↑ トップ頁へ

2003.12.6
 
 


地球温暖化科学の研究組織…

 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)が設立されたのは、1988年のことである。1990年には、人類がこのままの状態で活動を続けると生態系が崩れる、との警告を核とした、第1次アセスメント報告(FAR)を発行した。
 この活動が、UNFCCC(「気候変動に関する国際連合枠組み条約」1992年)として結実した。しばしばニュースに登場するCOP(条約締結国会議)の出発点だ。
 [IPCCは、WMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)が編成した組織である。]

 専門家の活動が政治に反映される仕組みができたという点で、画期的な動きだったと思う。

 UNFCCC/COPは国際政治活動そのものである。一方、IPCCは、基本的には専門家の組織であり、その活動の成果を報告する機関といえる。IPCCはUNFCCC/COPに対して、アセスメント報告を提出する役割を担っている訳だ。
 しかし、これでは一方通行になる。
 そのため、SBSTA(助言のための補助機関)が設置されている。SBSTAはIPCCにCOPが必要とする情報を提供するよう要請し、これに応えてIPCCがSBSTAに報告書(Special Report/Technical Paper)を提出する逆の流れも作ったのである。

 一見単純に見えるが、今まで行われなてこなかった組織運営である。

 というのは、現状の科学水準では、完璧な予測など不可能な上、確証データも不足している対象分野を取り扱っているからだ。今までの常識なら、専門家の意見を聞いて政策策定できる状態にはない。
 [担当研究者によって結果は異なるし、何が正当かの検証もできかねる。失礼な言い方を許して頂ければ、科学理論としては確立以前である。]
 しかし、確実な理論ができるまで待ち、放置すれば手遅れになりかねない。従って、確実な予測がなくても、現在の英知で、対策を打つための仕組みを作ったのである。

 その後、第2次アセスメント報告(SAR)が1995年に発行され、さらに、2001年の第3次アセスメント報告(TAR)に繋がる。

 TARでは政治主張に見られないような報告になっている。
 例えば、過去140年の北半球の地表気温を見ると、1970年頃までは寒冷化しているようだ。その後急に温暖化が進んでいる。全地球でも、1970年から上昇基調が見える。収集できるデータで、できる限り事実を伝えるよう努力していることが一目でわかる
  (http://www.ipcc.ch/present/graphics/2001syr/ppt/05.16.ppt)
 予測モデルも、様々なものを用意し、結果をカットせずに示している。しかも、すべて誤差範囲が明示されており、恣意的な主張にならないよう気をつかっている。
 ここまで示されれば、2010年には1.5〜4.5℃上昇するとの予測は妥当、と判断せざるを得まい。
 [もっとも、お蔭で長い報告書になっており、部外者は見た瞬間読む気が失せる。]
  (http://www.ipcc.ch/present/graphics/2001wg1/ppt/05.02.ppt)

 この間、COPは、ベルリン(1)、ジュネーブ(2)、京都(3)、ブエノスアイレス(4)、ボン(5)、ハーグ(6)、マラケシュ(7)、ニューデリー(8)と次々と会議を重ねてきた。そして、COP-9が、2003年12月1日からミラノで始まっている。
  (http://unfccc.int/cop9/index.html)
 IPCCは、こうした流れのなかで、できる限り直接的な政治的主張を避け、科学的評価に徹してきたといえる。「政策決定者への要約」作成で、政治に政策策定をつきつけてきたのである。
組織 Working Group I Working Group II Working Group III Task Force on
National Greenhouse
Gas Inventories
アセスメント
対象
climate system
and
climate change
socio-economic/natural systems
consequences of climate change
and
options for adaption
options for
limiting emissions
and
mitigating climate change
Inventories program
気象変動の科学 環境/社会経済への影響 対応策とシナリオ 温室効果ガス対応
共同議長
出身国
China
USA
United Kingdom
Argentina
Sierra Leone
Netherlands
Japan
Brazil
France
Gambia
Italy
New Zealand
Thailand
Venezuela
Morocco
Canada
Mexico
Australia
Belgium
Slovenia
Sudan
Saudi Arabia
Peru
Cuba
Indonesia
Australia
Bolivia
Brazil
Canada
Chile
India
Japan
Kuwait
Mauritius
New Zealand
Norway
Syrian Arab Republic
Tanzania
United States

 しかし、残念ながら、COPの動きは順調から程遠い状況である。
 そして、IPCCは2007年の第4次アセスメント報告(AR4)に向けた活動を始めた。

 組織を見ると、国のバランスを考え、反撥を招かない人事を行なったようだ。
  (http://www.ipcc.ch/activity/cct7.pdf)
 どのグループも先進国と発展途上国が共同議長を勤めている。といっても、現実には、モデルについては米国、影響検討は英国、シナリオはオランダ、インベントリーは日本が主幹だが。
 そして、IPCC議長の出身国は先進国ではなく、インドになった。

 専門家組織ではあるが、明かに、パワーポリティクスに基づいた地域バランスや人事が行われている。これが、国際研究組織の実態なのである。

 どのメンバーも、出身国の期待を背負いながら参加している。そのなかで、政治/経済や宗教/民族の違いを乗り越えて、リーダーシップを発揮しないと、会議は紛糾するだけで成果に結びつかない。
 このような状況下で、前議長のW. Watson氏は、深い知識を駆使することで、TARをどうやら纏めてきたのであろう。

 紛糾必至の組織のなかで、リーダーシップが発揮できる人材を輩出する国は、どこだろう?・・・


 環境問題の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2004 RandDManagement.com