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2013.6.11
 
 

縄文時代の土器の鑑賞方法…

古代の土器を鑑賞するとなると、どうしても遮光眼鏡をかけた土偶、火炎土器、様々な埴輪が頭に浮かぶ。しかし、当時の信仰がどのようなものだったのかよくわからないので、現代感覚では、情念の存在がわかるだけで、どうにもとらえようがない。一方、ごく普通の土器だと、縄文、弥生、須恵器といった大きな時代区分で眺める以上ではないのが普通。鑑賞とは言葉の遊びで、いくら眺めてもそれほど深い感興が生まれることはまずなかろう。
しかし、じっくりと変遷を眺めていると色々と見えてきたりはする。その結果、古い型の土器の素朴さに感じ入ったり。
それはそれで結構なことだが、工芸品として一級品と呼ぶべき作品もあるから、是非見て欲しいと思う。

そう感じさせられたのは、國學院大學博物館で眺めた壺である。ウエブの「考古学資料館データベース」にモノクロ写真が掲載されているが、これでは実感できないどころか、本物の印象とは余りに違いすぎ。是非とも、自分の目で!
-#297--------------------------------------------
【発掘場所】亀ヶ岡遺跡(青森県西津軽郡)
【時代区分】縄文晩期
【サイズ】口径:7cm 高さ:25cm
【分類】壺
【形状】
 ・全体は電球型徳利
 ・頭部(2割)は首的
  -開口部 外側の張り出し
  -胴との境に丸溝とその上下に凸部の筋
  -紐通し用と見られ、4箇所に貫通穴付き突起
  -残りは平滑で無文様
 ・胴部(8割)は瓜的な電球形状
  -全面平滑
  -肩の部分に2本の凹み溝
 ・全面ベンガラ塗布(落ち着いた茶色)
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お気付きになるかも知れないが、縄目模様は全く無い。割れた跡がなかったら、現代の陶芸作品と言われれば、そうかと思うような素晴らしい出来映え。
ただ、時代的には縄文晩期とされている。縄文期の6つの時代区分の最後であり、この期の土器の作風はどれもこれも、爛熟した感じ。従って、もともと素朴感は期待できない。

