER18_07_/ER18_07_036.jpg
(2) http://www.pref.mie.jp/ONOSYO/hp/meisan_eat/utubo/make1.htm
(3) http://www.tosamaguro.com/utubo-tataki.htm
(4) http://cyber.pref.kumamoto.jp/chisan/Content/Asp/syoku/meijin.asp?NO_ID=179&pageCnt=18&selpage=0&dispPage=
(5) http://shop.aquarium.co.jp/shop/item_detail.php?id=7
(6) http://www.aquamuseum.net/aqua/utubo/index.html


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