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2007.5.30
 
 


シンガポールのバイオ政策に学ぶべき点…

 “We realized that our natural resource was our people. To be in the global economy, we had to invest in people.”(1)
 アジアでは、一人当たりGDPで日本に次ぐレベルにあるシンガポールの方針である。すでに、購買力平価で換算すれば、日本を凌駕しているから、さらなる繁栄を目指すのはそう簡単ではない。21世紀に入り、成長率マイナスを経験して、それを実感しているから、本心からの発言である。
 周辺国の発展も目覚しいから、従来型産業での優位維持が難しくなるのは目に見えている。知識集約型産業で確固たる競争力を持つしかないのは明らか。のんびりしてはいられない、といったところだろう。
 日本人も一昔前は同じようなことを言っていたような気はするが、最近はさっぱり聞かなくなった。

 なんとしても厄介なのは、人を育てるのに、長期間を要する点。それこそ、100年の計。
 だが、そんなスピードでは、グローバル経済のなかでは、勝てる訳がない。従って、いかに早く、コア人材を集めるかが勝負である。核をつくり、後は、雪だるま式に人を増やす仕組みを完成させれば十分機能する訳だ。
 どう見ても、この勝負は先手必勝だから、核作り競争が始まっている訳だ。

 こんなことは自明だと思うが、日本の動きは鈍い。

 その理由を、即刻決断可能な、シンガポールの独裁政治に求める人もいるが、そんな問題ではなかろう。シンガポール政府は「投資」政策なのに対し、日本政府はあくまでも「出費」でしかないというだけの話である。
 「投資」なら、チャンスがありそうな分野に、果敢に資金を投入し、長期で見てハイリターンを狙うことになる。
 これに対する「出費」発想の方は、できる限り経費を絞って効率的に運営するだけ。必要そうな分野に重点配分する以上のことはできない。予算が硬直化していれば、重点といっても、それは言葉の遊びに近い。
 これが現実。

 考えて見れば、日本からシンガポールへと優秀な人材や工場が出て行かないのが不思議なくらいだ。FTAが締結され、関税フリーだし。
 なにせ、シンガポールから見れば、競争相手は、米国と“United Kingdom, Ireland, China”(1)だ。日本など眼中に無い。

 2007年1月には高市イノベーション担当相がシンガポールを訪問して、関係閣僚等との会談及び関係施設の視察をしたのだが、何を学んだのかははっきりしない。(2)
 ただ、議題の一つは、沖縄科学技術大学院大学。
 この構想にしてから、提唱から5年もたつが、ようやく2007年夏に研究棟の新築工事の入札が始まるといったのんびりしたもの。(3)当初の目論見では、確か2007年開校とか言っていた筈だが。時間の観念が恐ろしく違う。
 この組織のトップには、シンガポールでアドバイザー役をしている有名人を招請した。と言うことは、この人のコネで、シンガポールから人を呼んでもらおうということを頼んだということだろう。5〜6年先の話だが。

 この大学の一番の問題は、何がウリか、さっぱりわからぬ点。
 国内政治優先の社会では、こうならざるを得ないという見本だ。

 一方、シンガポールでは、バイオの研究所が次々と開設され、世界から、優秀な人材をリクルートしている。
 “日本人も伊藤嘉明・元京都大学教授をはじめ約10人いる”(4)そうだ。
 2007年2月に、シンガポールのバイオメディカル産業の状況が発表されたが、これによれば、すでに雇用者は10,571人にのぼる。うち、研究者は4,054名で、PhD1,317人が含まれる。(5)

 言うまでもなく、シンガポールに魅力あるから、こんな急速発展パターンが可能なのである。
 Business Environment, Political, Labour, nfrastructure, Lifestyleと、どこを見てもウリだらけ状態と言ってよい。(6)

 特筆すべきは、日本以上に知的財産保護が徹底している点。研究者も企業も、これで安心して仕事ができるのである。
 しかも、日本と違って、曖昧な倫理ガイドラインを避けている。合理的な説明さえできれば、臨床試験も開始できる状況。もちろん、実験動物問題で騒がれることもない。医学研究のやり易さは日本と比較すべくも無い。

 病院も、最先端医療の提供を武器に、日本以外のアジアの富裕層を一手に集めて治療を行っている。
 それに、英語圏だから、米英だけでなく、インド、オーストラリア、ニュージーランドとの人の交流もスムースそのもの。

 だが、そんなウリを上手く生かしたことで急速な発展を実現したと単純視しない方がよい。
 政府のスタンスに注目すべきである。
  政府の“policy decision and incentives”を通じて産業育成を図るというパターンから脱皮したからである。
 政府を含めた関係者一同の“collaborative process”を構築することで、産業を発展させるやり方に変えたのだ。
 知的産業で競争する時代に合うような体制に移行したと言うこと。(7)

 高市大臣曰く、「他国から学ぶべき点も見つけるのではありますが、必ず日本の素晴らしさを再認識」(8)
 シンガポールの先進性を参考にするのではなく、欠陥を見つけて、日本の優位を感じているのでなければよいのだが。

 --- 参照 ---
(1) Derrick Z. Jackson: “The Singapore model for biotech”Boston Globe [2007.5.12]
  http://www.boston.com/news/globe/editorial_opinion/oped/articles/2007/05/12/the_singapore_model_for_biotech/
(2) http://www.cao.go.jp/kokusai/shuccho/2007/0116takaichi.html
(3) http://www.oist.jp/j/about_6.html
(4) http://www.nikkei.co.jp/hensei/asia2006/asia/prize_jusyo2.html
(5) http://www.a-star.edu.sg/astar/attach/press_release/2007_BMS_Joint_Sectoral_Media_Release_.pdf
(6) http://www.biomed-singapore.com/bms/sg/en_uk/index/singapore_at_a_glance/accolades___rankings.html
(7) Michael E. Porter(HBS): “Singapore Competitiveness: A Nation in Transition”
  http://www.isc.hbs.edu/pdf/20061128_Singapore_ACI_Launch.pdf
(8) http://sanae.gr.jp/daijinWeekly/daijinWeekly_contents.html?MID=16


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