→INDEX ■■■ 今昔物語集の由来 [2020.1.26] ■■■ [210] 鷹 v.s. 蛇 鷹は余り羽搏かずに気流に乗って飛ぶ手の鳥なので、近場の狩猟用には適さないので普通は飼わない。しかし、幼鳥を生け捕りにすれば、鷹同様に育てることはできる。 鳥好きの貴族のなかには、飼ってみたくなる人がいておかしくない。落ち着いており、王者の風格があるからだ。 そんな飼い鷲が蛇に襲われた話が収載されている。毒蛇ではなさそうだし、サイズも日本での大蛇で、特異な点は無い。 天竺の"コブラ(ナーガ) v.s. 金鷲(ガルダ)"翻案バージョンかと思わせるような題名だが、実話を収載しただけのようだ。 筋はこんな感じ。 【本朝世俗部】巻二十九本朝 付悪行(盗賊譚 動物譚) ●[巻二十九#33]肥後国鷲咋殺蛇語 榎の木の下に作った小屋で寝入っていた飼鷲を 蛇が襲った。 枝から下りて、小屋を覗いて、 嘴を呑みこみ、尾迄使ってグルグル巻き。 体長7〜8尺なので、5〜6巻。 ギュウギュウ締め付け、鷲の身体は細くなっていく。 鷲は一時、目を見開いたが、 そのうち閉じて大人しくしていた。 「これでは鷲は死んでしまう。 蛇を打ち、放そう。」 と言う者もいたりしたが、 皆、とにかく見続けていた。 すると、突然、鷲は目を見開き、 唯一自由にな足を引き抜いて、 鋭爪で蛇を踏みつけ、 嘴を抜き去り、 蛇を咋い千切ってしまった。 鷲も鷹も、蛇を食べることはママある。ヒトが居るところでその闘いを見かけないだけのことと言われている。猛禽類は敏捷であるから、後頭部を突くか、胴体を押さえて肉えお引き千切りにかかるようだが、必ず成功するとは限らない。油断すれば巻きつかれて窒息死することもあるし、腿に咬みつかれて絡みつかれたまま膠着状態になれば持久力勝負なので蛇が圧倒的に有利である。 その辺りの状況は、地域によっては、結構知られていた可能性もあろう。 と言うのは、蛇に巻きつかれたので救ってやると、恩返してくれるとの民話が知られているから。 武田明:「日本の民話18讃岐・伊予篇」"鷹の恩返し"未来社1958年 採録地:【伊予国】東宇和郡(西予)…おそらく、宇和 明間の観音水(洞窟湧水) どの時代に生まれた話かは定かではないが、助けた男が蛇の毒気で病に罹る設定だから、仏教説話が生まれる以前からあった話ではなさそうだ。 おそらく、この手の話を聞いたこともあったに違いないが、何故に猛禽を助ける必要があるかという点で、面白い話ではなかろうから、ヒトが関与しない形の話にしたということかも。 しかし、何故にこのような話を収載する気になったのだろう。 つらつら思うに、渡来話に類似譚があったのではなかろうか。 しかも、西域を越えたさらに遠くの世界から。 蛇に巻きつかれ死ぬしかなかったところ男に助けられたので鷲が恩返ししたというもの。"鷹の恩返し"と同一モチーフである。ただ、蛇女や毒気を払ったということではなく、蛇に毒液を入れられたことに気付かず飲もうとしたところ、飛んできて器毎持っていかれてしまっただけ。もちろん飲んでしまった人達は全員死んだのである。 Claudius Aelianus[175-235年]:"De Natura Animalium" vol.17#35 "The Serpent and th Eagle" (C) 2020 RandDManagement.com →HOME |