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魚の話  2017年11月20日

びりんご の話

林檎良し
魚も
良ければ
飯旨し


話が弾み、
ご飯も進む。


美林檎と思ったが、意味不明の漢字があてられている鯊がある。
  微倫吾[ビリンゴ]

外国語の音を当てた文字と思いきや、どうもそうではないようだ。と言うことは、どこかの、地場の言葉が発祥なのであろう。

素直に考えれば、ビリのゴリだろうが、それなら、そのような話があってしかるべきだと思うが、語源の話はさっぱりでてこない。
そこで、小生は、ビ[=尾=尻鰭]リン[凛]ゴリ[=小魚]と推測してみた。美しいか否かは甚だ主観的な評価だが、一般的にはこの手の魚は余り美しくはないと見なされる。ところが、そのような魚が凛として泳いでいるので、名付けられたというストーリーだが、どうか。

この魚、川の下流に棲息する淡水種とされている。しかし、河口の砂泥底域でよく見つかる種でもある。底魚ではないから、わざわざそんな場所に出向くのは、そこらが産卵場所の可能性が高い。もしも、そうだとすれば、早晩消滅せざるを得ない種と考えてよさそう。ビリンゴ君お求めの環境は僅少なのは明らかだからである。
つまり、産卵は海水から淡水へと変る辺りで、孵化すると幼魚は海に出て育ち、やがて淡水の流れの緩やかな水域で生活するという一生。海底から離れ、川へと進出した一群と見てよいだろう。

この「鮴」だが、川底の石の下に隠れて休んでいるハゼ体型の小魚を指すと言われている。
その読みはゴリにされているが、こちらの言葉の由来についての記載は滅多に見かけない。五里とか、擬声語のゴリゴリから来ているとの創作話があってもよさそうなものだが。

「鮴」は、勿論、国字。
マイナーな魚のために文字が作られた理由ははっきりしないが、この文字の使用頻度はそれなりに高いらしく、パソコンの標準装備語彙だ。そうなると、これはゴリのお蔭とは考えにくかろう。瀬戸内海芸予諸島の大崎上島の鮴崎(造船業や金属精錬業などで栄えた地域)という地名を記載するために必須というだけの話と考えるしかない。ところが、この場合、読みは、なんとメバル。鯊とはなんの関係も無い。
もう一つゴリがよく使われるのが味噌汁名。小魚は貴重な蛋白源だったろうから、ゴリ汁に馴染んできた地方はかなり多そう。もっとも、今では観光用料理と化してしまったが。ところが、この場合も、鯊系の魚ではないのが普通。カサゴの仲間である鰍[カジカ]なのだ。骨ばった小魚と牛蒡と一緒だから、ゴリゴリするということでの呼び方かも知れぬ。

こんなことを知ると、鯊の仲間の小魚をゴリと呼ぶようになったのは、比較的新しい可能性もあろう。
佃煮名産の魚として喧伝した結果かも。
もともと、佃煮は江戸の佃島発祥であり、その真似が全国各地に広まったもの。佃島の魚とは違い、淡水魚ならではの美味しさがありますゾとのキャッチフレースを考え出したのだと思う。大宣伝が奏功した結果が、「ゴリ押し」という言葉の定着。(今でも、棒で川底石を動かして小魚を追い出し、底引きの網を強く引いて獲る漁法との説明は至るところで見かける。)

それはそうなのだろうが、分類学の名称で眺めて見ると、ゴリという名称は、ウキゴリの仲間の魚にしか使われていないことがわかる。
  浮鮴[ウキゴリ]

浮いているゴリということで、川底棲ではないことを示している訳だ。にもかかわらず、肝心の石の下にいそうなハゼの小魚の方は、ゴリの名前を一つもつけてもらっていない。このことは、それほど広くは、ゴリの名前が通用していなかったことを意味していそうだ。カジカの別称の方が一般的と判断したのではなかろうか。
してみると、ゴリは鮴ではなく、吾里と書いた方がピッタリくるのでは。我故郷土着の魚であるということで。

