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2008.6.9
 
 


アイスランドから学ぶ…

 アイスランドというと、どんなイメージが思い浮かぶだろうか。

 国土は氷に覆われているため人口僅少の、北の海の島国といったところかも。
 実際、人口は30万人と、日本でいえば、函館と同規模だ。農林水産業と観光業が主体の国と言われているが、国民1人当たりGDPは39,400ドル。投機資金が生み出したバブルが破裂して、クローナ暴落とOMX株価下落が発生し、経済は大変なようだが、高い生活水準を保っていることは間違いない。
 日本の地方都市も、見習ったらどうかとの声もあがっているくらいだ。(1)
 その上、男性の平均寿命が日本を超え、ついに世界一になった。(2)
 温泉に入れる国は、長生きできるとの宣伝でもして、お互い観光客を呼べるとよいが、そうもいかないから、魚食を増やす効果しかないかも。

 そういえば、インターネットテレビ放送「GyaO」はアイルランド語の地球の裂け目という言葉だそうだ。(3)アイスランドには、企業家を魅惑する先進性イメージもあるということ。
 確かに、水力・地熱発電で安価な電力供給に力を入れると同時に、脱炭素燃料の水素化社会に邁進すると宣言するなど、時代の先頭を走っているのは間違いない。
 汚職も少ないそうだから、日本と違い、政治的無関心層は少ないのだろう。外で体を動かすより、家のなかで、読書、音楽鑑賞、テレビ・ビデオ視聴、ゲーム等をすることが多いからかも。
(そう言えば、アンビエント音楽のSigur Ros(4)は世界的に知られているし、西欧一帯が熱く燃えた、1972年のチェス世界大会の開催地はレイキャビクだった。)

 素人目には、グローバル化の波に乗って、金融セクターがこの国を牽引し、繁栄に導いた感じがするが。

 まあ、日本人としては、そんなことより、アイスランド産シシャモが一番の馴染みかも。
 ・・・などと話を繋げていくと、鯨の話をしたいのかと間違われかねないが、そうではない。
(捕鯨のニュースは、附記に記載しておいた。)

 学びたいのは、この国が苦労してきた歴史である。
 と言っても、アイスランドの過去を知りたい訳ではない。現代のアイスランドの状況を眺め、どうしてそうなったか、歴史から読み取ってみたいのである。そこから、様々な教訓を得ることができるからだ。
 と言うことで、考えるタネとして、勝手に年表を作ってみた。間違いもあるかも知れないが、まあ、大雑把にわかれば十分だろう。

■■■ 言葉 ■■■
 先ず、この国の言葉を題材に、歴史的背景を考えてみよう。

〜 アイスランドの歴史 [I] 〜
[正確でないかもしれません.]
8
世紀
【無人島への移住挑戦期】
・アイルランド修道士の限定的移住
・バイキング進出失敗(アイスランド名)
・入植初成功
9
世紀
【農地開墾期】
・本格的入植(ノルウェー人口過剰)
10
世紀
【国内統治制度(非国家)確立期】
・開拓可能地域入植完了
・全島集会開催
 (入植グループ代表者の年会)
・農業交易定着
・キリスト教伝来(土着多神教と摩擦)
11
世紀
【対外問題発生期】
・キリスト教に改宗(宗教対立防止)
12
世紀
【内外の勢力闘争期】
・全島集会の成文法化
・有力勢力乱立
13-14
世紀
【ノルウェー支配期】
・ノルウェーによる併合
・ペスト流行
・火山爆発
14-16
世紀
【デンマーク支配への転換期】
・デンマーク国王の配下
 (デンマークのノルウェー併合)
・交易のデンマーク管理
・新教に改宗(教会財産の没収)
17-18
世紀
【デンマーク絶対王政強化期】
・デンマーク統制強化
・全島集会廃止
18
世紀
【大災害期】
・天然痘流行
・寒冷化で飢餓発生
・火山爆発
・大地震
19
世紀
【デンマーク王政衰微期】
・デンマーク敗退
 (立憲君主国スウェーデンの勝利)
・ノルウエー独立
・全島集会復活
・憲法制定
・デンマーク王政崩壊
・気候不順
・カナダ移住発生
・タラ漁盛況
20
世紀
初頭
【二十世紀初頭の近代国家樹立期】
・自治権確立
・社会整備(交通・通信・教育・病院)
・漁業近代化(動力トロール船)
 もちろん国語はアイスランド語。歴史から見て、ノルウェ−の古語だが、それをできる限りそのままの形で維持すべく努力しているのである。若い人でも、古い文学がそのまま読めるということ。明治の文語体でさえ読めない人が多い日本とは大違い。

