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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.1.9] ■■■
[193] 墓穴置き引き
墓穴遺跡は少なくないが、それが当時の代表的形態かはなんとも言い難し。
墓と住居がすぐ隣だった時代もあるし、日本列島の墓制変遷は解っていないと見た方がよさそう。酸性土壌の地では、古代墓跡を見つけるのは極めて困難だからだ。

「今昔物語集」から見ても、様々な風習が併存していたようだし、洞穴のような形態の墓も登場してくる。
そのような穴に雨宿りで入ることもあったようで、墓そのものを恐ろしい場所と見ていた訳ではなさそうだ。

しかし、墓穴には、死霊=鬼が住んでいる可能性もある。夜の鬼の活動期に入ったりすれば、ヒトは喰われることがあるとの観念は一般的だったようだ。

取り上げる話は、極く普通の旅人2人が雨宿りのために夜間に次々と墓穴に入り、後から入った方は鬼を恐れ、命からがら荷物を置いて逃げ去ったという筋。置いたままの荷物を掠めとるという、置き引き野郎を鬼と勘違いしたので、滑稽譚となっているだけのこと。

この置き引き野郎が、なかなかに頭が回るところが面白さの核である。

しかし、たまたま場が墓穴というだけで、この行為は単純な置き引きとなんらかわるところはない。しかも、捕まらないように周到に対処しており、まさに確信犯。家業ではなく、本人はそう思っていないが、明らかにそれが副業である。
滑稽譚として扱っているのだから、他人のモノであろうが、気付かれないなら自分のモノにすることは実に楽しく嬉しいことという大前提があることになる。
そうなると、貴重な荷物を盗まれたお方は、前世の悪行が祟った結果であり、してやったりの置き引き野郎は前世の善行のお蔭ということになるのだろうか。
  【本朝世俗部】巻二十八本朝 付世俗(滑稽譚)
  [巻二十八#44]近江国篠原入墓穴男語
 美濃へと旅する下衆男が近江篠原と通りがかった時のこと。
 空が暗くなり、雨が降ってきた。
 そこで、「雨宿りに立ち入れる所はないか」と見まわした。
 人気の無い野原の真ん中なので、なにもない。
 しかし、そこに墓穴があるのを見つけたので、
 中に這入り込んだ。
 暫くすると、日が暮れ、暗く成ってきた。
 雨は降り止まず、
 「今夜はこの墓穴で夜を明かそう」と思い、
 奥の方を見ると広くなっており、
 休息になかなか良いので、
 そこに居ると夜がかなり更けて来た。
 すると、穴に入ってくる物音が聞こえてきた。
 しかし、暗いので、何者か見ることはできない。
 只、その音だけが聞こえる。
 「これはまず鬼だ。
  鬼の住む墓穴とも知らずに立ち入り、
  今夜、命を落とすことになるのか。」と
 心に思って嘆いていると、
 そのやって来たモノは、さらにこちらに寄って来る。
 怖さがつのること際限なし。
 と言っても、逃げる方法もない。
 傍らに身体を寄せ、音を断てないようにし、屈んでいたが、
 そのモノは近づいてきて、
 何か物をハタと下に置いた。
 さらにサヤサヤと鳴る物も置いた。
 そこで、座ったような音が。
 これは人の気配だ。
 下衆だが、思慮深く賢い男なので、思い巡らし、
 「これは旅行途中の人で、
  雨が降って日も暮れたから、自分同様に
  この墓穴に入ったのだろう。
  一番最初のハタと置いたのは荷物で。
  次のサヤサヤはを脱いでおいた音だ。」と思ったが、
 「このモノは、この墓穴に住む鬼だ。」とも思われ、
 音を立てず、聞き耳を立てて居た。
 今来た男か、法師か、童か、知りようがないが、
 人の声がして、
 「この墓穴には、
  もしかすると、神様がお住まいでしょうか。
  そうでしたら、このお供えをお食べ下さいまし。
  私は所用で旅の途中ここを通りがかりましたが、
  雨が痛く降ってきまして、夜も更けましたため、
  "今夜限り"と思いまして、
  この墓穴に入らせて頂きました。」と言う。
 そして、供物を祀るようにして置いたのである。
 先に入った男は、少し心が落ち着いてきた、
 「そういうことか。」と思い、合点がいったのである。
 そこで、物が近くに置かれたこともあり
 密かに手で摘まんで取ってみると、小さな餅3三枚。
 「あの人が
  道中持っていた物を
  お供えとして御祭りしたのだ。」
 と理解したのである。
 行き場を失い、丁度、物も欲しかったところだったから、
 この餅を密かに食べてしまった。
 後から入って来た男は、しばらくして、
 その置いた餅を手探りしたが、見つからない。
 その時、
 「鬼が食ったのだ。」と思ったらしく、
 やにわに立ち上がり走り出し、
 持ち物も取らず、笠も捨てて
 、去ったのである。
 「矢張りそうか。
  餅を食ったのが鬼と思って恐ろしくない逃げたのだ。
  上手くも、食ったものよ。」と思い、
 棄て去った荷物を探ってみると、
 品物を一杯入れた袋を鹿革で包んである。
 そてに、笠。
 「美濃辺りからやって来た奴か。」と思い、
 「もしかすると、何か考えているかも。」とも思ったから、
 まだ夜中のうちに、その袋を背負い、笠を着け、
 墓穴を出て行ったのだが、
 「もしかすると、人郷に行って、この事を語り、
  人々を連れて来るかも。」とも考え、
 遥かに人里離れた山中に入っていった。
 そうこうするうち夜が明けた。
 そこで、袋を開けてみると、絹・布・綿等の品物が入っていた。
 思いがけない事だったので、
 「天がしかるべくして与えてくらた。」と思い、
 喜び、行先へと向かったのである。


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