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■■■ 今昔物語集の由来 [2019.9.22] ■■■
[84] 牛鬼
牛鬼は「枕草子」に登場する。
抜群のセンスで書かれているので、素人にとっては読むのは難儀。
 名おそろしきもの、
 淵
[不治]。谷の洞[法螺]。鰭板[痛]
 鉄
[黒根]。土塊。
 雷は名のみにもあらず、いみじう恐ろし。
 暴風。不祥雲。戈星。肘笠。荒野ら。
 強盗、またよろづに恐ろし。
 乱騒、おほかた恐ろし。
 金望、またよろづに恐ろし。
 
生霊
 朽縄
(くちなは/蛇)[子]。鬼蕨[童子]。鬼野老(ところ)
 荊
[無腹]。枳殻[空立]。炒り炭[入墨]
 
牛鬼[憂し女]
 碇
[怒]、名よりも見るは恐ろし。  [「枕草子」百五十三段]

すでに、この時代、牛鬼が知られていたのである。
言うまでもないが、頭部が牛の半獣形であり、人間が牛に与えた苦しみを、地獄に堕ちた人間たちに思い知らせる役割を担う鬼だ。馬形もあり、地獄描写では定評がある源信[942-1017年]:「往生要集」ではこう書いてある。
   在黒繩下。・・・
   牛頭馬頭等諸獄卒。
   手執器杖。


この牛頭鬼が「今昔物語集」にも登場してくるので、見ておこう。
  【本朝仏法部】巻十七本朝 付仏法(地蔵菩薩霊験譚+諸菩薩/諸天霊験譚)
  [巻十七#42]於但馬国古寺毘沙門伏牛頭鬼助僧語
 創建100年を越える但馬の山寺に鬼が住みついた。
 人々寄りつかず。
 そこに、事情を知らない二人の僧が訪れた。
 日が暮れたので寺に泊まることに。
  一人は、若く、法花の持経者。
  もう一人は、老いた修行者。
 東西に寝床をとってやすむうち夜半に。
 すると、壁を破って侵入する者がおり、
 臭気がひどく、牛の鼻息をかけられたよう。
 暗闇で姿が見えないものの、
 若僧に懸かって来たので
 恐ろしさから、法花経を誦じて救いを求めた。
 すると、若僧を棄て去り、老僧に懸かる。
 救けを叫ぶものの、われて絶命。
 若僧、次は自分だということで、
  安置されている仏像に登り腰に抱き付く。
  再度、経を心で誦え、助け給へと念じた。
 矢張り、老僧を喰い終わると、やって来たが、
  仏壇前に来ると倒れ動かなくなっててしまった。
  隠れている場所を探していると見て、
  若僧は、息音を殺し、仏像を抱き、法花経を念じ続けた。
 何年もの時間を経た境地だったが曙光がさしてきた。
  見ると、仏像は毘沙門。
 仏壇の前を見れば、
  牛の頭なる鬼を三段に切殺して置きたり。

  毘沙門天持物の桙の先には赤い血が付いていたのである。
 令百由旬内無諸哀患の御誓
(九字修法)通りだった。

その後だが、人里でこの話をして噂はひろまり、僧は別な地へ行ってしまったが、これを耳にした但馬守は像を京の寺に迎えて本尊として供養し尊崇とのこと。

暗闇でどのような者かはわからかったが、死体から牛頭鬼と確定したのだろうが、獄卒が山寺に登場する必然性を欠く。本来的には異なる鬼だろうが、臭かったし、他に該当する鬼を知らなかったということではないか。
但馬の山岳部は牛頭天王信仰が強かったことを示唆している可能性もある。

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