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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.8.21] ■■■
[418] 赤竜 v.s.青竜
直感でしかないが、本当に震旦での話なのかナと疑問が湧く、敗者支援譚がある。
震旦では、本朝のような判官贔屓などあり得ず、敗者となった英雄を貴ぶ理由はそのようなものではないと見るからだ。あくまでも、打落水狗の風土と考えると、違和感芬々。見返りの約束無しでの敗者支援などおよそ考えられぬ。
  【震旦部】巻十震旦 付国史(奇異譚[史書・小説])
  《36-40 他》
  [巻十#38] 於海中二竜戦猟師射殺一竜得玉語
 猟師が、海辺で端が突き出ている場所に行き、
 鹿が出て来たら射るつもりで、じっと待っていた。
 隠れて見ていたのだが
 海の中に青と赤の2頭の竜が登場して来て
 互にい合い戦い始めた。奇異な事と眺めていたが、
 一時ばかり戦って、青竜が負けて逃げていった。
 次の日、昨日と同じ頃、又、青と赤の竜が出て来て、
 前の様にみ合って戦かい、又、青竜が負け逃げていった。
 二日続けて、青竜敗退。
 猟師は、この戦いを見ようと、その夜は、その場所に宿泊。
 三日目。
 又、青と赤の竜が出て来て、同じように開戦。
 青竜、弱く、いかにも負けそう。
 見ていて、大変に惜しいと同情。
 ということで、心に浮かんだのである。
 「この三日を見るに、
  二日はすでに青竜の負け。
  ここで、彼を助けるため、赤竜を射殺してしまおう。」と。
 箭を溜め、赤竜を狙って射ると、見事に命中。
 ということで、赤竜は逃げて、海中に入って行った。
 そして、青竜は、身体を平らして、
 こちらも海の中に入ってしまった。
 その後も、見ていると、青竜が海の中から出て来た。
 玉をんでおり、陸を目指してやって来るのである。
 猟師は、
 「青竜は、敵の赤竜が射られたので勝てた。
  これは我が恩によるところ。
  しからば、恩返しに、宝珠を持って来て、
  我にくれるのであろう。」と心得、
 海辺に寄ると、青竜は猟師を見て、ます近付いて来て、
 玉を陸に吐き置いて、海の中へと返って行った。
 猟師はその玉を取って帰宅。
 その後、諸々の財が、心に任せてできあがり、
 窮乏することもなく、家は豊に、財宝も飽満状態に。


情報ソースを調べていないので、なんとも言い難しだが、学者の指摘によれば、この話の元ネタは以下であると。
  ⇒「法苑珠林」巻八十"呉臨海人射獵助殺受現報"
  「續搜神記(=陶淵明[撰]:「捜神後記」)」曰・・・
  呉末臨海人入山射獵為舎住。
  夜中,有一人長一丈著黄衣白帶來。
  謂射人曰:「我有讐尅明當戰。君可見助當有相報。」
  射人曰:「自可助君耳何用報為?」
  答曰:「明食時君可出溪邊
      敵從北來,我南往應白帶者我黄帶者。」
  彼射人許之,明出果聞岸北有聲如風雨草木四靡
  視南亦爾唯見二大長十餘丈,
  於溪中相遇便相盤繞白蛇勢弱,
  射人因引弩射之,黄蛇者即死,
  日將暮,復見昨人來辭謝。
  云:「住此一年獵明年慎勿復來來必為禍。」
  射人曰:「善還停一年獵所,獲甚多家致巨富。」
  數年後,憶先山多肉忘前言。復更往獵。
  復見先白帶人語之言:「我語君勿復來,
    君不能見用讐子已大。今必報君。非我所知。」
  射人聞之甚怖,便欲走乃見三烏衣人,
  皆長八尺張口向之,射人即死。

思うに、この蛇は「山海経」に記載されるようなトーテム、つまり、神だろう。
中華帝国からすれば、黄蛇は南方系の反黄帝勢力の象徴といったところか。
そうなると、「今昔物語集」編纂者は、黄蛇を南の象徴である赤竜にし、対するは東の青竜としたことになろう。

ただ、恩返しの内容と、その結末が余りに違い過ぎる。
竜神から福玉を授かるのに対し、1年ポッキリの猟果の約束は随分と出し惜しみの感あり。
そして、せっかくの果を、強欲のお蔭で命まで奪われてしまう訳で。ただ、約束遵守できないと罰が下るというモチーフは、浦島の玉手箱調であり、定番ではあるが。

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