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2004.1.22
 
 


深刻化する耐性問題…

 血中のウイルス量測定限界が大幅に下がり、抗ウイルス薬のカクテル療法(3剤併用/HAART)によるウイルス量の高度な抑制が可能になった。このため、エイズ治療法が完成した、とのイメージが広がっている。

 抗ウイルス薬投与とHIVの出現状況の相関をモニターしていれば、大きな副作用を避けながら、血中ウイルス量を抑えることができる。ウイルス量を抑制すれば、エイズ発症を抑えることができるらしいから、エイズは不治の病ではなくなったとは言えそうだ。そこで、治療法完成と語られるようになった訳だ。
  (http://www.iijnet.or.jp/aidsdrugmhw/text/1aids/e/1_e.htm)

 しかし、ウイルスを撲滅するのは不可能に近い。とりあえず発症を抑え込んでいるだけの療法であり、発症のリスクを抱えていることは間違いない。
 そして、そのリスクは低下している訳ではない。耐性ウイルスが出現しているからだ。
 もしも耐性が発生すれば、カクテル療法では対処できなくなるから、発症の可能性が急激に高まることになる。
 抗ウイルス薬は数多く開発されたが、耐性に対しては無力である。この問題の解決策はいまもって見つかっていない。従って、治療方法が完成したとは程遠い状況にある。

 しかも、耐性の出現スピードが極めて速い。欧米では、すでに新規感染者の10%前後が薬剤耐性を獲得しているそうだ。治療環境が同じなのだから、日本も同レベルと見てよいだろう。
  (http://www.secretariat.ne.jp/aidsgk17/pdf/simfo_gaiyo.pdf)

 もちろん、科学の進歩があるから、解決策が登場する可能性はある。

 例えば、60個の炭素原子からなるサッカーボール状物質Fullerenes(backyball)は有望と言われている。抗ウイルス効果という点では従来の薬剤と変わらないが、球面上の化学修飾が容易なので、耐性HIVが作る酵素に発見されない新薬剤を迅速に開発し易いからだ。(副作用も少ないと予想され、服用し続けることが容易になるという利点もある。)
  (http://www.sciencenews.org/20020713/bob10.asp)

 しかし、これは、あくまでも可能性にすぎない。しかも、Fullerenesに既存薬剤を上回る機能が予見されている訳ではないから、抗HIV薬開発が優先されることはなかろう。
  (例えば、先端を走る企業の開発対象はHIVでは無い。http://www.bio-itworld.com/news/121503_report3981.html)

 こうした状況を見ていると、感染症の撲滅のハードルは極めて高いことがわかる。叩く対象の病原が変異するため、薬剤開発が追いつかないのである。

 これは、ウイルス分野だけではない。細菌性の感染症でも耐性問題の深刻化が進んでいる。

 耐性が生じるため、薬剤でウイルスや細菌を叩く治療方法に限界が見えてきたのである。少なくとも、現行の薬剤開発スキルでは耐性には対応できないと言ってよいだろう。

 特に問題なのは、抗生物質耐性菌に対して、新抗生物質開発が追いつかなくなって来た点である。感染症退治は完成したどころか、これから深刻な感染が広がりかねないのである。

 こうした状況のため、1990年代後半から、スターリン時代の治療法と呼ばれる「バクテリオファージ療法(BACTERIOPHAGE THERAPY ターゲットとする細菌にバクテリオファージを感染させて、病原細菌だけを殺そうという手法)」が復活してきた。ソ連と東欧の一部の国々だけが熱心だった古い手法である。(今も行われているが、治験データが揃っているとは言い難く、信頼性は低い。)
  (http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/298/5602/2329)

 そもそも、バクテリオファージの効用が報告されたのは、インドの河川でのバクテリア殺菌作用だそうで、1896年というから、100年も前の話である。
  (http://www.biotechjournal.com/Journal/feb2003/Page12.htm)
 (一般には、Frederick Twortが1915年に発見したと言われている。尚、命名者はFelixd'Herrelleだそうだ。)

 いくら古い手法であっても、使えるなら、価値は高い。
 特に、AIDS患者にとって致命的なVRE(vancomycin-resistant Enterococci faecium)に対して有効であれば、多くの患者を救うことができる。
  (http://www.mansfield.ohio-state.edu/~sabedon/bib_pt.htm)

 抗生物質のように幅広く効くことはないだろうから、過大な期待はできないが、細菌をゲノムレベルで直接攻撃する薬として、新しいコンセプトが生まれればイノベーション発生の可能性はありそうだ。
 但し、素晴らしい手法に期待するというより、今のところ、他に打開する道が見出せないというだけだが。

 ゲノム研究がもう一歩進まない限り、この問題の解決は難しそうである。
 感染症で社会が重大な影響を被る前に、解決策が見つかることを祈るしかなさそうである。


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