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「新風土論」
2015年8月19日

「草原の道」族の言語の特徴

草原の道で、勃興し、あるいは消失した民族は様々。一般的に言えば西側から、<チュルク系[トルコ,突厥]>、<モンゴル系>、<ツングース/満洲系>になる。これをアルタイ山脈当たりに祖族が存在したことを示唆するが如くの名称で一括りにする場合が多いが、ユーラシアの「草原の道」族とした方がよかろう。馬と鉄製武器で国家を樹立してきた人々ということ。

まあ、小アジアは原住民の言葉ではないのは自明だから、これらは語族的にまとまっており、アルタイ山脈辺りが発祥と見たくなるのはわかる。実際、「草原の道」族は東西に進出したという話もあるようだし。・・・「大昔、キルギス人(チュルク系)と日本人が兄弟で、肉が好きな者はキルギス人となり、魚を好きな者は東に渡って日本人となった。」(松宮大臣政務官平成16年4月22日@キルギス大使館) (小生は、反露・反漢感から、日清日露戦争を見て急に同族意識が芽生えた結果と見る。宗教的に異なっており、日本に関する知識が一般に流布する根拠が他に考えられないからである。)

しかし、「アルタイ」で一括りにするのはあまりに強引と言わざるを得まい。
これに限らず、語族論は恣意的になりかちだから要注意である。インド北部・ペルシア(イラン)の古語から語彙的に系譜が辿れ、構文的にも繋がりが読み取れるなら、語族と言えるが、系譜を示す証拠が乏しいのならまとめる必要はなかろう。

よくある説明は、すべて、「膠着言語」であるとの説明。小生も成程感があったが、よくよく考えると、こんな観点での類似性など、たいした意味はなさそう。しっかりした構文的文法を嫌うなら、そうするしかないからだ。

構文的文法が必須なのは、書き言葉の「経典」で部族を統一したい時だけ。文法的に語順が決められると、自動的に非「膠着言語」化するにすぎまい。従って、経典民族化していないなら、そんな面倒なことをする必要は無い。民族内で完結している生活なら、口承で十分であり、無文字のママで結構ということ。
しかし、文字の民の文化を吸収する必要がでてくるとそうはいかない。交流のためには自国語の表記もせざるを得なくなる。当然ながら、渡来文字を使うことになる。これ以外の文字を生み出したところで、独自経典がある訳ではないから、たいした意味はない。従って、自分達の話言葉の文字化に向かなくても、それほど気にかけないのが普通。もともと、到来した言語の書類を読みたいのだから同一文字にしたくなる訳だし、従属化させられていたりすれば、それはほとんど強制される訳で。
つまり、地理的に隣人で、「膠着言語」だからといって、同一語族であるとの見方は捨てるべきだと思う。

実際、日本列島だけでなく、台湾高地民族、フィリピン(タガログ語)、インドネシアでも、「膠着言語」が主流の筈である。小生は、もともとは、経典を嫌っていた民族で、高度な文化が押し寄せて来たことに対応する必要から、姿勢を転換したのだと思う。
文字文化が到達が遅かった、アフリカ南部も「膠着言語」だらけでは。
この言語の優れているのは、他言語の単語をそのまま取り込めることである。従って、交流が生まれると、単語は一気に倍増したりするが、言語的には安定しているので混乱は生じない。余りに増えたり、多義化で誤解が増えたりすれば、死語化させるだけのこと。
日本語のように、多義化を容認というか、雑炊的に多言語ミックスを意図的に進めるタイプもあるが、おそらく特殊。雑種民族を目指していた類い稀な国だったことがわかる。

要するに、「膠着言語」とは、文章に於ける単語の位置関係はどうでもよいという柔軟性を持てる言語ということでもある。そのためには、接尾語で各単語の位置付けがわかるようにしているだけ。
但し、「草原の道」族の場合、騎馬主導の生活であることからくる特徴が加味される。集団説教的な場でのプリゼンテーションより、一対一での走りながらのコミュニケーションの方が重要だからだ。このため、いくつかのルールが生まれる。と言っても、柔軟性ある言語だから、本来的には絶対的なものではないと思われる。
 <音>
 ・文章の頭の曖昧発音を避ける。
    巻舌「R」文頭禁忌。(たぶん、「ん」も嫌われる。)
 ・単語としてのまとまりを感じさせる発音に拘る。
    母音は類似音だけにする。
 ・音の高低をできるだけ少なくする。
    高低音の差による異義語を作らない。
 <構文>
 ・メッセージの肝は最後に伝える。
    状況を示す単語を並べた後、述語で〆る。
 ・先ず、名詞を並べ、互いの認識を一致させる。
    名詞の修飾語は前につける。
 ・複雑な文章は避ける。
    関係代名詞は使わない。
 <単語>
 ・単純明瞭を旨とする。
    性等による変化や、複雑な活用を抑制する。
具体的には、母音を、音を出す際の唇の形が円いか否か、口腔内の舌の先か付け根か、で4分類とのこと。同一単語内での使用を避けるらしい。万葉集などの漢字による発音表記で、そのような扱いが見つかっている。尚、朝鮮半島のハングル使用は極めて新しく、それ以前の支配層は中国語を使っていたに違いなく、古代の歴史資料は無いに等しいから、朝鮮半島の古言語の話は空想に近い。
ここは重要だから、しっかりとおさえておきたい。
対馬海峡を隔てるだけであり、細部は不明とはいえ、上記のような観点ではまさにソックリな2言語であり、繋がりがあると見ると、当然ながら、それは「草原の道」族ともほぼ類似ということになる。従って、両者はアルタイ語族であるとの見方が消えない訳である。
しかし、半島から多くの貴族が半ば亡命のようにして渡日しているほど交流が深かったにもかかかわらず、基礎語彙で見れば、類似点は皆無に近い。
従って、同一語族と判定するのは、恣意的な見方と考えてよかろう。

そうだとすれば、騎馬民族以外でも、上記のようなルールを生み出すことは有りえることになる。

「草原の道」族を考える際の決め手は、朝鮮半島をどう見るかが鍵を握っているともいえよう。そこらは別稿で。

---アルタイ語族---
<最西チュルク系>
●トルコ(表記文字:ラテン)
●アゼリー@アゼルバイジャン+イラン(表記文字:キリル,ラテン化か?)
<南西チュルク系>
〇トルクメン@露(表記文字:アラビア→ラテン→キリル)
<北西チュルク系>
〇タタール@露+[飛び地:クリミア,北欧]
●カザフ/キプチャク(表記文字:キリル)
●キルギス(表記文字:キリル,中国-新疆ウイグルはアラビア)
<南東チュルク系>
●ウズベク(表記文字:キリル)/チャガタイ
〇ウイグル@中国新疆+露(表記文字:アラビア.キリル)【Common】
<シベリアチュルク系>エニセイ川以東
〇トゥバ,ヤクート
<モンゴル系>
●モンゴル@モンゴル国〜モンゴル自治区+露
〇ダウール/達斡爾@モンゴル自治区〜新疆ウイグル
〇ブリヤート@露
〇東郷,甘粛,裕固@甘粛
〇康家.土@青海
〇オイラト@青海〜新疆
〇モゴール@アフガニスタン-ヘラート山岳域
<北部ツングース系>森林ステップ域と見てよいのでは。
〇エヴェン,エヴェンキ,オロチョン,ネギダール
<南西部ツングース系>
〇満洲,女真,シベ/錫伯
<南東部ツングース系>
〇ナナイ,ウデゲ

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