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2003.4.6
 
 


公害防止政策の転換点(続)…

 「高公害エンジンの低公害化」より、抜本的変革といえる「低公害車への代替」を進める時代が到来した、と主張すると、非実践論者との烙印を押される。
 「低公害車への代替」は一朝一夕にできるものではなく、実現までに長期を要する。そのような技術開発を進める必要はあるが、先ずは、眼前の問題への対処策を話し合うべき、と諭される。

 この発想が問題なのである。一見、実践的に映るが、実は逆だ。「低公害化」とは、現行の仕組みを維持することでもあるから、代替先延ばし策でもある。
 しかも、こうした対応を重ねていれば、現実の問題でさえ、自然に不徹底な対処になる。

 実務に徹するつもりなら、代替を前提にした議論から始めるべきである。
 つまり、現行のエンジンを「つなぎ」と位置付ける所から始める。当然、「つなぎ」の低公害対策として何をすべきかを議論することになる。
 この重要性が理解できない人が多い。というより、ともかく公害防止なら、一歩でも先にすすめばよい、と考えてしまうのである。

 これでは、産業界を動かすことはできない。環境派は、現実を直視すべきである。

 例えば、日本のディーゼル車の排気ガス試験は、欧州とは異なる。その根拠はともかく、試験方法がいくつかあるなら、データ間の相関性を示すのが常識だ。どころが、これが通用しない。
 ということは、業界は、現行技術に基づくコンピュータ制御でクリアできる規制にこだわっている、といえよう。

 これに対して、環境擁護派は、欧州並の「厳格」な規制を要求する。しかし、独自規格にこだわる理由を考えれば、このような要求で業界が動くとは思えない。・・・ディーゼル車主流の市場の欧州なら、徹底的な研究開発を進めても十分ペイするが、日本ではそうとは限らないからだ。
 この状態で、いくら妥協策を探ったところで、成果があがる筈はない。

 一方、将来、他の技術で代替させようと考えているなら、自ずと要求は異なってくる。優先すべき政策は、エンジン性能向上ではなく、エンジンの利用場面の限定化である。
 例えば、ガソリンエンジンで代替可能な場面があるなら、代替インセンティブを導入して、ディーゼル利用を減らす策が考えられる。
 又、公害を発生しそうな運転条件では、ディーゼルを使用させないような施策を導入するとよい。

 もともと、ディーゼルでなければ無理な利用場面などほんの一部だ。安価な燃料が使え、より少ない燃料消費量なので、経済性の観点からディーゼルが選ばれているだけだ。ディーゼル利用のメリットを消す政策を打ち出せば、ディーゼル利用が減り、全体としては低公害化になる。軽油/ガソリン価格や、供給量を変えるだけでも、市場は大きく変わる筈だ。政治的決断で大変化をおこせるのである。

 そもそも、原理的に、環境へのマイナス要因が多いなら、代替を急ぐべきで、改良に力を入れるべきではない。代替の土壌作りの方が余程重要である。
 将来、燃料電池車が入るなら、どの市場から代替を始めるかはっきりさせる必要がある。そして、現行市場が、燃料電池車に市場を明渡しし易い仕組みを用意すべきだ。

 ところが、未だに、最初の市場は、小型車なのか、バスなのかさえはっきりさせていない。漫然と自動車会社にまかせている。これでは、インフラができる訳がない。
 本来は、どの分野から低公害車の浸透を図るかが、政策の要である。要が無いということは、浸透を遅らせる算段を考えていると見た方がよい。

 こうした動きと同時に、高公害車を追い込んで行く分野も決めておく必要がある。収益があがる狭い分野を作ることなくして、産業界が動く筈がない。

 実践論に基づく政策は、このような発想で案出すべきだと思う。


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