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水母の話  2018年3月11日

すなあいヒドラ の話

 球形の 多足ロボット にも似たり

"ポリプ体"のヒドラ、"クラゲ体"の水母と言われれば、様々な形はあるとはいえ、それなりにイメージができあがっているが、"アクチヌラ体"と言われると全くの白紙状態。
(ヒドラの漢字表記は水だが、水母と違って読める人が少ないだろうから片仮名で記載した。)
解説があるといえばあるが、素人が読んでもどうもピンとこないし、検索しても情報量が余りに少ないので、さっぱり理解が進まない。
概念形成には、この写真を眺めるのが一番の早道かも。
[→photo](C) 山下桂司,他;「クダウミヒドラ幼生の着生行動」
@伏谷着生機構プロジェクト[戦略的創造研究推進事業ERATO]
(参考) 山下桂司:"Studies on Settlement and Metamorphosie of Actinula Larvae of the Hydroid Tubularia mesembryanthemum"学位論文内容要旨@東京大学


1mmに達しない小さな生物である。

写真では口はあるし、その反対側には柄ができてくるためのなんらかの組織がありそうだがこそれほどはっきりしている訳ではない。
ただ、なんといっても特徴的なのは、球径の約3倍の長さの細いロッドが10本ほどとびでていること。

奇怪と言ってもよいと思うが、それは、プラヌラと違って繊毛のような運動器官が無いからだ。細い棒のような触手ではオールの用にはなるまいということで。これでは流されっぱなしではないか。しかし、触手を縦横無尽に動かしていそうだから、なにか工夫があるのかも。

実際、観察記録によれば、誕生直後の"アクチヌラ体"は触手を振り動かして水中を泳いでいるらしい。細棒と侮るなかれ、十分に水の抵抗力を得ることに成功しているのだ。表面張力のアメンボ同様に、力学を考えた造作になっている訳で、比重も海水に近く、水中に浮かぶ塵のように十分小さいから可能なのであろう。

そして、底に到着する。しかし、そこから"ポリプ体"への変身を始める訳では無い。根を出しそうな部分に吸着機能の組織はありそうなのに。とりいあえず、真逆の体勢をとり、口と触手で底面に付着しながら、移動を開始するのである。
口の周囲に触手が出てこない理由はココにありそう。口で底面を噛むことで、一時的に姿勢を保ち、触手を使ってゴロゴロと移動したいのだ。その観点では、実によく考えた造りである。(もちろん、最適場所をどのように認識するのかは、全くわかっていない。)
そして、お好みの場所に到達すると、体の体勢を入れ替え、そこで初めて固着を図ることになる。口は上向きになり、食餌に集中することになる。

この姿、どう見ても、"ポリプ体"でもなく、"クラゲ体"でもないが、"ポリプ体"の円筒あるいはドラム缶な形状に近いとはいえよう。ただ、口の周りに触手がなく、体躯の周囲から触手が出ているということになろう。
ヒドラのことであるから、その程度の変態は御手のものと見るのが自然。

さて、それでは、この"アクチヌラ体"はどのように解釈されているのだろうか。

ウエブの情報が少なすぎてなんとも言えぬが、遊泳する訳だから、もともとは"クラゲ体"と考えるのが自然。
珊瑚や磯巾着のように固着して生活する体質は具えている筈で、そのような生活スタイルで生きている時の姿を"ポリプ体"と呼ぶにすぎまい。
当然ながら、移動にエネルギーを使わず、もっぱらクローン的増殖に励むのが効率が良いことになる。しかし、強敵が棲み付いたり、辛い環境変化が訪れたりすれば、一挙に絶滅の可能性に直面する。従って、それに対応すべく♂♀生殖で進化を加速させると共に、漂流して異なる環境に移動しようと図ると見て間違いないだろう。両者の中間体という指摘はナンダカネと考える由縁である。

