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海老/蝦の話  2013年2月23日
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エクルビスの話…

 目に毬藻 内田蜊蛄 活火山 北海道観光産業用の一句

もちろん、エクルビスはécrevisseだからフランス語。フランス料理に、ザリガニでは体裁が悪いから、もっぱらこの用語が使われる。アメリカザリガニだと余りに知られていて、価格がとれなかったからでもあろう。エクルビスとして、高級海老価格にしなければ、市場が小さすぎて業者が採算割れになりかねなさそうな感じがするし。今は、イタリアンも使うのだろうから、その市場、どこまで大きくなったやら。

それなりの季語なら、そろそろ名称を淡水ロブスターにして廉価にしたらどんなものだろう。そうすれば、市場も広がるのでは。甘いか。

・・・と考えていたら、現在のエクルビスはアメリカザリガニではないらしい。北海道中心にウチダザリガニが使われているようだ。どうせ阿寒湖や洞爺湖の観光用だと思うが。オーストラリア辺りからのスキー客なら、ウケそうな気もするが、高級フレンチ路線が当たっていると見るべきかな。

このザリガニ、知る人ぞ知る種のようだ。日本の侵略的外来種ワースト100に選定されているからである。すでに体躯が大きなアメリカザリガニだらけの上に、さらにその上をいく強者の登場で、ニッポンザリガニ君、ついに崖っぷち。でも、そんなことより、鋏が大きくて強そうな種だから、水草の根を切ったりすることによる環境激変の方が大きな問題になりそう。ことは、水辺全体に及ぶから。もっとも都会では、そもそもザリガニ自体が棲めない状況だらけ。生きている世界といえば、マンションの水槽中というところではないか。なにせ、ザリガニの餌なるものが売られているのだから。
このザリガニ、種の同定をした北大の先生の名前を冠にしているが、「内田蜊蛄」と書かれてしまうと日本に古代から住み着いていそうな感じがしてくる。

ここら辺りで筆をおくつもりだったが、ウチダザリガニとわざわざ命名したくらいだから、他とはかなり違う生活スタイルかも知れぬと考えて本を読んでみたら、案の定というか、こやつなかなか手強いのである。
分布はだいたいこんなところ。
  ・アメリカザリガニ: ほぼ本州全域(能登半島域だけはどういう訳か未進出)
  ・ニッポンザリガニ: 北海道と青森県北部、秋田と岩手はスポット的に存在
  ・ウチダザリガニ: 北海道にスポット的にかなり進出(福島県、長野県、滋賀県にも)
これだけだと、ほー、そうかで終わるのだが、この3種の競合状況は並の対立とは違うらしいのである。

本州はご存知の通りアメリカザリガニだらけ。水草や出くわした死骸を食べるが、その好適地は水田である。作物の根を痛めないなら大目に見てもらえることになる。天敵は鳥とウシガエルだそうである。ところが、ニッポンザリガニは、もともとこのような場所は苦手らしい。広葉樹林が生い茂る、水深が浅いというか、水際辺りに棲家を求めるという。鳥や魚に襲われない場所でひっそりと生きてきたことになる。しかも、食性が全く異なる。腐葉(バクテリア)が付着した落葉を好むというのだ。貝や山椒魚等とも一切争うことを避け、平和共存をモットーにしている訳だ。つまり、アメリカザリガニ追い出されたというより、樹林帯の開発が進んでしまい、生きていく場所がなくなったということのようだ。北海道には生きることができる余地が比較的残されていたというだけのこと。
問題は、そこにウチダザリガニが侵入してきたこと。こちらは攻撃的なようだ。水草はもちろん食べるが、貝やニッポンザリガニも餌とするのだから、一大事。天敵はニジマス。おそらく、魚は獲られる一方で、ザリガニは放置だから、急激にウチダザリガニ増殖という状況なのだろう。実際、北海道では、その進出ぶりは目立つらしい。これをなんとかせねばということで、環境教育に力を入れようとの運動が始まっているそうである。

(本) 川井唯史:「ザリガニ―ニホン・アメリカ・ウチダ」 岩波科学ライブラリー 2009年


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