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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.8.9] ■■■
[406] 灯指光
👉💥巻二に収録されている、素人には読み取りづらい譚を取り上げておこう。
釈尊が因縁を語るのだが、仏像の欠損指補修の功徳についての話だからどう解釈すべきかはなはだ厄介なのである。指から放光できる力を授かったとされており、阿弥陀仏の右手中指を意味しているのかナ、と想像する訳だが、そうなると時代的にどうなのか考えさせられてしまう。
どうあれ、しっくりこない説法内容である。もちろん、モトネタははっきりしている。
 鳩摩羅什[譯]:「燈指因縁經」

それに、指放光だけではない。
ミダス王でもなかろうに、触れた死骸が金に変わるのだ。この"果"にも違和感を抱かざるを得ない。どういうことか、さっぱり読めない。天竺はゴールドに執着する人だらけなので、ありえそうな話であるとはいえ。
  【天竺部】巻二天竺(釈迦の説法)
  《8-20 出家者阿羅漢果》
  [巻二#12]王舎城灯指比丘語
○王舎城に住む巨富の長者に子供が生まれた。
 姿形は世に並び無きほど端正。
 しかも、出生した途端、一指から光を放ち、十里を照らした。
 父母大いに歓喜。"灯指"と命名。
 ○阿闍世王これを聞いて
 その児を連れてくるよう勅命。
 長者は児を抱いて、王宮の門に参上。
 すると、児の指から放たれた光が王宮を照らした。
 そして、王宮内の諸物が、皆、金色に。
 王は奇怪なことと、
 「何の光かわからぬが、我が王宮を照らしておる。
  もしかしたら、仏が門に来られたのでは。」
 とおっしゃられて
 様子見に、従者を門に出させた。
 見分して戻り報告。
 「王がお召しになった小児が参上しており、
  この光は、その手の指から放出したものでございます。」と。
 それを聞いて、王宮内に召し、自から児の手を取って、
 奇異の思いを深めたのであった。
 そこで、児を留めることにし、
 夜になってから、児を象に乗せ、
 前に立てて、王薗に入った。
 すると、児は指から光を放ち、
 夜の暗闇を照らしたので、まるで昼のように。
 王、歓喜。沢山の財をお与えになり、家に還した。
 ○灯指は、成長していったが、
 そうこうするうち、父母逝去。
 その後、家は次第に崩れて行き、
 財物も盗賊に奪われてしまった。
 庫蔵も空っぽになってしまい、
 眷属は散り失せ、妻子からも棄てられてしまった。
 親族係累もすべて絶えてしまい、
 昔は昵懇だった人からも、敵のような扱いを受けるように。
 棲む所もすべて失ってしまい、寄り栖む処も無い。
 衣裳も無いので裸。
 と言うことで、巷に行き、乞食になり、世を過すことに。
○灯指はつらつら思うに、
 「我は、どういうことで貧窮に落ち込み、
  たちまちのうちにこんな苦に会わされるのか。
  我は、我が身を棄ててしまおうと考えるのだが
  自から、我が身を壊すこともできない。」
 そんなことで、思い煩うのであった。
 そこで、墓地に行き、屍骸を担いで、
 狂ったように王宮の門から中に入ろうとすると
 門衛に打ちのめされて入ることができない。
 全身打ち壊されてしまい、
 声を挙げ、際限なく、泣き叫んでいた。
 結局、屍骸を持って、家に返って、歎き悲むだけ。
 ところが
 そのうち、この屍骸が自然に黄金と化したのである。
 さらに、暫くすると、屍骸が破壊し、頭・手足に別れてしまった。
 わずかの間に、金の頭・手足が地上に満ち、
 倉の内に積って来て、以前を凌ぐまでに。
 と言うことで、富貴も又、以前に優るように。
 すると、妻子・眷属も皆返って来た。
 親友達との関係も元通りに。
 灯指、大いに歓喜。
○阿闍世王はこの事を聞いて、
 金の頭・手足を取得するよう命じたが、
 持ってくると、すべてが死人の頭・手足になってしまった。
 ところが、それを廃棄すると再び金にもどるのである。
 灯指は、国王がこの金を得ようとしているのを知り、
 金の頭・手足を国王に奉じた。
 そして、諸々の珍宝を大勢の人々に施し、
 厭世感に陥り、仏の御許に詣で、出家。
 羅漢に成ったが、その屍の宝は常に身から離れることはなかった。
○比丘は、この状況を見て、
 釈尊に質問。
 「灯指比丘は、
  どのような因縁で、指からの放光力を得たのでしょうか?
  又、
  どのような因縁で、貧窮に落ち込んだのでしょうか?
  さらには、
  どのような因縁で、屍を金と化し身に従わせたのでしょうか?」と。
 そこで、釈尊は、比丘にお告げになった。
 「灯指は、過去生で、波羅奈国の長者の子だった。
  外で遊んでいて、夜になり帰宅。
  門を叩いても、人が居らず、返事も無い。
  暫くしてから、父母が出て来て開門。
  児、母を罵倒。
    
(経典)『舉家擔死人去耶?賊來劫耶?何以無人與我開門?』
  その罪で地獄に堕ち、ただならぬ苦を受けた。
  地獄の罪が果て、現世となり、人間界に転生。
  とは言え、罪がまだ残っているので、貧窮受苦。
  さらに、
  過去九十一劫の時、婆尸仏涅槃の後だが、
  指灯大長者だった。
  泥像を見ると、指が一つ落ちていたので、
    
(おそらく、土と石灰混練材自然乾燥塑像)
  それを修治する願を発した。
   "我、この功徳で、人天に生まれ、富貴を得よう。
   そして、仏に会い奉り、出家し得道を。"と。
  こうして仏の指を修治したので、
  指より光を放ち、さらに、屍の宝を得ることになった。」

【ご教訓】
此れを以て思ふに、戯け言にも、父母をば罵るべからず。
無量の罪を得る也。
亦、戯にても、仏の相好の損じ欠け給へらむを見てば、必ず土を以ても、修治し奉るべし。
無量の福を得る事、此の如し。

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