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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.12.29] ■■■
[附65] 分析から見えること
「今昔物語集」を研究している訳ではないので、分析的に眺めることはしないつもりだったが、構成や位置付けを考えようとすれば、皆無という訳にはいかない。

そんなことは簡単にすませたいが、これが厄介なことこの上ない。フリーなテキストベースがいくつか揃っていて、使い易い多変量解析のソフトさえあれば、アッという間に様々な結果が得られ、素人でも色々と遊べるのだが、ほとんど夢物語の世界だからだ。
マ、そんな分析をしたからといって、より深い理解が得られるとは限らないが。

ともあれ、1.000ものお話に目を通すと、なんとなく仕掛けがありそうな予感がする箇所がボロボロとでてくるのである。
そこで、どうなっているか多少分析めいた整理をせざるを得なくなる。簡単にできかねる場合は知らん顔するしかないが、そうでなければ一寸手を出してみることになる。
筋が良ければ、無駄な労力だったと後悔することはない。

例えば、こんな風に、・・・
【本朝世俗部】巻二十九本朝 付悪行(盗賊譚 動物譚)
-----1〜30 盗賊・殺人者譚-----
   [_1] 此れ、誰人と知る事無し。亦、遂に其の故を人知らざりけり
    となむ
語り伝へたるとや。
   [_2] 極て有難き事也とぞ、世の人云ひける
    となむ
語り伝へたるとや。
   [_3] ・・・
此れ、世の希有の事なれば
    此く
語り伝へたるとや。
   [_4] 後には、人知にけるにや有らむ。
    此なむ
語り伝へたるとや。
   [_5] 「余り固く忌て、入れざらましかば、法師は必ず殺されなまし」
    とぞ、
語り伝へたるとや。
   [_6] 「__は賢き男の徳に、命をぞ存したりける」
    となむ
語り伝へたるとや。
   [_7] 況や、疎からむ者の然る心有らむは、必ず疑ふべき事也
    となむ
語り伝へたるとや。
   [_8] 「徒に臥たりしかば、此く質にも取られたる也」
    とぞ、人云けるとなむ
語り伝へたるとや。
   [_9] 「物を盗み取らむ」とて殺したるを、天の悪5)み給て、外へも行かずして、
    やがて其の家に行て、現に此く殺さるる、哀なる事也」
    とぞ、
聞く人云ける
    となむ
語り伝へたるとや。
   [10] 此の男の顔見知たる人、更に無くてなむ止にける
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [11] 此れを見聞く人、此の祖をぞ、「極かりける賢人かな」とて、讃めける
    となむ
語り伝へたるとや。
   [12] 物を取寄せつつ仕ひけむも、極て悪かりけむ物を。
    古は此る古代の心持たる人ぞ有ける
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [13] 盗人の心も哀れ也けり
    と、
聞く人云なる
    となむ
語り伝へたるとや。
   [14] 亦、天皇をぞ、「尚、只人にも御まさざりけり」と、人、貴び申ける
    となむ
語り伝へたるとや。
   [15] 然れば、此の事、異検非違使共□に糸惜く思ければ、
    
