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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.8.8] ■■■
[405] 栴檀・沈水
供香は供花、供燈と並び、供養に際して不可欠。現代でも、この行儀は受け継がれている。
ただ、香に関しては、内容的に変容している可能性もありそうだが。

供香に用いられる香としては、愛する人の菩提を弔うために焚く十種香@浄瑠璃「本朝廿四孝」(白檀[栴檀] 沈香[沈水] 零陵 甘松 蘇合 薫陸 白膠 鶏舌 鬱金 青木)がよく知られている。
10という数には特段意味はなさそうだが、それは、鳩摩羅什[譯]:「妙法蓮華經」卷六23薬王菩薩本事品では焼身供養の際に諸香を服用するが、数を考慮していそうにないから。
  『我雖以神力供養於佛,不如以身供養。』
  即服諸香,栴檀 棊、 兜楼婆 畢力迦 沈水 膠香,又飲瞻蔔諸華香油


「今昔物語集」でも、それを彷彿させるが如き話が収載されている。美しい妻を、国王に強引に横取りされた夫は、香身仏と授記されるのである。
  【天竺部】巻二天竺(釈迦の説法)
  《6-7弟子による教化》
  [巻二#16]天竺依焼香得口香語
 天竺の辺鄙な地に長年住んでいる夫婦の、
 妻は端正美麗で、並ぶ者なし。
 その時、国王が、身分にかかわらず
 格別美しい女を妻を后にすべく宣旨を下し
 東西南北国内中を探し求めさせたが、
 生憎、見つからず、失望し嘆いていた。
 そこで大臣が、
 その女を召して后になさったら、と上申。
 そこで、遣いをやり召すことに。
 家の主人は、罪も犯しておらず、
 国土を使っている生業でもないし
 財宝を蓄えているのでもないのに、
 どうして妻を召し取るのかと詰問すれど無駄。
 女は搦め取られるがごとくに連行されて行った。
 夫は、涙を流し惜別の態。家を出てしまった。
 国王は女をご覧になり、まごうことなき美女と絶賛。
 政治に無関心になり、昼夜に渡り溺愛。
 すぐに、后としたが、予想に反し
 それを喜ぶ様子がさっぱりみられない。
 機嫌をとり、歌舞音曲の類で楽しませようとしたが
 まったく笑うこともない。
 どうしてそのような態度なのか、尋ねると
 「天下の主であらせられますのに
  下賤な野人の夫より劣っておいでです。
  夫の口からは
  栴檀・沈水のような香ばしい息がもれますのに
  それとはまったく違うからです。
  これでは、笑うどころではありません。」と。
 国王は、大いに恥じ、
 后の元夫を探して連れてくるよう命令。
 召されると、たちどころに芳香。
 一里の間に栴檀・沈水の香りが満ちた。
 奇異ということで、国王は釈尊のもとに参詣し、
 因縁の説法をお願いした。
 「前世は下賎な樵。
  伐採した木を担って運搬していたところ、雨に降られた。
  そこで、壊れかけた寺の門前で杖を立てしばらく一休み。
  寺の中を見ると、比丘が仏像の御前に坐し、
  香を焚いて読経していた。
  それを見て、自分も供香したいと思った。
  そのおかげで、現世では、吐息が香るようになった。
  そして、その芳香が一里の内に満ち溢れることに。
  この先、仏と成り、香身仏と呼ばれることになろう。」
 国王はそれに感じ入り王宮へ帰還。

【ご教訓】自ら心を至して、香を焼き、
   仏を供養し奉らむ功徳を思ひ遣るべし

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