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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.1.27] ■■■
[211] 童膏盲に入る
「病膏盲に入る」は、もちろん震旦の故事に基づく。・・・

晋の景公が重病に。秦から名医を招請。
到着前に、夢で、病魔である二人の子供が現れ、膏と肓の間に逃げ込むことがわかった。こうなると、名医も処置無し。
膏は心臓の下、肓は横隔膜の上を指すが、この間は内臓の奥に当たり鍼灸効果が出ないからである。
  公疾病,求醫于秦。秦伯使醫緩為之,未至。
  公夢疾為二豎子曰「彼良醫也。懼傷我。焉逃之。」
  其一曰「居肓之上,膏之下,若我何?」
  醫至,曰「疾不可為也。在肓之上,膏之下,攻之不可。達之不及。藥不至焉。不可為也。」
  公曰「良醫也」厚為之禮而歸之。 [「春秋左氏伝」成公十年]


この翻案話が収載されている。
  【震旦部】巻十震旦 付国史(奇異譚[史書・小説])
  [巻十#23]病成人形医師聞其言治病語
○震旦の話。
○重病人が治療のために止事無き医師に往診を頼む。
 医師、それに応じたところ、その晩、夢を見た。
 病は二人の童の姿形になって歎くのである。
 「我等は、この医師に殺傷されるのか。
  どうしたらよいのだろう。
  何処かに逃げ込もうか?」と言うと
 もう一人は、
 「我等が、肓の上、膏の下に入ってしまえば、
  医師は殺傷などできないぞ。」と言った。
 そこで目が覚めたのである。
 その後、医師は往診し、
 「私はこの病を癒すことは、できかねます。
  針は通りませんし。薬も効果が出ません。」と言い、
 治療せずに返ってしまった。
 と言うことで、病人は死んでしまった。
   胆の下を肓、胆の上を膏と呼ぶが
   その場所に至る病気の場合治癒できないのである。
○その後、
 別な重病人が、同じ医師に治療を求めて招請。
 それに応じた医師が、病人のもとへ行く道中、
 二人の鬼が歎いており、
 「我等は、遂に、あの医師に殺傷されてしまうのか。
  何をしたらよいだろう?」と言う。
 以前見た夢と同じように、
 「我等が、肓の上、膏の下に入れば、その力は及ばない。」と。
 すると、もう一人は
 「もしも、八毒丸を服用させたらどうなのだ。」と。
 それに、
 「その時は、もう為す術無した。」との答え。
 これを耳にし、医師は病人の所へと急行。
 今回は八毒丸服用を処方。
 病人、たちどころに治癒。

ご教訓は、
 こんなもので、病気にはすべて心がある。
 こんな風に話しているのだ。


天竺部なのに、どういう訳か、震旦の医薬話があるのでこちらも見ておこう。
  【天竺部】巻四天竺 付仏後(釈迦入滅後の仏弟子活動)
  [巻四#32]震旦国王前阿竭陀薬来語
 震旦国王の皇子の話。
 容姿美しく、気立ても良かったが、罹病。
 さっぱり治る気配がない。
 大臣のなかに、優れた医師がいた。
 しかし、国王との仲がえらく悪い。
 それでも、皇子のためということで、大臣を召した。
 大臣は喜んで参上。皇子を診察し、薬調合のためにいったん退出。
 すぐに、参内したところ、国王はその薬の名前を尋ねた。
 それは猛烈な毒薬だったので、即答できず、適当に
 「これは阿竭陀薬でございます。」と言った。
 国王はそれを聞き、
 「その薬を飲んだ者は死ななかったと言われている。
  塗布した鼓を打てば、その音を聞いただけで
  すべて病気が治癒するとも聞いておる。」ということで
 深く信じ、皇子に服用させたのである。
 すると皇子の病気はすぐに治癒してしまった。
 大臣はすでに家に帰っていたので、
 「皇子はすぐに死んだに違いない。」と思っていると、
 すぐに治ったと聞き、驚いた。
 夜になると、国王の部屋の戸を叩く者がおり、
 怪しんで、何者か尋ねると、
 「阿竭陀薬が参上。」との返答。
 戸を開けると、それは美しい若い男女。
 国王の前に跪き、申し述べた。
 「私は阿竭陀薬ですが、
  大臣が持って来たのは毒薬。
  皇子様殺害を狙っていたのですが、
  薬名を訊かれて、口から出まかせに阿竭陀薬と言ったのです。
  阿弥陀薬を飲むと即死とされても困りますし、
  それが蓬莱とも聞こえましたので、
  私が毒の換わりになったのです。」
 それだけ伝えると、消滅。
 早速、大臣を問い質すと、その通りと白状したので、斬首。
 以後、皇子は病気かかることもなくく、健康維持。


"毒薬変じて薬/甘露と為す(変毒為薬)"話であるが、それは薬師の功徳であり[龍樹:「大智度論」]、ここではそれを示唆する善行は何も記載されていない。
しかし、物質的な薬の概念がある訳ではなく、罹病も治療も、極めて道教的なコンセプトで貫かれている。人や鬼として現れているのが、「気」の実体ということになろうか。

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