→INDEX ■■■ 今昔物語集の由来 [2019.11.14] ■■■ [137] 天井から鉾刺 いくら強い男でも、寝ている時に突然襲われるのだから、まず百発百中であろうし。 鉾は魂鎮めの呪術に用いられていたこともあり、殺人器として安心して用いることができるとの観念も後押ししていそう。 そう思うのは、妻との夜の営み後にぐっすり寝込んだところで一気に殺されるようだから。 【本朝世俗部】巻二十九本朝 付悪行(盗賊譚 動物譚) ●[巻二十九#28]住清水南辺乞食以女謀入人殺語 近衛中将は、高貴な家の若くて美貌の公達。 お忍びで清水寺に参詣した時のこと。 20才ほどで、着飾った美しい女が歩いており、 身分も高く、お忍びで来ていると見て、 心奪われてしまい、 小舎人童に後をつけて行先を見届けよと命じた。 戻って来た童の報告によれば、 住居は立派で、清水の南、阿弥陀峯の北。 お供の年配の女に気づかれてしまい、 お話すると、 今度の清水参詣の際にはお立ちより下さいと言われた、と。 中将は喜んで、手紙のやり取りを始めた。 そして、女に誘われたので、 暗くなってから、人目を忍んで訪問。 到着すると、かの、お供の年配の女が出てきて、 中将一人だけを迎え入れ、 お付きや馬はお掘りの外に留め置かれてしまった。 そこは、 山里ではあるものの由緒ありそうな家で 女も格別美しく、一夜を共にした。 2人は細々と語りあったが、 女が悲しそうなので中将はその由縁を尋ね その話を聞いたのである。・・・ 「元は京の者。 両親が亡くなりここに連れてこられました。 住んでいるのは乞食ですが、 私を養い、今は豊かです。 時々清水参詣させ、言い寄って来る男を連れ込みます。 そして、寝ている間に天井から鉾を落として殺し、 外の、お供の者達も皆殺しにして、 着物や車を掠奪するのです。 もう2回もそんなことがあり、 今回は私が身代わりになって殺されますので、 どうかお逃げ下さい。」 一緒に逃げようと言っても、拒まれた。 女はそうすると共に殺されてしまうので、 一人で逃げ、後で供養して頂ければ十分と。 言われた通りに、掘を渡り水門までくると 追ってくる者がいたが、それは小舎人童だった。 怪しいと見て対処していたのである。 一緒に逃げ、五条川原で振り返ると 火の手が上がっていた。 乞食は、女が死んで男が逃げてしまったので これは捕らえられると見て放火したのであろう。 中将はこのことを口外しなかったが、 盛大に供養を行なった。 そのうち、このことが知られ、 家の跡に寺が建てられた。 もう一つの話は、盗人は登場するものの、盗賊譚とは言い難い。 ●[巻二十九#13]民部大夫則助家来盗人告殺害人語 民部大夫 則助の話。 帰宅すると、車馬宿の辺りから見知らぬ男が出て来て 内密な話があると言う。 真剣なので人払いをして話を聞いた。 「実は、お宅の馬を盗みに入りました。 受領のお供で東国に行くことになり、 栗毛の馬に乗りたかったので。 しばらく、様子を窺がっていると 奥方らしき人が、男と話をして、 鉾を渡された男が屋根の上に登って行きました。 災難が起きるのではないかと心配になり、 こうしてお伝え申上げておる次第。」 早速、則助は屈強な者2〜3名を呼び 松明を持たせて屋根裏を捜索させた。 鉾を持った水干装束の男が捕らえられ、 尋問すると、奥方の情夫の従者であり 亭主を殺すようにとの依頼を受けたのだ、と言う。 殿が寝入ったら、 鉾を天井から落として突き刺すことになっていた、と。 男は検非違使に引き渡された。 一方、教えてくれた盗人は、 鞍装着の栗毛の馬に乗せられて舘から追い出された。 同じ殺し方の話なので、こちらの話を後から読むとえらく凡庸に映る。しかし、実はなかなかに置くが深い話なのである。 殺人未遂者と情報提供者の扱いは、まあ、そんなものだろうとなるが、殺人依頼者はどうなったのかが、これではわからない。 そこらはストーリーではなく、解説的な編纂者の文章で知らされることになる。 則助は離婚もせず、その後も長く連れ添ったと言うのである。 当然ながら、 極く心得ぬ事也。 いかにも、この裏には、なにかカラクリがあるゾ、と予想していそうなお言葉。 そもそも、素人の盗人が、昼間に馬泥棒のために他人の邸宅に入って来るというのも不可思議なこと。この家の事情をかなりご存知だからできる訳で、どうも臭い。 そうなると、奥方が夫公認の情夫に飽きてしまい、別れるために一芝居打った可能性もなきにしもあらず。 殊勝な盗人に映るが、二度と顔を出さないとの約束で雇われた演技者かも知れないのだ。 (C) 2019 RandDManagement.com →HOME |