素朴感を味わいたいのなら、時代区分の最初である草創期。素敵な作品がある。表面に炭化物が付着している深鉢だ。実に素直なデザインなのだ。奇をてらわず、機能的にも意味がありそうなシンプルな模様を、ほんの一部につけただけ。それが妙に心に染みる。手作りの味わいを感じさせる優れもの。
尚、表面のどこにも、縄目模様は無い。
-#001--------------------------------------------
【発掘場所】石小屋洞窟遺跡(須坂市)
【時代区分】縄文草創期
【サイズ】口径:23cm 高さ:24cm
【分類】深鉢(炭素付着)
【形状】
 ・全体は先丸の指サック型
 ・上部(1/4)は下部との一体感
  -周面模様付き
  -開口部 平らな縁
  -縁周面 少々盛り上がりのジグザク線2筋
  -その下 少々盛り上がりの直線4筋
  -筋模様の間隔は1cm弱
 ・中部(1/2)はなだらかに広がる
  -無文様
  -周面 平ら
 ・下部(1/4)は半球形
  -周面 平ら
 ・丸底
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もう一つ古いタイプも見ておきたい。上記は洞窟内だから、大きな石で支えて焚き火で使用するため丸底なのだと思われるが、こちらの場合は尖底。尖底が入る穴を掘り、土器を立てて焚き火をしたのだろう。そのため全体の形状が違ってくるが、基本設計思想は同じと見た。ただ、こちらは完璧な無模様。これぞ、土器の原型では。
貝が大量に獲れそうな地、稲毛の出土だから、交易商品である煮灰貝製造用鍋かも知れぬ。
-#005--------------------------------------------
【発掘場所】エゴダ遺跡(千葉市稲毛区)
【時代区分】縄文早期
【サイズ】口径:18cm 高さ:26cm
【分類】深鉢(炭素付着)
【形状】
 ・全体は砲弾型
 ・上部(7割)は先無しの円錐形
  -無文様
  -開口部 平らな縁
  -周面 平らだが、混入繊維様のザラツキ感
  -直線的に徐々に径が拡大
 ・下部(3割)は正三角に近い円推
 ・尖底
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これを踏まえて、貝塚から出土した、深鉢タイプを眺めると面白い。作業場での貝入れとして使われたのではなかろうか。
時代も後期になると、尖底の要もなくなり、先をカットしたような小面積の平底になる。上部は持ち運びの際に落ちないように、若干凹みがついており、考え抜かれたスッキリとしたカーブになっている。開口部も縁は柔らかく丸めてあり、細かなところにまで気を使っていることがわかる。
普通は、これに縄目模様の独自デザインの外面装飾となるのだが、この作品にはそれが無い。竹ヘラを使用したと思われる、筋が全面にわたってつけられているだけ。すでに時代は後期だから、古代精神を復活させたアバンギャルドかも。
そのお陰で、この手の容器の見方がわかってくる。
口部のすぐ傍にはギザギザ線を感じさせる切込み装飾。カバーをかけるなら、ズレを防止する機能を発揮することになろう。この他に、刺突穴を一周させて線を感じさせるものが2つ。その間は若干凹部になっており、縄で縛る位置表示も兼ねていそう。
-#211--------------------------------------------
【発掘場所】岩井貝塚(柏市)
【時代区分】縄文後期
【サイズ】口径:23cm 高さ:32cm
【分類】深鉢
【形状】
 ・砲弾の先を切った形
 ・上部(7割)は若干の凹みがある円筒形
  -開口部縁 平坦だが、丸めている
  -縁周囲 小三角形の切り込みの筋模様
  -1cm間隔のヘラ筋入れ全面的斜線模様
  -周面 平ら 刺突穴の円周筋模様2本
         (上から1割、上下部境)
 ・下部(3割)は徐々に下が細くなる形
  -上部とそのまま続く全面的斜線模様
  -周面 平ら
  -底は開口部の1割程度の径
 ・平底
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丸底や尖底は固定しっぱなしならよいが、移動したいとなるとえらく使いにくい。土器が普及し、煮炊き技術が高度化すれば、底面積が広く安定した平底土器が主流になってくるのは当たり前。
その流れのなかで、縄目文様を欠くどころか、完璧な無文様土器がある。縄文は不可欠という訳ではなかったということになる。と言うか、そういった異端も容認する社会だったのだろう。
-#029--------------------------------------------
【発掘場所】あざみの遺跡(横浜市青葉区)
【時代区分】縄文前期
【サイズ】口径:11cm 高さ:12cm
【分類】深鉢
【形状】
 ・持ち易そうな首的凹みがついた円筒型
 ・首より上部(1割)は徐々に広がる
  -無文様
  -開口部 平らな縁
  -周面 平ら
 ・首部(1割)は柔らかな凹み
 ・首より下部(8割)はほんのり凹みカーブ
  -無文様
  -周面 平ら
  -底の方が若干細め
  -底は開口部の8割程度の径
 ・平底
-#156--------------------------------------------
【発掘場所】土橋遺跡(川崎市宮前区)
【時代区分】縄文後期
【サイズ】口径:24cm 高さ:21cm
【分類】深鉢
【形状】
 ・拡声器型
 ・上部(7割)はラッパ形
  -無文様
  -開口部 平らな縁
  -周面 平ら
 ・下部(3割)は円筒形
  -無文様
  -周面 平ら
  -底は開口部の半分程度の径
 ・平底
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このように、縄文期の縄文無き土器を眺めてから、縄文装飾の意味を考えてみるとよい。なにか訴えかけようとしていることに気付かされるからだ。テリトリーのシンボル図案のようであり、自らのアイデンティティを示しているかのような作品がある。表現せずにはいられなかったと見える。
-#072--------------------------------------------
【発掘場所】粟島台貝塚(銚子市)
【時代区分】縄文中期
【サイズ】口径:14cm 高さ:18cm
【分類】深鉢
【形状】
 ・尻すぼみの円筒型
 ・口縁部(1/6)は肉厚で開口部が広がり気味
  -植木鉢的輪状部分
  -表面に縄文あり
 ・胴部(5/6)は直線的テーパーの尻すぼみ
  -表面は一面の縄文
  -底は開口部の8割程度の径
 ・胴部に特別なデザイン装飾
  -口縁部に上辺が接する大きな「▽」模様
   (中心に刺穴がある細線丸で模様を形成)
  -「▽」のなかに、さらに「Y」模様
   (デルタ地帯の象徴か)
 ・平底
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土器用の土は貴重であるし、焼成の手間はただならぬものがある。歩留まりもあるから、縄目模様を適当につけるような、およそ緊張感なき仕事をしていた訳がなかろう。魂を込め、プロの執念で作りあげた作品と考えるべきだ。従って、出鱈目につけていそうに見える縄文にしても、そこにはなんらかのメッセージや宗教上の表現があって当然。ただ、残念ながら、我々は、それを推定できる想像力を持ち合わせていない。しかし、センスを磨けば、見えてくるかも。
そう思うのは、日本社会は、縄文の感覚を100%捨ててしまうようなことはないと思うから。それが何かに気付きさえすれば、糸が次第にほぐれていくのではなかろうか。
・・・などと考えながら土器を鑑賞するのはなかなか楽しいものである。

(画像資料) 國學院デジタルミュージアム 考古学資料館所蔵縄文土器 http://k-amc.kokugakuin.ac.jp/DM/dbTop.do?class_name=col_fjd

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