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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.1.16] ■■■
[200] 地獄の亡者来訪
💑"人死にたれども、・・・現にも見ゆる"事例が挙げられている。

死んでからの行先が決まるまで、墓等でフラフラしている状態、あるいはそれが長引いてしまう、死霊=鬼ではなく、地獄に送られてしまってから、一時的にお暇を頂戴すれば、現世に戻れるようだ。
そのような場合は、現世で生き延びている輩に半ば復讐的な行為を果たすためが多いと思っていたが、そうとも言い切れないようだ。

地獄で苦しんでいても、現世の人を慰めにやってくることがある。
相思相愛だった人が未だに恋い焦がれて悩んでいるのを知り、地獄の亡者が慰めにやってくるのである。
もっとも、流石に、そこで大団円とはいかない訳だが。
  【本朝世俗部】巻二十七本朝 付霊鬼(変化/怪異譚)
  [巻二十七#25]女見死夫来語
 大和に住む、両親と娘の家族。
 娘の姿は美麗にして、心配りもなかなかのもの。
 両親は大切にしていた。
 一方、河内に住む、両親と息子の家族。
 若くてハンサム。上京し宮仕え中だった。
 笛を吹くのが上手で、心根も優しいので、
 両親は可愛がっていた。
 そうこうするうち
 息子が、大和の娘が美しいとの評判を耳にして、
 伝手を辿り交際を申し込んだものの、
 娘の両親はしばらく了承せず。
 しかし、強く申し入れてたので、
 ついに、両親も二人を会わせた。
 その後、相思相愛に至り、
 仲睦まじく暮らしていた。
 ところが、3年ほど経ち、夫は病に。
 日夜努力の甲斐なく逝去してしまった。
 妻は嘆き悲しみ、恋しくて心が迷ようばかり。
 国の人からの再婚申し込みも聞く耳持たず。
 ただただ、死んだ夫を恋慕って、年月を重ねるだけ。
 3年経った秋の夜のこと、
 常にも増して、悲しみの涙に溺れて臥していたところ、
 夜半に、遠くから笛を吹く音が聞こえてきたのである。
 「哀れ。
  昔の人の笛の音によく似ていること。」と、
 さらに哀れな気分がつのって来たところ、
 近づいて来て、女が居る所の蔀戸の側に寄り、
 「開けて欲しい。」との声が。
 その声、まさしく昔の夫のもの。
 奇異にして、哀れと思い、
 恐ろしいので、やわら起き上がり、
 蔀戸の隙間から覗くと、男がそこに立っていた。
 男は号泣し、詠う。
   死出の山 越えぬる人の 侘しきは
    恋しき人に 会はぬなりけり
 立ち尽くしたままでの有様だったが、恐ろしくもあった。
 紐を解いており、身体からは煙が立ち上っている。
 女は恐ろしくて、モノも言えない状態だった。
 男は、
 「道理ですね。
  とても恋しくて、哀れで、心破れた御様子なので、
  お暇を頂戴しやって来たのですが。
  これほどまでも怖がられるのすから、
  私は下がり、戻ることにいたしましょう。
  と言っても、
  毎日三度も劫火燃やされる罪を受けておりますが」
 こう言うと、掻き消すように見えなくなってしまった。
 ということで、
 女は、これは夢かと思ったけれども、
 そうではないので、奇異な事と思うのであった。


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