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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.6.1] ■■■
[337] 天童賞賛読誦
法華経霊験譚かと思って、軽く目を通すだけにしがちな譚だが、考えてみれば、それなら巻十二に入れる必然性を欠くようにも思える。
  【本朝仏法部】巻十二本朝付仏法(斎会の縁起/功徳 仏像・仏典の功徳)
  [巻十二#37]信誓阿闍梨依経力活父母語
  ⇒鎮源:「大日本国法華経験記」下87信誓阿闍梨

そんなことを考えると、元ネタの「法華経」奉持供養の功徳による霊験譚集成本、「大日本国法華験記」に、「観無量寿経」、「小阿弥陀経」との兼修との記載があり、純法華経ではないからかも。
それに、議論を呼びそうな姿勢も見せているし。理屈では、早く天で菩薩を助けて衆生救済したいと言えなくもないが、自殺を試みた点からみて、現世での衆生救済に本気ではないとも言える。
天童が読誦を褒めているが、自殺の方も褒めるべきかネ、ということでとりあげたか。
○安房守高階兼博朝臣の子(三男)信誓阿闍梨[70才時1043年]
 天台の観命律師の弟子。
 幼児期から法華経を信奉し日夜読誦。
 真言も修得し朝夕修業。
○道心が生まれ、現世の名声利益を棄て、
 後世の成仏を願うようになり、
 比叡山を去り丹波船井の棚波の滝で籠居し、
  
(比定地:市森の琴瀧 玉雲寺奥山)
 法華経読誦と唱真言一途。
 すると、
 容姿端正な童子が阿闍梨の前に出現。
 美声をはり上げ四句の偈を口誦。
  "我来聴法花 遂果四弘願 当従其口出 栴檀微妙香"
 しばらく阿闍梨の法華経読誦を聞いていたが、急に見えなくなった。
 不審に思い、いずこへ行ったのかと思って捜しても、わからず。
 天童が下って来て称えてくれたと解釈し
 涙を流して際限なくたっとんだのである。
○そのうち、父の兼弘が国司として安房国に下向。
 父母の熱心な勧めで阿闍梨も安房へ。
 すると、尊い僧との評判になり、
 国の人々が頭を垂れて敬うほどに。
 ところが、阿闍梨は心中では
 「我は、長年、法華経読誦と仏法修業し、その功徳は絶大。
  しかし、長生きすれば、罪業を作ってしまい、
  輪廻することになりかねない。
  それ位なら、早く死んで悪業を作らぬようにせねば。」と考え、
 服毒することに。
 最初に、附子を食べたが死なず。
 次に、和多利という毒茸も密かに食べたが、なお死なす。
 「不思議な事。
  毒を食べても、法華経の力で死なないのだ。」と思うと、
 経文が頭に浮かんで来た。
   「刀杖不加 毒不能害」
 そして、感激に浸ったのである。
  
(法華経に該当箇所があるが、修験道偈文かも。
  "天諸童子 永以給仕 刀杖不加 毒不能害 若人悪罵 口即閉塞")

○その後のこと。
 夢を見ると、
 「聖人の信力は清浄。さらに、法華経読誦を。」と告げる人がいた。
 よくよく見ると、普賢菩薩のお姿。
 そこで、夢から覚めたが、
 以後、いよいよ信仰心をこめ、法華経を読誦。
○その頃、天下に伝染病が流行し、阿闍梨も罹った。
 父母も共に罹り苦しんだ。
 阿闍梨の夢に、
 五色の鬼神が出現し、
 阿闍梨と父母を冥途に追い立てた。
 しかし、鬼神は
 「阿闍梨を許してやるように。
  この者は法華持者。」
 と言って許してくれた。
 そこで目が覚めると、
 病は治癒。普段通りに。
 しかし、父母はすでに死去。
 これを見て、涙を流し、泣き泣き法華経読誦。
 父母の蘇生を願って祈ったのである。
 すると、夢に、法華経第六巻が空より飛び下りて来た。
 手紙が着いており、開いて見ると、
 「汝が法華経読誦で父母蘇生を祈っておるので、
  ただちに父母の命を伸ばすことにする。
  この度は送り返すことにした。
  これは閻魔王のご書面。」と書いてある。
 夢から覚めて、父母を見ると、どうにか蘇生。
 そこで、冥途のことにを話した。
 父母はそれを聞き、限り無く、喜び尊んだのである。
 この事を見聞きした人も、皆、涙を流して尊んだ。
○阿闍梨の一生の間の法華経読誦は一万部に達した。
 その他の勤行も怠らなかった。

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