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2006.7.6 |
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きびだんごの話…桃太郎の話はイロイロあるよ、という本を読んでみた。(1)確かに様々だが、「きびだんご」で従者を得るという点では一致しているので驚いた。 桃太郎の話が昔からあったという証拠はないかもしれぬが、(2)ここまで、「きびだん」にこだわるお話を簡単に作れるものではなかろう。 内容的には、確かに胡散臭い面もあるから、龍之介(3)がシニカルに批判するのもよくわかる。しかし、この話は、古代の吉備における壮絶な戦いを伝えるだけのものだと思う。当然ながら、語る立場で様々な解釈や装飾が付く。これは致し方あるまい。 (吉備津神社(4)に祀られる吉備津彦命が桃太郎で、鬼は、この辺りに住んでいた百済人の首魁ということ。) それにしても、「きびだんご」は驚くべき食べ物である。たった半個もらうために、家来になる。なんとしても食べたいのだから、さぞかし美味しいものなのである。「日本一のきびだんご」と言うだけのことはある。 それでは、「きびだんご」とはいかなるものだったのだろう。 現在、駅で販売されているお土産品の吉備団子は、100%黍製品は例外的で、ほとんどが黍風味製品である。 全てを食べてみた訳ではないが、失礼ながら、美味しくても、家来になっても食べたいようなお菓子ではない。 ということで、お菓子屋さんの薀蓄を覗いてみた。(5) ほほう〜。 吉備団子とは、桃太郎の知名度を活用した江戸時代のお菓子の流れを引いているらしい。 まとめると次のようになろう。 備前・備中は黍の産地である。そのため、この辺りでは、古くから黍餅を食べていたらしい。しかし、黍餅は日持ちが悪い上、舌触りも今一歩である。 そこで、江戸時代になると、黍に米粉を混ぜて蒸した団子が登場したようだ。浅草に「日本一のきび団子、昔屋桃太郎」と看板が出たこともあったらしい。 そこで、岡山藩家老 伊木三狼斎は、日持ちする名物菓子をつくろうと、菓子職人に改良を命じる。そして、米粉と水飴を使う求肥菓子ベースの吉備団子が生まれた。さらに、吉備津神社の境内で販売し、ご当地ブランド化を図ったのである。 江戸時代になり、結構米がとれるようになったから、米粉が使われたのだろうが、これは桃太郎の「きびだんご」とは全く違う。 おそらく、当時は、気候と生産性の観点から、キビ生産は餅黍が中心である。この餅黍をなんとか使おうというのが、米粉の使用だと見た方がよい。 団子用の黍は、団子黍(高黍)で全く違う種である。 団子黍で作ると、つるりとしたまろやかな味わいになるのである。(6) 団子黍という名称は聞きなれないが、要するにモロコシ[ソルガム, 高黍(タカキビ), 蜀黍, 高梁]である。砂糖黍(甘蔗)、玉蜀黍(トウモロコシ)、と同じように、日本の正統の「黍」ではない。但し、高梁と言っても、中国のコーリャンと吉備産では品質には相当な差がでる筈だ。 吉備産高梁で作った団子は、表現できないほど美味しいものだったに違いあるまい。 そう信じているのは、高級な本蕨粉で作った餅を味わったことがあるからだ。その味わいは、筆舌に尽くせない。 名称は「蕨餅」でも、粉の差は極めて大きいのである。 厳選した原料を、寒晒しにして、何度も灰汁抜きをすると、とんでもない差になって現れるものなのだ。 吉備産高梁から作る黍粉も、昔のことだから、とてつもない手間をかけ、徹底的に精製していたのではないだろうか。 そんな粉を使えば、間違いなく素晴らしい団子ができる。それこそ、一度味わえるなら、家来になってもかまわぬほどのものかも知れぬ。 吉備には、そんな贅沢な食を愉しむ文化が育まれていたに違いない。従って、そこには財宝もあろう。 言うまでもないが、桃太郎のお話に登場する「きびだんご」とは、実は「鬼」側の素晴らしい文化の象徴である。 桃太郎は、吉備の優美な文化は賞賛するが、地元の人達に支持されていた百済人の覇権は認めなかったのである。 実によくできたお話である。 知恵者が、鬼の素晴らしさを、後世に伝えるために作り出した物語としか思えない。 --- 参照 --- (1) 立石憲利編著「桃太郎話 みんな違って面白い」岡山市デジタルミュージアム 2006年3月 (2) 柳田国男「桃太郎の誕生」1933年 (3) 芥川龍之介「桃太郎」 http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/100_15253.html (4) http://www.harenet.ne.jp/kibitujinja/onitaiji.htm (5) [廣榮堂の説明] http://www.koeido.co.jp/conversation/museum/histry.html [山方永寿堂の説明] http://www.eijudo.co.jp/kibidango.htm [鳴海餅本店の説明] http://www.narumi-mochi.jp/kaisetsu/kibi.html (6) http://www.city.okayama.okayama.jp/ichiba/taste/takakibi.html 歴史から学ぶの目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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