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2003.10.1
 
 


自転車リサイクルの不思議…

 自転車の利用者は増える一方だ。
 通勤族が住む地域の駅前は自転車だらけだし、買い物時間にはスーパーマーケットでは駐輪場を溢れている状態だ。
 いまや、自転車利用は、住宅地に限らない。都心でも、自転車通勤族が登場してきた。高層オフィスビルの地下に駐輪場を設けた外資系企業もある。

 お蔭で、「放置」された廃棄自転車が急増している。邪魔である上、歩行者にとっては危険だから、様々な取り組みが行われているが、ほとんど効果はない。
 というより、効果が期待できない施策しか行われない、と言った方が正確だろう。
 自転車を長く大事に使おうと考える人が激減しているにもかかわらず、抜本的な対策を避けつづけているのだから、効果があがる筈がない。

 例えば、自転車を修理すれば、工賃1,200円を要求される。これに部品代が加わる。パンクなら、せいぜい数100円程度の加算だろうが、それ以外は1,000円以上になる。数1,000円するパーツも多い。
 一方、新品自転車の価格は、ダイエーのシティサイクル27型で、16,800 円だ。魅力的な仕様の商品である。
 (http://www.daiei.jp/debut/touch/net-9029802.html)
 これでは、多少の不具合が生じても、修理して長く使おうという気にはならないと思う。
 家電製品と同じで、自転車は使い捨て商品になったのである。

 16,800円が低額とは思えないが、家電製品とは違い、利用者が安価と感じる素地がある。
 自転車をやめて、バスに乗れば、価格メリットがすぐに実感できるからだ。定期券代金は、3ヶ月で25,650円もする。そこそこ出歩く人なら、自転車を数ヶ月使えばモトがとれる勘定である。
 (http://www.kotsu.metro.tokyo.jp/bus/unchin/teiki.htm)
 従って、ちょっと壊れたら、修理せずに新品を購入するのは極く自然な行動といえる。

 購入すれば、自動的に不要自転車が発生する。しかし、引き取る仕組みは整っていない。この先、膨大な数の「放置」自転車が登場してもなんの不思議もない。
 放置規制をしたところで、駐輪車と廃棄車の見分けがつかないのだから、効果が得られる訳がない。規制をかければ、放置場所が拡散して、回収コストが嵩むだけである。廃棄自転車の引き取りコストを誰かが負担するしかないのである。

 ところが、引き取りコスト負担の話しは厄介だから、避けつづけている。問題の先送りである。

 といっても、問題は深刻化一途だから、様々な地域で、自治車による、放置自転車リサイクルの動きが始まっている。なにも手を打たない訳にはいかないから、できることから始めた訳だ。

 しかし、中古自転車業は昔から存在している。回収された放置自転車の払い下げ品を入手し、修理・清掃を行ない、販売する零細業者が多い。実売販売価格は7,000円から9,000円といったところ。
 実は、完全に解体・分別し、部品清掃から組立まで行なうと、プロでも1人で1日2〜3台程度しか対応できない。これでは、自転車を無料で引き取っても、ペイしない。従って、簡単な修理で売れそうな廃棄自転車を選ぶ、「目利き」で食べているビジネスと言えそうだ。

 本当にリサイクルの流れを作りたいのなら、事業の新しい仕組みが必要なのである。

 ところが、そのような方向には進んでいない。
 「官」が自転車リサイクルに取り組み始めているのだ。

 リサイクルには多大な労働力と、膨大な金がかかる。にもかかわらず、もともと高コスト体質で、ビジネス経験が無い「官」が担当するらしいが、このような流れを促進してよいのだろうか。

 驚くことに、この動きへの支援報道が目立つ。自治体施設を使ったリサイクル事業を、褒めちぎるニュースも流れている。
 「官」が中古自転車店を始めて、どこにメリットがあるのか、理解に苦しむが、エコロジーに寄与するから素晴らしい、との論理なのだろう。
 さらに驚かされるのは、「この事業は、施設コストがかからない」との解説がつくことだ。
 費用がかからない施設などある筈がなかろう。民間なら、高収入事業が可能な場所で、高コストの「官」が運営管理している施設を使っているだけの話である。施設の使い道が見つからないから、リサイクル事業が入居しただけの話しかもしれない。

 その上、1人か2人を雇っただけなのにもかかわらず、雇用創出効果まで指摘する。「官」が雇用すれば、中古自転車産業の民間雇用が失われるだけ、とは考えないのだろうか。
 しかも、2人で1日1台を再生するのがやっとだという。どう見ても、人件費(最低賃金+社会保健/福利厚生/交通費)だけで新品自転車販売額をこえる。これでは、事業の態をなさない。

 日本は社会主義経済を選択した訳ではない。このような経済原則から外れた施策を続ければ、経済システムが破壊される。エコロジーに関係すれば、それでもかまわないと考えるのだろうか。
 リサイクルの方向に進ませたいなら、リサイクル産業振興策を考えるべきである。

 エコロジーの思想を広げたいなら、自転車の違法廃棄防止活動を盛んにすべきだ。そして、利用者に廃棄コストを負担させるしかあるまい。ゴミと化した自転車を駅前に捨てるような、モラル喪失状況を黙認し、その結果発生した自転車廃棄物のリサイクルを図るエコロジー運動には違和感を覚える。


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