今昔物語集の由来[231](20200216)

■■■　今昔物語集の由来 [2020.2.16]　■■■

[231] 冥道転生確率

震旦の六道転生の話を取り上げておこう。
　　【本朝仏法部】巻九震旦付孝養(孝子譚冥途譚)
　　●[巻九#36]震旦眭仁蒨願知冥道事語
　隋の時代。
　眭仁蒨は
　幼時より経を学び、神を信じていなかった。
　そこで、神の有無をはっきりさせたいということで
　10年以上に渡り、鬼を見ることができる人について
　法を学んだが、結局のところ鬼を見ることはできなかった。
　ところが、たまたま、鬼に会った。
　成景と言い、もともとは弘豊農に住んでいて、
　西晋では介だったが、今は胡国の長史と自己紹介して来る。
　敬ふ心が生まれ、交遊したくなったのだと言う。

そこで、眭仁蒨は成景に、色々と質問をしたのである。
そのなかでも、中華帝国の風土を表した、六道の説明部分が傑作である。
　「仏法では、"三世の因果有り"と説かれているが、虚か実か？」
　　　答：「実。」
　「そうなると、人は死後、六道に転生することになる。
　　そうすると、すぐに鬼に成れるのか？」
　ところが、すぐに答えず、どういう訳か、
　現世での県の状況を質問されたので、状況を教えた。
　　　県での家の数は１万ほど。
　　　獄中にいるのは20人を越える程度。
　　　五品の人はいないが、九品以上の官は10人ほど。
　すると、六道転生の状況はそれと同じ、と謂うのである。
　　　死後、天に生まれる者は、１万人に１人もいない。
　　　　五品ゼロと同じようなもの。
　　人道を得る者は、１万人に数十人。
　　　　九品以上の官の数と同じようなもの。
　　地獄に墜ちた者も、数十人いる。
　　　　獄中に居る人の数と同じだ。
　　要するに、
　　鬼と畜生に転生するのがほとんど。
　　　　役を押し付けられる家々だらけなのと同じようなもの。
　　もちろん、鬼道の中にも、色々と階層と主従関係がある。
　　その数が一番多い。
ここでの鬼とは、餓鬼道を意味していると見てよさそう。ただ、六道としてはいるが、阿修羅は存在していない。
なかなか面白いのだが、天帝が六道を統括しており、閻羅王は人出言えば天子にあたり、太山府君は尚書、鬼の身分とは国の大州のようなものというのだ。
死後転生しても、同じように官僚が差配する社会のなかで生きていくことになる。
そりゃ当たり前で、高天原で神々が集まって協議などという事態は想像だにできない社会。
天帝は最高位だから独裁者に決まっており、天子は天帝のお墨付きを頂戴した人間道の独裁者である。どちらの世界にしても、その仰せを下々に伝えて動きを指示する、巨大で厳格なヒエラルキーを伴う官僚組織が付随することになる。官僚になれないクラスは、ヒト扱いされることもない。なにせ、道教の神々にも階層があり、それぞれ位が与えられるのだ。

ただ、仏教はいささか違うと。・・・
　「仏は此れ大聖也。
　　文書の行を下す事無し。
　　其れ、福を修する者は、天神、敬ひ奉りて、多く寛宥を授く。
　　若し、福厚き者は、道文の簿有りと云へども、摂むるに能はず。
　　此れ、我が知る所に非ず。
　　亦、其の故を知る事無し。」

出典は、唐臨:「冥報記」卷上十九眭仁蒨。・・・
　眭仁蒨者，趙郡邯鄲人也。
　少有經學，不信鬼神，・・・
　　；
　景曰：
　　「六道之内，亦一如此耳。
　　　其得天道，萬無一人，如君縣内無一五品官；
　　　得人道者有數人，如君九品；
　　　入地獄者亦數十，如君獄内囚；
　　　唯鬼及畜生，最為多也，如君縣内課役戸。
　　　就此道中，又有等級。」