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■■■ 今昔物語集の由来 [2019.11.16] ■■■
[139] 平貞盛
平国香の嫡子 平貞盛[n.a.-999年]は将門を討った褒賞で常陸に多数の所領を得ることに。
その余勢をかって、一族から多数の養子を迎え、支配地盤を強化拡大。
将門に殺された国香を租として、常陸平氏勢力を編成したのである。
これにより、一族は都で軍事貴族としての地位を獲得することになる。

と言っても、軍事貴族はあくまでも中流以下の扱い。
カリスマ的軍事力を誇示することでの地位向上を図るしかなかったと見てよさそう。
平貞盛はこの路線で地位向上を図り、鎮守府将軍となり、丹波守や陸奥守となり、位階も従四位下に。

それでも、親密な交流相手はエスタブリッシュメントの貴族ではなく、主流の僧侶でもないことがよくわかる譚がある。
上流が選びたがらない地域に住む、僧達から見れば亜流でしかない一法師が京での親友なのだ。
その命を、武勇の誉高き貞盛が護ったという話である。
  【本朝世俗部】巻二十九本朝 付悪行(盗賊譚 動物譚)
  [巻二十九#_5]平貞盛朝臣於法師家射取盗人語
 下京の辺に住む法師の話。
 家は豊であり、万端、楽しく生活していた。
 ところが、家に怪の兆候発生。
 早速に、陰陽師 賀茂忠行に吉凶判断を頼んだ。
 すると、盗人事が起きる日があるので、
 その日は厳重な物忌が必要で
 怠ると命を落とす、との占い結果。
 その当日。
 閉門の上、人入れず態勢。
 ところが、夕暮になり、門を叩く者がいた。
 怖れていたことが起きたかと思って知らん顔しても、
 激しく叩くので、物忌中と言う。
 すると、
  「陸奥の国より、
   只今、上京した
   平貞盛なるゾ。」と。
 法師とは極く懇意な間柄であり、
 夜に入ってしまったので、
 どうしても泊まりたいと。
 盗人事で命の危険ということでの物忌なら、
 貞盛を入れた方がよい、ということもあり、
 馬や郎党は返してしまい
 一人だけ法師の家に。
 法師は今夜だけは離れで過ごすということで、
 貞盛は一人でいたが、
 夜半になって門を押して人が入って来る気配。
 貞盛が、車留に隠れて見ていると、
 大刀で門を開け、南面に散開した。
 すかさず、この盗人の中に混じり込み
 燈火をつけ侵入しようとするので、
 法師が殺されること必定と見て
 入ろうとする輩を後ろから弓で射て、
 その行動を指示していた輩も射落とし、
 総員で10名ほどの盗賊だったが、
 残りの者共を家の方から鳴矢で脅したので
 皆逃げ去ったが、うち3人は射落とすことができた。
 さらに、箭庭で4人射殺。
 1人は、4〜5町逃去したが、腰を射られ、溝に倒れたので
 夜明け後に補足。
 こうして、法師は殺されずに済んだのである。
 厳重に物忌を守って、
 貞盛を入れなかったら
 法師は殺されていたことになる。


これは、喧伝のための、平貞盛勢力の"お話"である可能性もあるゾ、というのが「今昔物語集」編纂者の冷徹な見方を示しているようにも思える。

同じ巻に、貞盛のトンデモ話が収載されているからだ。これが、実像と言わんばかり。

  [巻二十九#25]丹波守平貞盛取児干語

 丹波守平貞盛は矢傷を負い、
 悪化してしまい瘡になってしまった。

読み手は、矢傷の元ははたしてなんなのか、大いに気になる訳である。ともあれ、武勇の主もやられる訳ですナということ。
 やんごとなき京の医師に往診を依頼。
 見立てによれば
 胎児の肝で作る児干なら治癒可能、と。


ここからが凄い。
中華帝国王朝では驚くような話ではないが、本朝ではそうはいくまい。特に、親子の情や夫婦仲については関心が高い編者にとっては、豪胆な侍の本質を暴露しておこうと決意して収載に踏み切ったものと思われる。
 貞盛、息子の左衛門尉に
 「妻が孕んでいると聞くが。その胎児をくれ。」と言い放ったのである。
 もちろん、断れないように脅すわけである。
 そこで、左衛門尉は京の医師に母子を救うように懇願する。
 これには、医師も仰天。
 貞盛が入手できると言ってくると、
 血族の肝は駄目であるとして、助けたのである。
 次ぎに白羽の矢が当たったのは飯炊き女。
 胎児が取り出されたが女の子なので使えず。
 そして、なんとか探し出すのである。
 結果、貞盛は生き延びることができたのである。
 しかし、矢傷を負っている訳で、
 それが朝廷に知られると
 奥州鎮守の将軍として派遣される道が危うくなり
 地位を守れなくなりかねない。
 と言うことで、
 息子に、口封じのために京の医師殺害を命ずる。
 医師に恩義がある左衛門尉は状況を医師に伝え、
 身代わりを乗馬させ、徒歩で帰るように言う。
 お蔭で医師は救われる。

流石に、こんな話があるらしい調で収載する訳にいかないから、情報ソースを明示している。
 "貞盛が一の郎等、館の諸忠が娘の語けるを聞き継て"

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