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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.1.29] ■■■
[213] 天井川洪水命拾い
巻26"宿報"のコンセプトを推測するのに最適と思われる譚をとりあげておこう。
  【本朝世俗部】巻二十六本朝 付宿報
  [巻二十六#_3]美濃国因幡河出水流人語
〇美濃の因幡河(=長良川)は、大きな川だが、
 大雨で増水すると大洪水になる暴れ川。
 そこで、この川の周辺住民は洪水時に退避場所として、
 強固に張った天井を板張床のようにして使っていた。
 出水したら、天井の上に登って食事ができるようにしたのである。
 男共は船に乗るか泳げるが
 女子供は無理なので天井が避難先なのである。
 それは「__」と呼ばれていた。
  
(屋根裏的な低い上階:「つし or づし」@西美濃)
〇ある時、大洪水。
 水位が天井を越してしまい、家々は流され多くの死者がでた。
 そんな時、
 頑丈な造りだったが、流石にバラバラになってしまった家があった。
 しかし、
 残った部分が水に浮いて船のようになり、
 天井の上に2〜3人の女と4〜5人の子供が乗って、流されていった。
 高台に逃げた人達は、はたして助かるものかと、見ているしかない。
〇ところが、
 その天井に炊事用の燠火があり、
 強風が吹いて屋根板に燃え移り
 火事になってしまった。
 天井に居た人々は叫ぶが助けることもできない。
 流されていた家はすぐに燃え尽きてしまい、皆、焼死。
〇水死を逃れても、焼死してしまうとは、と眺めていたが、
 14〜15才の子供だけは焼死を逃れ、水に飛び込むことができた。
 しかし、流されて行くから、溺死かと、見られていたが、
 水面に出ていた青い木の葉が手が触れ、それを掴むことができた。
 そのため、激流に流されなくなり、溺死を逃れた。
 この川は、急激に洪水を引き起こすが、水が引くのも矢鱈に速い。
 そのうち、枝が現れ、木の股が水面に出てきて、
 子供はそこに座ることができるように。
〇水が完全に引けば助かると思っていたが、
 日が暮れてしまい真っ暗闇になってしまった。
 やがて、待ちかねた夜明けがやって来た。
 すると、その場所は、雲の中かと思えるほどの高い場所。
 山の峰の上に生えている木だったのである。
 しかも、深い谷の方に傾いて伸びており、途中には枝もない。
 居る所は、下手に動けば折れてしまいそうな、天辺の小枝。
 墜ちればひとたまりもない。
 子供は観音さまに祈って、「助けて〜!」と叫ぶものの、
 人里から離れた場所なのでどうにもならない。
〇ところが、その微かな叫び声に気付いた人がいた。
 見に行くと、昨日、九死に一生を得た子供とわかる。
 何とか助けたいと思ったが手立てを思いつかない。
 そんなことで、大勢の人が集まって来て、知恵を出し合うが、
 助ける方法も考えつかず、途方に暮れた状態。
 そのうち、子供が叫んだのである。
 「このままでは、もう落ちてしまう。
  それなら、
  下に網を張ってもらい、そこに飛び降りたい。
  もしかしたら、助かるかも知れないから。」と。
 皆、確かに一理ありということで、出来る限りのことをした。
 そこで、子供は、観音菩薩を念じ、飛び降りた。
 途中で体が回転はしたものの、上手く網の上に落下。
 しかし、意識不明。
 死んだかのようだったが、安静にして介抱すると、
 一時ほどして、目を開いたのである。


これほど強運な人は滅多にいる訳がなく、前世に、余程、善行を積んだからか、と見られたという。要するに、人の寿命は"宿報"で決まるという観念が出来上がっていたのである。
 人の命は何なれども、宿報に依る事にて有也けり。
命に係わることなので、インパクトある話だったらしく、奇異ということで、隣国にまで広く伝わったそうだ。

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