ウキゴリの仲間であっても、ゴリを名称に組み入れてない、冠地名の種もあるのも、一貫性を欠き、素人にははなはだわかりにくい。
  江戸鯊
  宍道湖鯊
  筑前鯊

江戸といえば、真鯊という気分になるが、地場種もある訳だ。
要するに、ハゼとは、現行生活スタイルが気にいってしまうと、すぐに地場種として進化を始める体質があり、そのスピードはえらく速いのであろう。
浮鮴にしても、極めて似ている3種がある訳で。
  細小魚
  縞浮鮴
  墨浮鮴

ところで、現代でも、浜離宮恩賜庭園の潮入の池でのハゼ科魚類調査によれば、マハゼ、ドロメ、チチブが8割近くを占める。ウロハゼもトレース的に存在。
実は、それ以外の、2割強がビリンゴなのである。目立たないが、浮鮴、江戸鯊だけでなく、お仲間の種も棲んでいるようだ。
  肉鯊
  墨浮鮴
[村瀬敦宣,他:「東京湾の浜離宮恩賜庭園潮入の池と高浜運河に出現するハゼ科魚類」神奈川自然誌資料28,2007年]

このことは、古代、海岸のそばに定住した日本列島の海人は、真鯊より、こちらに馴染みがあった可能性も。
そう思うのは、真鯊と赤鯊は天麩羅用の食材であるが、小魚鯊の場合は天麩羅にはしないが、佃煮にして食べるからだ。古代に天麩羅などあろう筈はなく、土器を用いた煮魚料理ならこの手の魚が絶品だったに違いない。そんな食文化の名残が佃煮として復活したと見ることもできるのではないか。
蛋白質源としては、実に有り難い訳だし。
内湾浅所の味藻[甘藻]地帯で海中遊泳してい種の名前にその感覚が出ている。上記の肉鯊である。
この種は、浜名湖近辺では、別名、腹白ブシと呼ばれており人気の佃煮食材と言われている。

ウキゴリの仲間のほとんどは、写真を見ると、ハゼ的な扁平頭ではなくどちらかといえば縦型である。にもかかわらず、口だけは大きい。底を動く生物をパクリなのであろう。

と言うことで、"真鯊、等が所属するグループ"なので、こんな感じになる。(素人作成なので、間違いが多いことを前提に眺めて頂きたく。)・・・

[Rhyacichthyidae]・・・古代的様相 ツバサハゼ類
[Odontobutidae] ドンコ類
[Eleotridae] カワアナゴ類

↑無吸盤(左右胸鰭分離型)の淡水棲息系

[Gobiidae]【ハゼの主流】
《Amblyopinae》・・・藁素坊、等が所属
《Gobiinae》・・・鬚鯊、等が所属
《Gobionellinae》・・・真鯊、等が所属
│ - 吾里群 -
│  ○Gymnogobius・・・ウキゴリ類
│   浮鮴[ウキゴリ]/Floating goby(urotaenia)
│   細小魚[イサザ]/Biwa goby(isaza)
│   微倫吾[ビリンゴ]/Chestnut goby or Biringo(breunigii)
│   数珠掛鯊(castaneus)
│   煙管鯊(cylindricus)
│   肉鯊(heptacanthus)
│   江戸鯊(macrognathos)
│   縞浮鮴(opperiens)
│   墨浮鮴(petschiliensis)
│   窪鯊(scrobiculatus)
│   宍道湖鯊(taranetzi)
│   筑前鯊(uchidai)
《Oxudercinae》・・・跳鯊、等が所属
《Sicydiinae》・・・坊主鯊、等が所属

↓擬似ハゼ
[Schindleriidae]幼魚体型類
[Ptereleotridae]ダーツ体型類
[Microdesmidae]蠕虫[wormfish]体型類
[Kraemeriidaechinn]チンアナゴ的体質類
[Xenisthmidaeリグラー[wriggler]的体質類
(分類参照) JODC(日本海洋データセンター)GODAC/JAMSTEC

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