 そのために、外来語はそのまま取り入れずに、既存の単語を組み合わせて作るとか。(5)
 ここまでこだわるのは、昔の人達の苦労と、そこから生まれた言葉の世界を捨て去りたくないということだろう。
 なにせ、歴史を眺めると、その苦労たるや半端なものではない。氷と呼ばれるような無人島を開拓してどうやら住めるようにしたところから始まり、火山の爆発、冷害、パンデミック、と猛威に晒され続けており、島民全員移住も勧められたに違いない。それでも、頑張って、なんとか住み続けたことが誇りでもあるのだろう。
 1801年の人口はは5万人を切っており、1901年でようやく8万人に近づき、1950年でも15万人に達していなかったのである。
 まさに、先人の労苦あっての、現在の39,400ドルとの思いもありそうだ。

 ただ、鎖国をして生きていける国ではないから、アイスランド語だけでは生活に支障がでてしまう。当然ながら、英語も公式言語だ。と言っても、英語を学ぶのは5年生から。日本とたいしてかわらないが、結果は相当な違い。英語で意思疎通できるのだ。
 その上、7年生からは、デンマーク語も学ぶ。(6)
 デンマークは長いこと宗主国だったから、今もってその名残があるということ。日本からすれば、語学過多の感じだが、それが当たり前なのだ。
 もちろん、昔のように、デンマークに交易権を牛耳られている訳ではないから、北欧文化に触れておく必要があるという判断ではないか。
 おそらく、大学生は、実利の観点で、さらに、ドイツ語かオランダ語を学ぶ。つまり、四ヶ国語に堪能という人も少なくないと思われる。欧州の小国ではそんな人は珍しくはないが、立派なものだ。

 自国語を大事にする習慣が身についていると、自然にそうなるのかも。
 日本人は、日本語が消えることなど有り得ないと安心しきっており、緊張感がない。言葉への思いが薄いのである。
 こんなところが、外国語がなかなか身につかない遠因ではないか。
 それに、安全保障、食糧、エネルギーを海外の国々に全面的に依存しているのに、外国語が使えないと生きていけなくなるとの切迫感も無いし。

■■■ 平和 ■■■
 次は、平和の話。
〜 アイスランドの歴史 [II] 〜
[正確でないかもしれません.]
20
世紀
前半
【第1次世界大戦+戦後】
・戦場との地理的な隔絶
 (デンマークとの交易の消滅)
 (米英との貿易で巨利)
・デンマークは中立宣言したが疲弊
・民族自決主義の波にのり独立
 (デンマークとの連合王国)
 (非武装中立)
20
世紀
中盤
【第二次世界大戦】
・独軍デンマーク占領
・中立宣言
・英軍進駐
・米軍進駐(英軍代替)
・米空軍基地拠点化
・軍需で好景気
・完全独立宣言
20
世紀
後半
【第二次世界大戦終結/冷戦突入】
・ソ連と通商条約
 (全島集会の共産党派の支持)
・米国の要求に応じNATO加盟
・米海軍基地恒久化
・米国との防衛協定
・英国とのタラ戦争
 (沿岸警備隊が砲火)
21
世紀
目前
【冷戦終結】
・米ソ首脳レイキャビク会談
・米軍完全撤退(有事防衛は保障)
 2008年5月、“Global Peace Index 2008”(7)が公表された。現時点で、戦争やテロが発生していないという視点に重きをおいたものだが、アイスランドは圧倒的な1位。

 ただ、これは、単なる結果論にすぎない。
 小国にとっては自ら運命を決めることはできず、大国の動きに翻弄されてきたからだ。たまたま、今の置かれた立場上、戦乱やテロから離れることができているだけのこと。戦乱やテロを防ぐ活動を主体的に担っている訳ではない。

