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2004.1.19
 
 


人工ウイルス開発のリターン…

 2003年12月に、Nature Newsが、人工ウイルス(5,386塩基長のバクテリオファージ)が2週間で作れる、と伝えたため衝撃が走った。
  (http://www.nature.com/nsu/031110/031110-17.html)

 細菌に注入すると増殖する完璧なウイルスが、簡単に製造できる道が拓けたのだから、当然だろう。こうした技術が登場することは予想されていたが、思ったより早かった。

 人工ウイルス自体はすでに報告されているが、完成には長期間かかった。作れることは証明されたが、実践的なものとは言い難かった。ところが、今度は、たったの2週間で製造できる。
 しかも、市販されているオリゴヌクレオチド(40塩基長)を、既知のPCR法を使って貼り合わせ、遺伝子配列が発表されているウイルスを作りあげたのである。特段の困難性は報告されていないから、誰でも挑戦できそうに映る。

 但し、特別な工夫がされている。
 突然変異を引き起こすことがわかっているオリゴヌクレオチド部分をカットしたのである。
  (http://egweb.bcgsc.ca/journal_club/2003_2004/pdfs/short_report_031215_synthetic_genome.pdf)

 ゲノム解析同様、あっという間に、人工ウイルス/細胞製造技術が進歩した訳だ。

 この技術が広まれば、世界中で様々なウイルスが登場しかねない。
 もともと、ゲノムの機能はわかっている訳ではないから、新しいウイルスができたりすると、どのような影響を与えるかは未知数だ。一歩踏み外すと、危険な技術になりかねない。

 2002年7月に、世界初の人工ウイルスが発表された時は、対象がポリオウイルスだったため、バイオテロの危険を感じる人も多く、成果を喜ぶより、リスクばかり語られた。天然痘ウイルスは構造が複雑なので人工合成には時間がかかるだろうが、製造可能との発言が、危機感を煽ったのである。
  (http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/2122619.stm)

 これに対して、今回の発表では、比較的冷静な反応といえる。初では無いことと、細菌にしか感染しないバクテリオファージを選んだこと、ヒトゲノム解析のリーダーの研究だったこと、などで、リスク感が低かったせいもあるが、研究目的が明確だったことが一番大きいと思う。

 これは、米国DoEのグラント(Genomes To Life)で、Institute for Biological Energy Alternatives が担当している人工微生物作りプログラムの、第一段階に当る研究なのである。
 (2002年にDoEのグラントが増額されたのは、第一段階突破が見えてきたからだろう。)

 プロジェクトの最終目標は、二酸化炭素を吸収し水素を発生する微生物の創出だ。目的は壮大だが、グラントを得るための作文ではない。
 この目的に合うようにプログラムが設定されている。たまたまバクテリオファージを対象とした訳ではないのだ。
 このプログラムに加え、進捗状況はわからないが、有望そうな海洋バクテリアのゲノム地図作りも進んでいる。こちらも、研究対象とすべきバクテリア(生息海洋地域)が実践的見地から絞り込まれている。
 こうして得られた配列に基づき、人工ウイルス作りで実用性が判明した手法を用いて、人工微生物作りが進むことになる。
  (http://www.bioenergyalts.org/news.html)

 優れた技術マネジメントといえよう。
 これなら、管理体制さえしっかりしていれば、リスクより、リターンが大きいと感じる人が多いと思う。


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