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魚の話  2007年7月27日
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ひじき の話…


 防人の 子を恋ふ歌や 鹿尾菜刈る 藤原守幸
     [NHK俳句王国 2005年5月21日放送 有馬朗人選](1)


 伊勢物語の三段には、“おとこ”在原業平と、“二条の后”こと藤原高子の、有名な出会いのシーンがある。驚いたことに、この恋愛話にヒジキが登場する。
 ご存知のように、その後の四段でも、この恋はなかなか成功しない。だが、五段では、ついに愛し合うまでに。ただ、周囲がこの恋を許さない。そこで、六段では、駆け落ち。残念ながら大失敗に終わる。そこで、七段から先は業平の東下り。一方、高子は帝に仕えることとなる。
 三段を引用してみよう。(2)

 “むかし、おとこありけり。
 懸想じける女のもとに、ひじきもといふ物をやるとて、
   思ひあらば 葎の宿に 寝もしなん ひじきものには 袖をしつゝも
 二条の后のまだ帝にも仕うまつりたまはで、たゞ人にておはしましける時のこと也”

 「ひじき藻」を除けば、この話はよくわかる。
 愛しているとの思いがあるなら、雑草が生えている所で寝てもかまわぬ。袖を敷いても十分という主旨の恋歌で、気を惹こうとした訳である。 だが、一体、どういう訳で「ひじき藻」を恋人に贈ったのだろう。さっぱりわからぬ。
 現代的に解釈すれば、超高額食料品のプレゼントで、気持ちを表現したとなるが。

 ヒジキはホンダワラの仲間であり、縄文時代から食用にされていたから、珍品とは思えないのだが、当時の状況は違っていたということのようだ。
 どうも、支配者階級だけが食べることができる海藻だったようである。伊勢から朝廷に海藻が献上されていた位なのだ。
 現在でも、その慣習は続いており、伊勢神宮では大御饌祭(お食事)で2日に一度の割合で供されているそうだ。(3)

 そんなことがわかると、納得感もでてくる。
 なにせ、業平は天皇直系で、毛並み抜群。政争から離れて、恋と歌の世界に生きる美男子だ。
 一方、高子の方は、なんとなく生臭さを感じる。出自がはっきりしない藤原氏の家系だ。藤原氏は、飛ぶ鳥を落とす勢いとはいえ、ヒジキを食べることができる地位には上っていなかったということだろう。住んでいる敷地には、雑草が生えている位だし。
 帝の地位を諦めている業平と、后になる高子という、二人の人生の対比を感じさせる情景の小道具が、ヒジキ藻の贈り物ということなのだろう。

 そんな高貴な海藻だったが、いつのまにか庶民の食材化した訳である。
 そして、今や、健康食材。
 言うまでもなく、ほとんどが輸入品だが、輸出元の韓国や中国では滅多に食べることはないそうだ。

 --- 参照 ---
(1) http://www.nhk.or.jp/haiku/html/haiku17-5-21.htm
(2) http://homepage2.nifty.com/toka3aki/ise/ise_a.html
(3) http://www.hijiki.org/html/content02.htm


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