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2003.12.19
 
 


インフルエンザ研究への期待…

 2004年1月に「America's Fogotten Pandemic The Influenza of 1918」(Alfred W. Crosby著 1976)の邦訳版が出版される。
 書籍案内を読んで始めて知ったのだが、この本は疫病史研究者の必読書で、米国では古典的名著らしい。
  (「出版ダイジェスト」2003年12月11日号)

 確かに、そうかも知れない。
 感染症情報センターの「インフルエンザの総説」の冒頭に、1918年の惨禍の様子が記載されている。
 全世界の罹患は6億人、死亡者数は2,000〜4,000万にのぼったそうだ。日本でも1919年〜1920年の冬は、罹患者2,300万人、死者38万人を記録したという。
  (http://idsc.nih.go.jp/others/inf-soron.html)
 第1次世界大戦の最中であり、古い話だが、衝撃的数字だ。
 疫病史専門家が必読書扱いするのも当然だろう。と言うより、この本を読んで、疾病対策の世界に一生を捧げよう、と考えた研究者も多いと思う。

 しかし、この惨禍を覚えている人は僅かだろう。
 一度読めば、カミユの「ペスト」の世界を忘れる人はいないが、インフルエンザの話しはすぐに忘れ去られる。「最大級の人類の疫病」にもかかわらず、インフルエンザなどたいした事は無い、と考える人ばかりだ。
  [もっとも、それは日本の話しだけかもしれない。米国では、悪夢を忘れないようにと、PBSが教育的ウエブ「Influenza 1918」を開設している。]
  (http://www.pbs.org/wgbh/amex/influenza/)

 現実には、日本のインフルエンザ脳炎・脳症で死亡する子供は毎年100人を越えているし、流行すると、インフルエンザによる肺炎死亡数は人口10万人あたり10人を越えるという。
 2002年夏にも、マダガスカルで671名もが死亡している。
   (http://www.who.int/disease-outbreak-news/n2002/august/23august2002.html)

 「かぜ」と称されるから軽度に見えるが、危険性が高い疾病である。

 ところが、日本のインフルエンザワクチン製造予定量は、2003年度で1,445万本に過ぎない。人口と比べれば、たいした量ではない。1985年には1,700万本を越えていたのだが、1994年には僅か30万本に減り、ようやくこのレベルに復活してきた状態である。
  (http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/06/s0624-7.html)
 [尚、インフルエンザワクチンは、臨床データが得にくいからやむを得ない点もあるが、他のワクチンと比較すれば効果は極めて低い。]

 ワクチンが入手できない医療機関があり問題になってはいるが、おそらく、昨年のSARSの件が頭にあるための一過性の動きだろう。
  (http://www.asahi.com/national/update/1211/002.html)
 インフルエンザを深刻な疫病と考える人は、どう見ても少数派なのである。

 そもそも、昨年発生したSARSなど、「スペインかぜ」に比べれば、ほんのかすり傷でしかない。それでも世界がパニックになりかねなかったのだ。
 ということは、近い将来、大パニックに襲われるのは間違いない。

 歴史を眺めれば、その脅威が迫っていることがわかる。
 1918年の「スペインかぜ」は39年間続いたという。その後、1957年から「アジアかぜ」が11年間流行り、さらに、1968年から「香港かぜ」になった。ついで1977年から「ソ連かぜ」だ。

 そして、そろそろ恐怖の新型が登場してもおかしくない。

 インフルエンザは哺乳類と鳥類共通の感染症である。このため、大変異ウイルスが突然登場するし、そのマイナーチェンジ版が延々と続く。

 2003年12月には、韓国で、突然、鳥インフルエンザ(A型H5N1)が養鶏/アヒル場で発生し、地域住民への予防接種を緊急実施することになった。1997年に香港で人に感染し、大騒ぎになったのと同じタイプだ。
  (http://www.chosun.com/w21data/html/news/200312/200312160140.html)
 これでもわかるように、何時どこから新型が生まれ大流行が始まるか、誰にも予想がつかない。

 しかし、新型インフルエンザウイルス出現条件が整っている地域は中国南部地域であることは明白なのだ。密集人口にもかかわらず、住居近くで豚/アヒル/鶏を飼育している上、シベリアから鴨が飛来するからだ。
 [「香港かぜ」ウイルス(A型H3N2)の発祥元は、アヒルが感染した、シベリア渡来鴨の腸内ウイルスと判明している。アヒルの持つウイルスと、当時流行していた「アジアかぜ」ウイルス(A型H2N2)が、豚の呼吸器に同時感染して、新型が生まれたのである。]
  (http://www.cdc.gov/flu/about/fluviruses.htm)

 新型ウイルス誕生の解明が進んでいても、対抗策を立てるには、科学はまだまだ未熟である。
 今のところ、粗雑なワクチンしか提供できない状態だし、抗ウイルス剤がどうやら提供できる程度だ。頼みの綱はゲノミクス研究である。
  (R. G. Webster:“Past 50 Years of Influenza Virus Researc and It's Future”「ウイルス」 53(1) 2003; http://edpex104.bcasj.or.jp/jsv/journal/v53-1pdf/virus53-1_51.pdf)

 とはいえ、インフルエンザに関するゲノム情報は溢れるほど集まっている。
 ウイルス複製の機序も解明されてきたようだから、新規抗ウイルス剤のアイデアが求められているといえよう。
 その糸口になるような研究も行われており、成果もあがってきた。
  (例えば、・・・ http://www.pnas.org/cgi/content/full/100/4/2002)

 今のところ、こうした研究がきっかけとなり、新治療薬が発見されない限り、新型ウイルスの脅威から逃れられそうにない。

 特に、都市化している日本は感染が一気に広まり易い環境にある。しかも、発生元と考えられる中国南部とは交流が激しい。強力な新型ウイルスが発生した場合、甚大な被害を被る可能性がある。

 日本の将来は、インフルエンザウイルス研究者にかかっている、と言うと言い過ぎだろうか。


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