トップ頁へ>>>
魚の話  2006年9月15日
「魚」の目次へ>>>
 


ひざらがいの話…

  磯波に 耐えて生き抜く 膝皿貝  磯の生物に興味を覚えし人詠みし

 ひざらがいは磯の岩の窪みという窪みに沢山へばりついている生き物。(1)

 知らない人が結構多いようだが、珍しい生物ではない。そこいらじゅうに、沢山棲んでいる。ただ、普段は岩の一部と化しているから、気付かれないのである。
 それに、わざわざ、そこにヒザラガイがいると指摘する人もいない。

 とてつもない力で岩にくっ付いているため、手で剥がすのは容易ではないが、実は、こじ開けるものさえあれば、力をかけなくても簡単に剥がせる。力まかせにとろうとすると、かえって難しいのである。
 夜行性だから、どうせ昼はボーとしている筈であり、油断しているところを見計らって、岩との間の隙間にへら状のものをすべりこませればよい。
 剥がしたとたん、団子虫ほど玉のようにはならないが、腹側に丸まってしまう。内側は薄い肉色をしていることが多い。
 その格好は、人の膝のお皿と似ている。これが膝皿貝という名前になったそうである。

 都会の住人なら、それなりに面白い名前と喜ぶかもしれないが、漁師がヒトの骨由来の名前にするとは思えないから、本来は火皿だったと考えるのだが、少数派の説を流すなと叱られそうだから深入りはやめておこう。

 もっとも、名前を変えたからといって、イメージが変わることもなさそうだ。
 お世辞にも、美しいとは言い難い姿だからである。
 薄黒色の草履という感じである。貝と言うより、ごそごそと動き回る船虫を平らにして、足を取った類の生物との印象だ。何の害も与えない、大人しい性格だが、ほとんどの人は、触ることさえ躊躇するだろう。

 小生の場合、高校生の頃、東京湾は岩井でじっくり観察したことがある。
 確か、8枚だったと思うが、硬くて鎧のような甲羅が繋がっている。
 これで、外敵からの防御は完璧だ。岩には足で吸着しているだけである。どこまで本当かわからないが、自分の好きな場所にへばりついていると言われている。
 夜になると、動き出して、海藻を食べ回り、又、もとの場所に帰るそうだ。

 食用にする人などいないと思っていたら、そうではない。

 「ヒザラガイ──火皿貝味はアワビに負けないぞ」(2)

 海藻を食べるのだから、アワビ並みというのは理屈ではわかるが、本当に美味しければ、獲り尽されていそうなものだ。
 もっとも、アワビとヒザラガイはもともと好敵手だが、結局、アワビが覇権を握ったとの話を漁師から聞いた覚えがある。アワビばかりだったから、わざわざヒザラガイに目がむかなかったという可能性も無いとはいえないが。

 ともあれ、吸盤のような薄い身だから、圧力鍋で柔らかくなるまで煮ない限り、食べずらいのではないか。干すとか、焼く方法もあるだろうが、処理は面倒そうである。
 もし食べるなら、大きくなったものより、生まれたばかりの小さいものが、柔らかくてよいと思う。
 などと言うのは、すべて勝手な推測にすぎない。

 どうも、試食する勇気が湧かないのである。

 --- 参照 ---
(1) “磯遊び” http://www11.ocn.ne.jp/~igyou/dehedehe/utiwake/2001/iso.htm
  ヒザラガイは軟体動物だが「巻き貝の仲間」ではなく, もっと古い種である.
(2) 山下欣二「海の味 異色の食習慣探訪」八坂書房1998年
  http://www.yasakashobo.co.jp/books/detail.php?recordID=118

 --- 分類について ---
軟体動物の系統分類はどうも今一歩しっくりこない。そのうち、変わるかもしれない。
ヒザラガイは「多板類」。生きている化石と言われる「単板類」の親類らしい。
両者ともに、先に口があり、体には節がある。環形動物から進化した形態だ。
他の軟体動物は、皆、節を失っている。そして、殻が発達すると、貝になる訳だ。


 「魚」の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2006 RandDManagement.com