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魚の話  2017年9月30日

いどみみずはぜ の話

$ 暗闇を 生き抜く力の 鮮烈さ
     井の中の鯊。

井戸水ハゼと読み間違えそうな名前だが、蚯蚓ハゼの仲間である。
棲んでいるところが、井戸のような場所ということ。

蚯蚓ハゼは文字通り、ミミズの形状。要するに、体躯が円筒状であり、鰭がすべて小さく目立たないということ。
かつ、粘液を分泌しているから、確かによく似た特徴を供えている。
ただ、頭の格好は違うとは言え、ミミズには目が無いのだから、常識的にはドジョウ的と言うべきだろう。

この仲間は数が多いが、変種や、見かけだけ違う同一種の可能性もなきにしもあらず、と言うのが素人の見方。
いくつかピックアップするとこんな具合。・・・

《Gobionellinae》
 ○Luciogobius
  蚯蚓鯊/斑點竿鯊 or 竿蝦虎魚/Flat-headed goby
  大蚯蚓鯊
  南姫蚯蚓鯊
  湧水蚯蚓鯊
  鬚蚯蚓鯊
  井戸蚯蚓鯊/Blind flathead goby
  洞窟蚯蚓鯊
  眠蚯蚓鯊
(分類参照) JODC(日本海洋データセンター)GODAC/JAMSTEC

蚯蚓鯊は、汽水域に棲息するとされるが、それは正しいとはいえ、的確な解説とは言い難い。通常のハゼのように始終底面を動き回るタイプではないから誤解が生じ易いのである。

体躯の特徴から見て、穴や石の隙間に潜り込んで生活していると考えるのが自然である。そうなると、汽水域なら泥に穴を掘って隠れる類と似ていると思ってしまう。しかし、この手の種が大いに好む隠れ家のイメージとしては、それは拙い。
と言うのは、普通、汽水域といえば川からの淡水が海水と混じりあう場所だが、蚯蚓鯊にとっては、その状態がベストという訳ではなく、淡水リッチの場所を選ぶことで独自の生活圏を形成しようということのようだから。
つまり、汽水域と言うより、地下水が湧きだす河口付近に棲んでいるということ。陸水が入りそうな潮間帯でもよいのである。

この辺りの習性を理解すると、種全体の特徴が見えてくる。
一言で言えば、ニッチを探し出そうと必死なのである。そこを理解してあげなければ。

なんといっても分かり易いのが、井戸蚯蚓鯊。井戸棲より重要な特徴があるのだが、それは英語の名前を見れば一目瞭然。
日光が入らない場所で棲息するから、目が退化している訳だ。従って、井戸といっても、開けた井戸ではなく、陽が差し込まないが、清らかな淡水がある場所ということになろう。
つまり、地下水が流れている閉鎖空間という、尋常の生物が毛嫌いしそうな環境で生き抜こうと決意した種なのである。
洞窟蚯蚓鯊も類似の体質と見てよかろう。
もちろん、世界を見渡せば、ハゼでなければ、そんなタイプの魚は各種存在し、Cavefishと呼ばれており、不思議動物紹介番組のネタに使われるので比較的よく知られている。
ただ、日本では珍しい。おそらく、この系統だけ。

陽光が届かない地下水のなかで生活している訳だが、そんな環境でも微小動物は蠢いているから、それを餌としてどうにかこうにか暮らしているという姿が目に浮かぶ。

それにしても、ハゼ君の旺盛なニッチ探しと、適応能力の凄さには恐れ入る。

(参照) 道津喜衛 :「ミミズハゼの生活史」九州大學農學部學藝雜誌16(1), 1957年

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