 歴史は語る。・・・第一次世界大戦では、ドイツ潜水艦攻撃で大陸と隔離されてしまった。一方、大陸のデンマークはひどい目にあった。軍需で経済が潤い、民族自決の流れにのって自治権も獲得できたのである。自らの力で平和と繁栄を実現した訳ではない。
 第二次大戦も名目は中立だが、すぐに英軍が進駐してくる。そして、米国は参戦前だというのに、米軍を進駐させた。欧州で米国が単独占領した唯一の国となったのである。
 ノルウェーは中立宣言していたが、ドイツに侵略されたのだから、的確な判断だったと言えよう。
 さあ、それで戦後は中立国として独立できるかといえば、そうはならない。北の海の重要拠点だから、米軍基地が建設されたのである。確か、レーニンもアイスランドの軍事的重要性を指摘していた筈だから、米軍が残るのはわかりきったこと。
 そして、冷戦が終わった。そうなれば、基地は不要。米軍撤退である。
 アイスランドには、その流れで、いまもって軍隊は無い。一方、中立に懲りたノルウェーは徴兵制。
 両国ともに、当然の成り行きという感じがするではないか。平和を希求しようが、しまいが、大国が軍事バランスを考えて、各国の役割を勝手に決めることを肌でわかっているのである。
 自国の平和を守りたいなら、軍事緊張はどこで生まれており、その原因はなにかを知りつくし、戦乱に巻き込まれないように工夫するしかないということ。
 軍隊があろうとなかろうと、関係ないのである。
 リアリズムなき、観念的平和論ほど危険なものはなかろう。

 --- 附記 ---
アイスランド政府は2008年5月、商業捕鯨再開を表明した。外務省が反対したので発表が遅れたらしい。(*)
実際、 Gisladottir外相は発表に際して言い訳・・・。
"The Minister of Fisheries has constitutional competence for issuing such regulations and does not have to consult the Government as such,"   "As Minister for Foreign Affairs, I believe this is sacrificing long term interests for short term gains, despite the quota being smaller than in previous years."(**)
(*) Richard Black: “Go-ahead for Iceland's whale hunt ” BBC [2008.5.19]
  http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/7409521.stm
(**) “Iceland resumes controversial whale hunt”ABC News - Reuters[2008.5.20]
  http://www.abc.net.au/news/stories/2008/05/20/2250050.htm

 --- 参照 ---
(1) 「水産・観光立国アイスランドの成功例に学んでみては?」日本銀行函館支店 金融経済トピックス [2007.8.1]
  http://www3.boj.or.jp/hakodate/kouhyou/siryou/iceland190801.pdf
(2) 「長寿世界一、アイスランド男性が日本男性を抜く」 AFP BBNews [2008.4.4]
  http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2373711/2800680
(3) USEN NEWS RELEASE [2005.4.5]  http://www.usen.com/admin/corp/news/pdf/2005/050405_2.pdf
(4) Sigur Ros(日本サイト)  http://www.emimusic.jp/intl/sigurros/
(5) 甲斐崎由典: 「アイスランド語の言語育成について」 Travaux du Cercle linguistique de Waseda 1号 1996年
  http://www.venus.dti.ne.jp/~kaisaki/kaisaki/pdf/19961130.pdf
(6) 日本語教育国別情報 2006年度 アイスランド http://www.jpf.go.jp/j/japanese/survey/country/2006/iceland.html
  (アイスランド語の新聞例-- http://www.mbl.is/mm/mogginn/)
(7) Global Peace Index Ranking  http://www.visionofhumanity.org/gpi/results/rankings/2008/
(人口のデータ) Iceland in figures 2005?2006 http://www.iceland.is/media/iceland-is/iceland05_utanr.pdf
(政党[英文頁]) Independence Party http://www.xd.is/?action=international_en&id=579
  Progressive Party http://www.framsokn.is/International/English
  Social Democrats http://www.samfylking.is/Forsida/Kosningastefna2007/Stjornmalaalyktun2007/English/
  Left-Green Movement http://www.vg.is/tungumal/english/
  Liberal Party http://www.xf.is/default.asp?Sid_Id=29688&tId=1
(わかり易かった歴史) “Iceland History: A Chronology Of Important Dates”
  http://stason.org/TULARC/travel/nordic-scandinavia/5-3-1-Iceland-History-A-Chronology-Of-Important-Dates.html
(利用した白地図) (C) 三角形 井上恵介 “白地図、世界地図、日本地図が無料” >>>


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