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魚の話  2006年7月14日
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なまこの話…

  海鼠腸に 一念の切れ なかりけり  中原道夫 「銀化」  

 ナマコは、形はグロテスクだが、神饌として扱われているというから、海産物としての歴史は古い。(1)
 しかし、そんなことより、酒飲みにとっては、寒い冬の、熱燗と酢の物の取り合わせの方が重要である。

 南洋に遊びにいけば、浜に真っ黒な棒のようなナマコがごろごろしていて、普段見慣れているモノとは大違い。これは流石に食べないのだろうが。

 ナマコの酢の物料理は簡単で、誰にでもできる。塩洗いして、わたを取り出し、切って、三杯酢をかければ出来上がり。これだけで、コリコリした食感が楽しめるのだから有難い。
 ところが、近頃はスライス品が主流になってきたようだ。包丁さばきも面倒ということだろう。それに加えて、冷凍「なまこ酢」まで登場するようになってきたから恐れ入る。お蔭で、季節感は失われてしまった。

 ・・・などと語る人は、食べるのは好きだが、実は、ナマコを一度も調理したことがなかったりする。
 魚と違って、どうも気味が悪いのである。

 生の海鼠はそれほど高価ではないが、「このわた(腸の塩辛)」、「このこ(卵巣の塩辛)」、「くちこ(干このこ)」になると逸品モノで、驚くほど高価である。ナマコの一個体から取れる量は僅かだから、高価になるのは致し方ない気もするが、ナマコ調理品が売られており、原料が豊富になっているのだから、もっと安価にして欲しいものである。

 日本では、ナマコは基本的に生食だが、中国では、もっぱら干ナマコの煮物料理である。この料理方法は清の時代に完成したそうだ。
 そのため、中国ではナマコの種類は豊富だ。日本産は「刺参」だが、「猪婆参」「禿参」といった形態のものもある。

 要するに、日本は酢の物のタネか、酒の肴という位置づけなのに対して、中国では本格的な食材なのだ。不老不死に繋がるということで、誰もが食べたいモノなのだろう。
 明・清の時代は、日本は大量に輸出していたそうだが、量は減ったとはいえ、今でも輸出ビジネスが続いているようだ。日本モノは高級品だから、おそらく高収益だろうが、寒いなかでの辛い作業であり、漁師としての誇りがなければ、とても続けられるものではなさそうだ。(2)

 中国食文化が本格的に流入しているかは、干ナマコが市場に流れているか見ればすぐわかるそうで、文化・産業モデルとしても面白いから、よく調べられているようだ。(3)
 食べないナマコを獲って輸出し、魚の缶詰を輸入する南海の島を見ると、どうしてそうなるのか気になるところではある。

 ともあれ、中国人の食欲で世界のナマコ激減にならないよう望みたい。

 --- 参照 ---
(1) http://www.shunmaga.jp/zukan/gyokairui/manamako/manamako.htm
(2) 漁師 池田顕氏のサイト
  「宗谷のナマコ漁業」http://www.e-souya.org/namako.html
  「ナマコ漁ギャラリー」 http://www.e-souya.org/namako-002/index.htm
(3) http://www.minpaku.ac.jp/research/sr/11691053-08.pdf
  http://www.histanth.tsukuba.ac.jp/~minzoku/pub/31/y31akamine.html


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