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2003.6.5
 
 


新型抗癌剤の研究競争…

 「血管形成を阻害して癌組織を消滅させる」新型抗癌剤の話題がようやく一般化してきた。米国テレビ番組でも、化学療法剤とGenentechの「Avastin」の併用による、フェーズIII結果を伝えている。数分に渡って、American Society of Clinical Oncologyの大会で発表された、結腸/直腸癌患者の延命データを紹介しているのだから、ニュースバリューが高いのだろう。

 もちろん、肺癌に次ぐ規模の死亡数の重大疾病だから、新治療法のニュースが流れたところで違和感はないが、注目を浴びたのは医薬品株価の急上昇の方だと思う。米国では、一般の人でも、株価に関心が高いから、研究成果のニュースでも、報道価値は高いのである。
 実際、ImClone株は年初から10〜15ドルで動いていたのが、2003年6月3日終値は33.55ドルに達しており、突然2〜3倍になった訳だ。
[当該薬品:http://www.gene.com/gene/news/press-releases/detail.jsp?detail=6247 http://www.imclone.com/imc1c11.html]

 血管形成阻害剤は(Angiogenesis inhibitor)対象領域は循環器分野に当る。しかし、その応用は直接関連がない癌に適用されたのである。いわば、癌を餓死させるような発想の医薬品である。血管の研究にも係わらず、血圧や梗塞とは無関係の癌という疾病で、応用がなされたのである。ここが医薬品研究マネジメントの難しさだ。

 といっても、このアイデア自体は古いものである。(J. Folkmanが1960年代から研究していた。Tumor angiogenesis: therapeutic implications; New England Journal of Medicine, 1971)
 しかし、血管形成プロセスに含まれる作用が数多い上に、関係する物質も多種多様である。アイデアがすぐに研究企画に繋がる訳ではない。成長させる因子や、永続させる因子を選び、その働きを阻害しそうな物質を発見して、ようやく医薬品候補が生まれるのだ。膨大な仕事量である。
 医薬品研究では、ひとつの作用を検討すると、様々な用途があり得るため、研究範囲も広がり易い。領域を絞るといっても、そう簡単ではないのだ。  しかも、先を走っていても、有望との見方が広がれば、野火のように裾野が広がる。最後まで、先頭集団にいなければ、成果を得られないのが普通だから、極めて難しいマネジメントといえよう。

 血管形成阻害剤競争に参加している企業も、とう見ても数十社にのぼる。研究中の候補物質は数百あると考えて間違いあるまい。競争激甚と言ってよい。

 日本はこうした分野が苦手である。レースには参加しているのだが、滅多に成果が出ない。
 オピニオンリーダーは、この理由として、研究開発人員数や企業規模をあげることが多い。説明が楽な上、反論する人もいないからだ。しかし、ベンチャーから玉が出るのだから、この見方はおかしい。
 このことは、古い発想のオピニオンリーダーが多い、といえそうだ。旧世代の人は、未だに、沢山試せば当る、といった類の研究開発を考えているのだ。これは、変化が激しい時代に対応できない。変化を生かすなら、アイデアもスキルもスクラップ・アンド・ビルドが不可欠である。決まったパターンのなかで、スピード競争をしている訳ではないのである。

 この観点で、日本は強いのか、と問われれば、弱いと答えざるを得まい。しかし、研究者に力が無いとか、決定的な資源不足で弱体とは思えない。一番の弱点は、技術マネジメント力である。

 とはいえ、どう見ても弱体な技術分野もある。
 臨床分野である。

 薬の適用には、効果測定の基準が必要だ。もちろん、新しい薬に妥当な基準が始めからわかっている筈がない。
 例えば、抗癌剤なら、全体の生存率で見るべきか、病気の進行遅延時間を見るか、が最初に問われる。治療のタイミングを、発症初期にすべきか、進行中期にすべきかでも、重要だ。基準によって、結果は大きく変わる。単純なものではない。
 基準作りに役立つデータはほとんど無いし、ヒトで色々試して見る訳にもいかない。妥当そうな基準作りは、動物モデルでの結果と、少ないデータから、臨床研究者が考えるしかない。まさに、知恵の勝負だ。

 日本は、やり方がすでに決まっている分野は得意だが、こうした分野は苦手である。これを「創造性の欠如」と決めつける人もいるが、仕組みの問題と見た方がよい。
 日本の医療は、権威主義的なため新しい見方を潰す力が働いている。ところが、その一方で、個々の医師の裁量権を重視し、治療の標準化を嫌う。従って、臨床研究は、このような医療現場の文化から逃れられない。
 臨床研究は日本では極めて進めづらいのである。このため、新型治療薬研究では、日本は先手をとれない。


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