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魚の話  2006年6月2日
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さわらの話…

  サワラすき あなたもすきと 笑う妻
      小林義夫 [岡山県岡山市] さわら川柳入賞作品(1)

 魚偏に春であるから、正真正銘の春の魚である。産卵期に、内海に一挙にやって来たかららしい。内海とはもちろん瀬戸内海のことだが。

 内海ではないが、相模湾でも結構獲れるらしいが、東京湾には入ってこないようだ。東京湾内では、鰯や鯖の絶対量が足りず生活できないのだろう。

 青魚であり、水っぽくて、やわらかい身なので、鮮度がすぐに落ちてしまう。しかも、大きな魚だから、家庭で一本使うのには無理がある。

 切り身で購入するしかないが、厚めで白身なので、パックされて陳列されると、眺めただけでは品質はよくわからない。皮は極く一部しか見えないので、新鮮なのかの推定もかなり難しい。当たり外れが大きそうである。

 と言うことで、生なら寿司屋ということになろうが、滅多にお目にかかれるものではない。
 やはり、安心なのは、京白味噌の西京漬ということになろう。ほんの少し味噌が残っている網焼きの鰆を味わうと、日本人はアミノ酸から離れられないのだ、とつくづく思う。

 そこで、鰆の定番料理は味噌漬と決め付けたくなるが、醤油好きは「柚庵焼」の方が嬉しいようだ。冷めても柚子の香がするから楽しい点もあるが、鰆以外の方が合うような気がする。
 ところで、醤油、味醂、酒を合わせ、“柚子”の輪切りを入れた漬け汁に数日間沁み込ませてから焼くから、「柚庵焼」だとずっと思っていたら、正式名称は「祐庵焼」だそうである。江戸後期、近江は堅田の浦の、素封家出身の茶人、北村祐庵(2)にちなんだものだという。もっとも、幽庵とも言うから、「幽庵焼」でもよいのだろう。

 こんな感じで、鰆は焼きモノと勝手に決めつけていたら、もともとは、生食が主流の魚らしい。

 当然ながら、主流派の巣窟は岡山(備前)である。
 この辺りでは、古来から鰆を珍重しており、独自の食文化があるそうだ。なかでも、有名なのが「ばらずし」。鯖を一匹まるごと背割りにして寿司シャリを詰めなじませたものだそうである。秋祭には欠かせないご馳走らしい。(3)

 このことは、獲り易さの観点では旬は春だが、美味しさの観点での旬は秋ということを意味していそうだ。ありそうな話である。

 ともあれ、外部の人間にしてみれば、雄町米大吟醸と備 前ばらずしのとり合わせは、垂涎ものである。

 昔から、備前では、八十八夜から四十日間が鰆漁の最盛期で、「魚島どき」と言っていたそうだ。群れた魚が島のようになったのだと。今では、夢のまた夢だろうが。
 にもかかわらず、こんな言葉が、知られるようになったのは、1994年に「おやま魚島横丁」ができたからと睨んでいる。(4)

 もっとも、岡山に限らず、瀬戸内海沿岸では鰆食は一般的なものだったようだ。

 若山牧水が、「瀬戸の海や浪もろともにくろぐろとい群てくだる春の鰆は」と謳っているが、これは、愛媛県岩城島でのこと。(5)

 又、香川県志度町には、木槌で木枠をカンカンと叩いて固める押し寿司が伝わっている。但し、手間がかかるので家庭からは消えたようだ。(6)

 鰆のような扱いが面倒な魚を本格的に味わうのは難しいのである。

 せいぜいが、京都老舗が作った伝統の白味噌に、本味醂を加えた床に、東シナ海産の輸入鰆を漬けた“高級品”を楽しむ程度しかできないのが現実なのである。

 --- 参照 ---
(1) http://www.optic.or.jp/okayama-cci/sawara/sinnsakeltuka2.htm
(2) http://tois1.nichibun.ac.jp/database/html2/kijinden/kijinden_62.html
(3) http://www.pref.okayama.jp/chiji/kocho/daisuki/jiman1.htm
(4) http://www.city.okayama.okayama.jp/museum/saijiki/5/5-17uo.htm
(5) http://comet.tamacc.chuo-u.ac.jp/bungakusanpo/bokusui/bokusui
(6) http://www.jtbkikaku.co.jp/kokoro/backnumber/vol2/kagawa.htm


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