隠すとすれども、自然ら世に聞えて
    此くなむ
語り伝へたるとや。
   [16] (欠文)
   [17] 然れば、「万の事をば、現と思ゆる事也と云ふとも、
    見知らざらむ者のせむ事をば、尚吉く思ひ廻して、疑ふべき也」
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [18] 此の事は、其の盗人の人に語けるを聞継て、
    此く
語り伝へたるとや。
   [19] 其れに、従者も無き者の、近く打寄て殺さるる、墓無き事也」
    とぞ、聞く人、讃めも謗りも云ひ繚ける
    となむ
語り伝へたるとや。
   [20] 「善澄、才は微妙かりけれども、
    露和魂無かりける者にて、此る心幼き事を云て死ぬる也」
    とぞ、
聞きと聞く人々に云ひ謗られける
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [21] 然れば、前追ふ人に値ふとも、吉く用意すべき事なり
    となむ
語り伝へたるとや。
   [22]
此の事、隠すとすれども、世に広く聞えにけるにや
    此くなむ
語り伝へたるとや。
   [23] 山中にて人目も知らぬ男に、弓箭を取せけむ事、実に愚也。
    其の男、遂に聞えで止にけり
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [24] 此の事は、其の家主の京に上て語けるを、
聞伝へて
    「糸奇異く、哀れ也ける事かな」
と思て
    此く
語り伝へたるとや。
   [25]
此れは、貞盛が一の郎等、館の諸忠が娘の語けるを聞き継て
    此く
語り伝へたるとや。
   [26] 「善澄、才は微妙かりけれども、露和魂無かりける者にて、
    此る心幼き事を云て死ぬる也」
    とぞ、聞く人悪ける
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [27] 然れば、章家、死ぬる尅にも、
    「飽田の石拾の罪を何にせむずらむ」と歎てぞ死にける
    とぞ、
其の家の者語りける
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [28] 然れば、「美ならむ女など見て、
    我が心のままに知らざらむ所などに行かむ事は、此れを聴て止むべき也」
    とぞ、人云ひける
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [29] 下衆の中にも、此く恥を知る者の有也けり。
    此なむ
語り伝へたるとや。
   [30] 「尚、人を蔑る事は悪き事」とぞ、
   聞く人、云ひ謗ける
    となむ、
語り伝へたるとや。
-----31〜40 動物譚-----
   [31] 人、此れを聞て、「余りの事は止むべし。只、吉き程にて有るべき也」
    と、人、
語り伝へたるとや。
   [32] 然れば、然様ならむ事をば、吉々く思ひ静めて、
    何ならむ事をも為べき也。此る希有の事なむ有ける
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [33] 此く返て、我が命を失ふ事有る也
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [34] 何に況や、心有らむ人は、故(ふるき)を思ひ、専に親からむ人の為には吉かるべき也
    となむ、
語り伝へたるとや。
   [35] 「但し、猿の術こそ糸賢けれ」
    とぞ、人云けるとなむ、
語り伝へたるとや。
   [36] 此く諸の蜂を具し将来て、必ず怨を報ずる也。此れ何れの程の事にか有けむ。
    此くなむ
語り伝へたるとや。
   [37] 「然て許こそ、命は助からめ」と思得て、破無くして、
    此く隠れて命を存する事は有難し。然れば、蜂には蜘蛛遥に増(まさり)り」
    と、
預の法師の、正しく語り伝へたるとや。
   [38] 然れば、獣なれども、魂有り賢き奴つは此ぞ有ける。
    此れは
正しく、其の辺なる者の聞き継て、
    此く
語り伝へたるととや。
   [39] 然れば、此れを聞かむ女な、然様ならむ薮に向て、然様の事は為まじ。
    此れは、
見ける者共の語けるを聞継て、
    此く
語り伝へたるとや。
   [40] ・・・
    此の事は、其の
語り聞せける僧の語けるを聞たる者の、
    此く
語り伝へたるとや。

なにを思って上記のようなことを行ったかと言えば、"どうして悪行話が伝承されることになったか考える必要があろう。"と編纂者が問題提起していそうに感じたから。
話の筋より、そこらを考えることに意義を見出しているのかも知れない訳で。・・・
隠しておけばよさそうな事が、何故に皆の知るところとなり、それをいつまでも語り草にしたい理由はどこにあるのか、ということでもある。

現代でもよくあることだが、詐欺的行為で一儲けして黙っていればよさそうなのに、それを本人が自慢して語ったものだから、捕縛されたりすることがママある。小生には、その神経がさっぱり理解できないが、そんな御仁は流石に多数派ではなさそうだが、決して少数派でもないようなのだ。

そういう人達は、社会的に悪行とされることを重々承知していても、本人的には悪行をしている気が全くない訳だ。このことは、とんでもなく反社会的な行為する人々を例外的存在と見るのは間違いであることを意味している可能性がある。
世の中、悪行をしたい人は一定数存在しており、そのうち多くは善行者と人から評価されたいが故に、悪行をしていないように見せかけていることになる。本人もそれに気付いていなかったりする。
(ついでながら、欠語部分を沢山作ったのも傑作。そもそも引用元に記載が無いものもあり、そんなもの調べてわかる訳がなかろう。要するに、どうして、伏せて伝えるのか考えると本質が見えて来るゾ、と言っているようなもの。そうそう、当時の読者からすれば恣意的な間違いとしか思えない箇所もある。オチョクリである。伝承とはこのようなものですゼと示したのである。例えば、高僧の悪行譚は誰が何のために何を伝えたくて伝承しているのか答えられるかネ?と読者に突き付けているようなもの。)

勝手気ままな想像で書いてみたが、こんな風に色々と考えさせるように編纂されているのではなかろうか。

その手の書だとすると、分析的に立ち向かうのは避けた方がよかろう。
漫然と触れ合い、"気付き"を得たら、多少分析して見るというスタンスで行くべきでは。分析から得られるのは、実は"気付き"ではなく、自分の引き出しに詰まっている概念の当て嵌め以上ではないからだ。

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