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■■■ 今昔物語集の由来 [2019.8.13] ■■■
[44] 小野宮実資
【本朝世俗部】巻二十八本朝 付世俗(滑稽譚)は44譚が収録されており、ほとんどが出典不詳。しかし、例外的に出自が知られている譚があるのでそれを取り上げよう。
[巻二十八#25]弾正弼源顕定出𨳯被咲語

その中身だがシモネタ。・・・

南殿(紫宸殿)で公卿の会議。
主座の右大臣 小野宮実資が申文を読んでいた。
そのお言葉を頂戴するのは弾正弼である
  殿上人の五位蔵人 藤原範国。
(監察・治安維持組織の弾正台の高官は3名。
 トップ[尹]は従三位で親王相当。
 その直下に弾正大弼と少弼。)

範国は、公的な席なのに、笑ってしまう。
実資は、"公の宣を仰せ下す時"に咲ふとは不埒として立腹。
咎めた上に、奏上までしてしまう。
お蔭で、"範国、事苦く成て、恐ぢ怖けり。"
(藤原範国は日記「範国記」が残っている平範国とも見られているらしい。)
どうして、こらえきれずに笑ったかといえば、
南殿の東の端にいた源顕定が
 性器を露出して掻いていたから。
 その姿、実資からは見えぬが、
 南の端に居た範国には見えるのである。
(源顕定[n.a.-1023年]は為平親王の子。)

さて、出典とされているのは、中納言 大江匡房[談]藤原実兼[筆録]:「江談抄」1104−1108年
又 範國為五位蔵人
有奉行事
小野宮右府為上師
被候陳下申文之時
弼君範国於南殿妻
卿於干陰根
範国不堪遂以笑
右府不被知案内
以咎及奏達
範国依此事恐懼
  [二雑事"範國恐懼事条"]

実は、この前条に"四條中納言嘲弼君顕定事"がある。顕定の人事問題に絡んで、嘲笑したことで半年蟄居を喰らう話。
要するに、内部の角逐は激しいものがあったのである。
組織上、全権は摂政頼通にあるが、無役であるにもかかわらず父道長がパワーを持ち続けていたと見られている。ここらがゴタゴタのもと。
しかも、右大臣実資は、道長と対立して孤立化していた三条天皇をサポートしたと言われている。(事実上、唯一の道長批判者。道長は私財を投じて崩御間近と見られる天皇の長命のための大行事を行った。)
顕定は、お前の上司は真面目腐った馬鹿野郎で実に気に喰わぬということで、ふざけた行動に出たのかも。範国はその意表をつく行動についつい笑ってしまうが、そこには自嘲気分もあろう。

このような話を収録する点で、小生は、「酉陽雑俎」とのただならぬ類似性を感じる。

インターナショナル感覚のインテリが集まる仏教サロンでの話から収載されたものが多そうということで。かわるがわる、こういう話があるゾとの情報を提供してくれるので、それを記録しただけのこと。
つまり、大江匡房がこんなことを言ってたそうだ、と誰かがサロンで話したのである。たまたま、その大江談が別途書面に残っているので、この譚が例外的に出典ありとなっただけ。「酉陽雑俎」なら、大江匡房が言っていたとか、藤原実兼がだれかから耳にしたところによればと記載することになろう。

重要なのは、この巻の滑稽譚は創作ではなく、実話を収録したという点。
当然ながら、そこには話手の尾鰭もつくし、明らかな伝承ミスもあるが、意義がないなら削除したり訂正はしないだろう。
様々なゴシップ談を弄り回す気などさらさらなく、仏教倫理がどうのこうのとか、教義を広めるといった教条主義的な発想はもともとない。先ずは、現実社会を直視すべきと考えているからだ。
兼好法師:「徒然草」の仁和寺の法師話と似たところがあり、表面的には単純な滑稽話であり、一応、それに対してこう考えるといった言葉もあるが、それにほとんど意味はなかろう。間抜けな人間の行動譚であることは間違いないが、そこから何を読み取るか議論ができる人達向けに収載していると考えるべきだろう。

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