→INDEX

■■■ 今昔物語集の由来 [2020.9.20] ■■■
[448] 高鳳流麦
本朝なら、戦前の銅像の負薪讀書(二宮尊徳)や卒業式の歌の螢映雪(車胤+孫康)だが、震旦では高鳳流麥。

その出典は良く知られている。
  ⇒范曄 & 司馬彪:「後漢書」卷八十三列傳73逸民[9]高鳳
 高鳳字文通,南陽葉人也。
 少爲書生,家以農爲業,而專精誦讀,晝夜不息。
 妻甞之田,曝麥於庭,令鳳護鷄。
 時天暴雨,而鳳持竿誦經,不覺潦水流麥。
 妻還怪問,鳳方悟之。
 其後遂爲名儒,乃ヘ授業於西唐山中。


実に簡素な文だが、震旦的にはこれで十分に言い尽くせていると思う。

「今昔物語集」のお好みの書はどうなっているかといえば、驚くほどの省略記載。
  ⇒「注好選」上32高鳳流麦
 此人読書晨夕不止。
 其妻曝麥。令風守之。以竿授于使追鷄雀。
 即天大雨。而鳳執竿読書。不覚流麥。
 妻還罵始悟。


これでは駄目出ししかあるまい。

話は突然飛ぶが、「酉陽雑俎」の著者は、科挙反対論者である。
一見、人物登用で既得権益を失う恐れがあるからと勘違いしてしまうが、その本質を見抜いていたからに他ならない。
「今昔物語集」編纂者もそれを理解していたことが、この譚の書きっぷりで見えてくる。「注好選」は肝心な点を隠蔽しており、本朝向けの注が無い「後漢書」では意味がわかるまい、と考えたに違いない。

この譚は、震旦国史に不可欠な科挙話であり、ここはしっかりと書き足しておこうと考えたのだろう。
  【震旦部】巻十震旦 付国史(奇異譚[史書・小説])📖「注好選」依存
  《16-27 武将・文官》
  [巻十#25] 高鳳任州刺史迎旧妻語

それは、小生の想像という訳ではない。
冒頭で示したように、この譚は常識的には"高鳳流麥"だが、そうはなっていない。"流麥"はカットした上、"刺史旧妻"にしているのだ。

科挙準備の第一段階は地元での暗記的読書の日々である。それを支えてくれる献身的な妻無しでは成り立たないのが普通。その上で、都に単身出て予備校通いと、顔売りや個人指導を仰ぐなどいろいろ。そして、パスすれば、引く手あまたで婿に引っ張られるのである。宗族社会とはそういうもので、当然ながら、普通は旧妻は捨てられていく。

 漢代。
 高鳳は幼時より、心に智が有り、
 昼夜を問わず文を学ぶことだけに集中していた。
 ただ、家は極めて貧しく、
 共に暮らす者は妻一人のみ。
 そんな状況だったが、世間知らずのママで、
 只々、文を学ぶだけで、年月を送っていた。
 ある時、急に、夕食に食べる物がなくなってしまい、
 妻が隣家に行って頼み、麦を持って来た。
 夕食に宛てようということで、庭で曝すことにした。
 そこで、妻は高鳳に
 隣家からもらって来た夕食用の麦を庭に出し
 曝しているので、
 鶏が食べようと出てくるから
 遠くに追い払うようにと頼んでから、
 火を取りに出ていった。
 案の定、鶏が庭にやって来て食べ始めた。
 しかし、高鳳は、文を学ぶことに熱中しており、
 他のことへの心配りなどできず、それに気付かなかった。
 そこで、鶏は、心まかせに、麦をすべて食い尽くしてしまった。
 妻が、返って来て、庭を見ると麦が無い。
 どうしたのか問うと、高鳳は全く知らないと。
 それを聞いた妻は、憤った。
 文を学ぶだけで、世事は無知で、愚の極致であり、
 もう汝に依りそうことはできない、と捨て台詞。
 高鳳は、
 「我は、今から三年経てば、富貴の身に成ることができる。
  その時まで待ってくれないか。」と言ったのだが、
 妻は、どの言葉を、更々信用できぬと思って、離別の道へ。
 その後、州で新しい夫に嫁いだ。
 そうこうするうち、4年経ち、
 高鳳、遂に、州の刺史に任官。
 富貴の身と成り、赴任地に下ることに。
 そこで州を挙げて、通り道を清掃して、大騒ぎ。
 貴賤男女を問わず、大勢が集まって、刺史が下ってくるのを見物。
 その中に、刺史の旧妻も居た。
 現在の夫と一緒に、薮の中で隠れるように見ていた。
 刺史は、ほのかに、その存在が見えたので、輿を止め、
 人を遣わして伝言。
 「我は、汝の旧夫ではないのか。
  汝、我が本妻ではないのか。」と。
 旧妻、それを聞いて、大びし、薮の中から出て来た。
 召し、近寄せて見てみると、確かに旧妻だった。
 そして、際限無きほど、哀れに感じたのである。
 刺史は、以前の心を失なっていなかったのである。
 そして、旧妻を召し、
 元のように一緒に住み、養ったのである。
 刺史の今の妻は、恥じて、去って入った。


 (C) 2020 RandDManagement.com    →HOME