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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.4.10] ■■■
[285] 仏像御難
😢oOo仏像が、通行人を呼び留めて、救けを求める譚がある。霊験譚ではあるが、ご利益話という印象は薄い。

先ずは大井川の川縁に埋まっていた仏僧の話。
  【本朝仏法部】巻十二本朝 付仏法(斎会の縁起/功徳 仏像・仏典の功徳)
  [巻十二#12]修行僧従砂底掘出仏像語
 駿河と遠江の境が大井川だが、
 その川上の遠江榛原に鵜田郷がある。
 758年のこと。
 僧がこの川辺を通り過ぎようとした時、
 砂の中から「我を取れ、我を取れ。」という声が聞こえた。
 徘徊している間中続いた。
 そこで、埋められた死人が蘇生したのかと思い
 掘って見ると、師の木像。
 高さ6尺5寸だが、左右の手が壊れていた。
 僧はこの像を修理し、
 道場を建造して安置した。
 その名前は鵜田寺である。
 この仏像、霊験あらたか。
 光を放ち、人々の願いをよく聞き届けてくれた。

島田地区に現存する最古の寺 鵜田寺には眼病に効くとされる木造薬師如来坐像があり、「野田薬師堂」と呼ばれている。重さ9Kgの鰐口1525年を宝蔵しており、仏像は水底から引き揚げられたとの由緒(「元亨釈書」)が記載されているそうだ。
但し、この仏像は平安後期の造像で758年な訳ではないし、この地も駿河 志太であり、榛原@川根とは全く別な地区である。川根には東方薬師堂、本尊千手観音の智満寺@島田千葉には川根薬師堂、医王寺@島田金谷にも空海由来の薬師堂があり、大井川下流域は薬師信仰が根付いていることがわかる。
もともとの鵜田寺は上流にあったと解釈すべきか。
台風到来による降雨は即洪水発生を意味していそうな川だから、当該地域は常襲地域とみてよかろう。ところが予想を絶する鉄砲水に襲われて集落全体が消滅してしまい、お寺の仏像が砂礫河原に埋まっていたのだろう。

次ぎは盗賊に盗まれ、銅の延べ板にされかかった仏像。
仏教が下々まで浸透していなかった時代のこと。鎮護仏教では、盗賊が帰依する訳もなかろう。行基による道路整備等の公共事業でようやく浸透し始めた頃の状況を語っていそう。・・・
  [巻十二#13]和泉国尽恵寺銅像為盗人被壊語
 和泉日根@泉南(近義郷+賀美郷+呼唹郷+鳥取郷)の道路際に
 殺人・強盗を生業とする男が住んでいた。
 生まれつきねじた心情で、仏法の因果応報の理は信じていなかった。
 寺から銅製品を盗んで、帯のように伸ばし、見せびらかして売っていた。
 聖武天皇代
[在位:724-749年]のこと。
 日根の郡内の尽恵寺の仏像が盗まれたことがあり、
 その時、北側の寺道を馬に乗って通って行った人がおり、
 誰かが「痛い、痛い」と泣き叫ぶ声を耳にした。
 これは叱って打つのを止めさせようと思って、
 馬を急いで走らせたところ、
 近付くと、叫び声が次第に消えて行く。
 そこで、馬を止め、耳を澄ますと金属を叩く音だけが聞こえて来た。
 馬を進めてその場から離れると、又、大声のうめき声。
 知らん顔もできないので、戻ってみると又おなじこと。
 「これは殺人ではないか?
  何か忌むべき事情がありそうだ。」と考え、
 しばらくうろうろしていたものの、
 ついに従者に部屋の中を覗かせたのでる。
 すると、盗賊が仰向けに寝かせた銅製仏像の手足を切断し
 タガネで首にとりかかっていた。
 そこで、盗賊を捕らえ打ち据え、
 「どこの寺の仏像だ?」と尋問。
 盗賊は「尽恵寺の仏像でございます。」と答えたので、
 使者を遣り確かめるとその通りだった。
 仔細を聞いた信徒達は、すぐに盗賊の家にやって来て
 壊された仏像を囲んで泣き叫んだのである。
 そして、
 「悲しいことだ。
  痛ましいことだ。
  わが大師、どんな過誤で盗難にあったのでしょう?
  私共は、尊像が寺に居られたらこそ、
  師として崇めておりましたのに、
  このように壊されてしまうと、
  何を師と仰げばよいのでしょう。」と。
 僧達は飾り付けた御輿を作って、
 壊された仏像を安置し、寺にお連れ申し上げた。
 そして、泣く泣く葬式を挙行。
 ただ、盗っ人の方は処罰せずに放免。
 もっとも、捕らえた人が盗っ人を縛って届けたので入獄となったが。
 これは、仏が盗人の悪事を止めさせようとした霊験である。

尽恵寺は不詳。
この地域には、行基時代からの寺跡も残っており、おそらく、いずれかだが、銅製仏像を簡単に盗めた点を勘案すると、五重塔巨大基壇が発掘され、法隆寺式大規模伽藍と考えられている海会寺の可能性が高そう。
 【日根】
 《呼唹郷》
 海会寺跡@泉南信達大苗代
 《近義郷》
 加治神前畠中遺跡@貝塚
 地蔵堂廃寺@貝塚
 《賀美郷》
 禅興寺廃寺@泉佐野長滝
 【泉】
 (神於寺)@岸和田…683年建立 修験道系山寺

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