しかし、どう見ても違うボディプランなのである。

だが、素人的には難しく考える必要はなさそう。棲み方が違うと考えれば当たり前の変化に思えてくるからだ。それがわかる種がある。
  砂間[スナアイ]ヒドラ
環状に並んだ10本の細長い触手があるものの、体全体としてはポリプ型とか。触手環の間には平衡胞があり、触手による自律的な運動をこの器官が指示しているのかも。ヨーロッパ各地の沿岸に多いようだが、日本列島にも棲息。[「日本大百科全書 ニッポニカ」小学館]

ヒドロ虫【アクチヌラ】系のハラモヒドラ類に属すとされる種だが、生涯にわたって"アクチヌラ体"をとり続けるということで、他とは別途の集団とされている訳だ。
それでは、どのような生活をしているかといえば、海底の砂粒の隙間で活動しているという。ただ固着性ではなく完璧な移動型である。
そうなると遊泳する底棲のクラゲと似ているかに聞こえるが、底での微妙な移動ができるか否かで考えると全く別なタイプである。砂間君は、細棒状の長い触手を利用して底を這いまわることができる訳だ。刺胞は紐付きの毒銛を餌に打ち込む銃の役割ではなく、碇を底に沈める発射装置として使われているのであろう。
底に付着しつつ芋虫的に移動するとか、底棲みだが遊泳で場所をかえるクラゲもいるが、この種は触手を足的に用いて歩行しているようなもの。このような方法でないと、砂の間隙の出入りができないのだと思われる。クラゲの仲間での、ニッチ的棲み分けの究極かも。

"アクチヌラ体"に賭けている種は、ヒドロ虫【アクチヌラ】系として分類されるが、ライフサイクル上で"アクチヌラ体"を経由するだけのタイプはヒドロ虫の他の水母の仲間と認定されることになる。

"アクチヌラ体"が出現する種は稀らしく、以下が比較的知られた種らしい。(但し、ウエブにはこの他の種の写真も散見されるから、稀ではない可能性も。)習性は、紅管海ヒドラを除けば、ほとんどわかっていないと見てよさそう。・・・
 【花水母】系《有頭:ヒドラ(Hydra)Capitata》(《Aplanulata》)
  紅管海ヒドラ
  プサンモヒドラ
ポリプにできた生殖嚢から"アクチヌラ体"を産出し、これが定着して新たな若ポリプ(Hydrula)を形成する。
 
  梯子水母
受精卵が"アクチヌラ体"となって海中を浮遊。海底を転がる如くに歩くと記載されているが、ともあれ、最終的には"クラゲ体"に変態する。

 【淡水水母】系
  アルモヒドラ

 【硬水母】系
ライフサイク上"ポリプ体"が欠落しているクループ。つまり、こうなるにすぎない。
 「卵→プラヌラ[浮遊]→"ポリプ体"[着床]→エフィラ→"クラゲ体"」
  
 「卵→プラヌラ→"アクチヌラ幼生"→"クラゲ体"」
プラヌラが独自の「口+足+触手」体に変態したと見るべきだろう。"ポリプ体"や"クラゲ体"と大きく違うのは、触手が口の位置とは無関係な体の側面から発生すること。

と言うことで、分類として、アクチヌラ一族とされている種とはどういう生物なのか素人なりに眺めてみたのではあるが、しっくりきた訳ではない。・・・

【刺胞動物/Cnidaria
花虫/Anthozoa…ポリプ型(珊瑚, 磯巾着)

Jellyfish/Medusozoa
┼┼ヒドロ/Hydrozoa
┼┼【Trachylinae】
┼┼┼アクチヌラActinulidae
┼┼┼-Halammohydridae
┼┼┼┼○Halammohydra・・・ハラモヒドラ類
┼┼┼┼┼(adherens)
┼┼┼┼┼(coronata)
┼┼┼┼┼(intermedia)
┼┼┼┼┼(neglecta)
┼┼┼┼┼砂間[スナアイ]ヒドラ(octopodides)
┼┼┼┼┼(schulzei)
┼┼┼┼┼(vermiformis)
┼┼┼-Otohydridae
┼┼┼┼○Otohydra・・・オトヒドラ類
┼┼┼┼┼(tremula)
┼┼┼┼┼(vagans)
┼┼┼-Teissier

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