表紙 目次 | 水母の話 2018年3月17日 からかさくらげ の話クラゲの♂♀生殖による受精卵から稚クラゲに成長する類を、ヒドロ虫【硬水母】と1つのグループにまとめている。生物としては、本来は当たり前の成長パターン。しかし、このクラゲの仲間だけは"ポリプ体"期間が無いとされると、コリャ水母の異端児と感じたりして。 要するに、"ポリプ体"が付着できるような場所に棲息することを止めた訳だから、外洋か海の底の方で浮遊し続けているということであろう。どの道、ロボットでも登場しない限り、深海棲息種のライフサイクル的生態の解明は不可能に近いから、その辺りは想定するしかない訳だが。 そのような場所はとてつもなく広いが、人間様にとっては馴染みが薄いから、調査は一部に留まっていると見てよいのではなかろうか。おそらく、偶々見つかった種だらけ。 と思って【硬水母】は放置していたのだが、見るとポピュラーな種も含まれている。取り上げておこう。 ⇱ 傘一本 流れにまかせ どうにでも クラゲ世界の破門者かも。 日本の黒潮沿岸に冬季打ち上げられるので、地場の人達には良く知られているという。もちろん、世界の暖海に展開している。 唐傘水母 せいぜいのところ傘径3cmと小さいが、長い筒状口柄が目立つ。おそらく、口には4つ唇状の組織が発達しているのだろう。生殖腺も4つ。細長い触手も4垂れ下がる。写真によっては見えないこともあるが、さらに4本の短い上向きの触手。 ただ、稚クラゲは柄が長い訳ではない。 冷徳利 中身が空では 価値は無い 水深1600mの種は流石に限られた調査でしか見られない。 徳利水母 8本の赤色放射水菅が透明な体躯に透けて見えるが、全体の形状は肥った徳利。 尚、同じく深海棲の赤提灯水母は、ヒドロ虫【花水母】に所属しているため、居酒屋共演にはなっていない。傘縁には沢山の短い触手があり縄暖簾か。 👺 光見て 天狗の業と 仰天し 名前が特異な種も。 天狗水母 水深300m程度の中深度棲息らしいが、傘径4cmで赤色ではなく、ほぼ透明。傘も扁平で鼻が突き出ている姿とはほど遠い。 そうなると、蛍光を放つところが天狗の術とされたのだろうか。その時は、水管が輝くが、傘の骨のように配置されていない。歪んだ曲線状で、そこに薄赤生殖器が見える訳だ。見方によっては、それが、天狗の顔のようとなるか。 ⬇ 海底で 気配を殺し 餌を待つ 深海(400〜500m)の岩に張り付いてしまい、遊泳しないと種も、この分類に該当。 底水母 傘径2cm程度で中央にドームが載っている八方放射相称形状。沢山の短い触手があるので、これで岩にしがみつくのだと思う。一方、長い触手ももっちるから、これは傘の上方で動かして餌を採取するのだと思われる。触手の数が半端ではないから、このクラゲの捕食者は大仕事になりそう。 胃腔がピンク系赤色で目立つ。 → [photo](C)JAMSTEC@JODC 深海という点では、浮遊タイプだが、2016年マリアナ海溝の水深3,700mで見つかった"Enigma Seamount"が有名。極北にも棲息しているようだが。 → "Jellyfish: 2016 Deepwater Exploration of the Marianas" by oceanexplorergov(NOAA)@YouTube2016/04/25 🔔 海の鐘 どう揺れるかは 潮次第 写真からすれば、確かに釣鐘型傘だが、名前が重すぎる。 極小硝子風鈴としたいところ。 釣鐘水母 径は10mm強で高さはその2倍という小さな体躯。 舌としてぶる下がるのは、8本の微小なソーセージ型生殖腺。 傘扁には沢山の短い雄蕊型の触手。先端はは刺胞の塊なのだろう。 形状からみて、かなりのスピードで一方向に水を噴射する能力がありそう。 北洋の中深度棲息と言われている。 さて、【硬水母】のトリ。 虹色を 捉えたくても それは無理 いかにも美しげな名前の種。 虹水母 円錐形傘で径3cmというところだが、5cmに達することもあるようだ。 珍しくもないと言うか、"widespread and abundant"な種らしい。但し、それは深海(500〜1000m)ではという但し書きがつく。あくまでも、研究者にとっての話。 従って、"typical"な硬水母と見なされている。"ポリプ体"を経ずに、孵化した卵が直接的に"クラゲ体"になることがわかっているからだろう。 素人からすれば、この種の一番の特徴はその触手。体躯からすれば比較的太い紐のような形で、32本ある。 問題が発生すると自切して逃亡。結構、自力で泳げるのである。 しかも、その尻尾は発光するという。蜥蜴が、自切尻尾が動いているのに気をとらえる捕食者からスタコラさっさの図と同じらしい。 と言うことで、写真の姿が本来の足の長さを示しているとは限らない。ヒトが採取すれば、足無しクラゲだったりして。 発光はバイオルミネッセンスと書かれているから、ルシフェラーゼ系酵素反応なのだろうか。かなりの深海だから紫外線を用いる蛍光蛋白質は使えないだろうし。 本体の写真は、たいてい虹色に輝いているが、光をあてると輝くと記載されているから、その正体は蛍光発光ではなく、当てた光の干渉色と思われる。 8本ある放射水菅内壁にある生殖腺あたりから発光しているようにも見えるが、表面の筋肉的な部分に繊毛的な構造があり、そこから発生していると考えた方が自然である。 と言うことで、ヒドロ虫【硬水母】をざっと眺めた訳である。 【刺胞動物/Cnidaria】 ┌花虫/Anthozoa…ポリプ型(珊瑚, 磯巾着) ┤ └Jellyfish/Medusozoa ┼┼ヒドロ虫/Hydrozoa ┼┼┼【Trachylinae】 ┼┼┼◆硬水母Trachymedusae ┼┼┼-Geryoniidae ┼┼┼┼○Geryonia・・・オオカラカサクラゲ類 ┼┼┼┼┼大唐傘水母(proboscidalis) ┼┼┼┼○Liriope・・・カラカサクラゲ類 ┼┼┼┼┼唐傘水母(tetraphylla) ┼┼┼-Halicreatidae ┼┼┼┼○Botrynema・・・トックリクラゲ類 ┼┼┼┼┼徳利水母(brucei) ┼┼┼┼○Halicreas・・・テングクラゲ類 ┼┼┼┼┼天狗水母(minimum) ┼┼┼┼○Haliscera・・・トゲナシテングクラゲ類 ┼┼┼-Petasidae ┼┼┼┼○Petasiella・・・ボウシクラゲ類 ┼┼┼-Ptychogast ┼┼┼┼○Ptychogastria・・・ソコクラゲ類 ┼┼┼┼┼底水母(polaris)@深海底棲(400〜500m) ┼┼┼-Rhopalonematidae ┼┼┼┼○Aglantha・・・ツリガネクラゲ類 ┼┼┼┼┼釣鐘水母(digitale) ┼┼┼┼○Aglaura・・・ヒメツリガネクラゲ類 ┼┼┼┼○Amphogona・・・フタナリクラゲ類 ┼┼┼┼○Arctapodema・・・ヒゲクラゲ類 ┼┼┼┼○Benthocodon ┼┼┼┼○Colobonema・・・ニジクラゲ類 ┼┼┼┼┼虹水母/Silky medusa(sericeum) ┼┼┼┼○Crossota・・・クロクラゲ類 ┼┼┼┼┼"Enigma Seamount"(norvegica)@北極海700m ┼┼┼┼○Pantachogon・・・フカミクラゲ類 ┼┼┼┼○Persa ┼┼┼┼○Rhopalonema・・・イチメガサクラゲ類 ┼┼┼┼○Sminthea ┼┼┼┼○Voragonema・・・タツノコクラゲ類 「魚」の目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2018 RandDManagement.com |