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2004.2.26
 
 


水銀汚染のリスクは?…

 日本での有害金属土壌汚染が次第に明らかになってきた。しかし、カドミウムは政治問題になりかねないから、冷静に、対処策論議が進むことはなさそうだ。
  → 「カドミウム米規制への無理な抵抗」 (20040112)

 その一方で、政治に振りまわされることを嫌って、とりあえず無関心を決め込む人も多いようだ。

 日本には、鉱山(跡)が全国に点在するのだから、カドミウム/亜鉛/鉛/銅が土壌に流出しない筈がない。といって、工場とは違い、本格的な管理には膨大な金額がかかる。流出防止は困難と見るべきだろう。
 従って、放置しておけば、どこかで、重大な問題を引き起こす可能性は高い。

 しかし、これは、解決が難しい問題ではない。
 汚染源がはっきりしているし、簡単な調査で被汚染地域も特定できるからだ。その上、リスクに関しての疫学データも揃ってきた。不十分な点はあるものの、影響の大きさは推定可能である。(1)
 一方、このリスクに対して、問題発生を防止するための方法も揃っており、どの程度の費用がかかるかも見積もれる。

 軽度なリスクだと判断し、微弱汚染農作物を薄く広く市場にばら撒き、リスクを下げる政策もありうる。もちろん、汚染土壌地域を閉鎖し、汚染農作物を市場に出さない徹底的な政策もある。
 冷徹に、リスクとベネフィットを検討すれば、ベストな政策を選定することができる筈だ。
 (もちろん、これは理屈だけの話しで、現実には、このような議論は不可能である。)

 ところが、カドミウム/亜鉛/鉛/銅以外の汚染物質では、これが通用しない。
 カドミウムばかり議論されるようになると、相対的に、他の元素に関する議論が少なくなり、研究も減ってくる。こちらの問題が忘れられてしまいかねない。
 一般に、危険は忘れさられると、リスクが軽視され、どこかで突然重大問題が発生するものだ。

 こうした元素としては、ベリリウム、クロム、砒素、モリブデン、銀、インジウム、アンチモン、ビスマス、テルル、水銀、タリウムがあげられる。
 すでに問題を起こしたことでよく知られている元素もあれば、ほとんど話題に登場しない元素もある。

 これらの汚染源は、ほとんどが鉱山/精錬所では無い。従って、どこに危険が潜んでいるかよくわからないことが多い。

 特にわからないのが、長期微量汚染のリスクである。ほとんど意味あるようなデータが無いから、大雑把な推測で考えるしかない。
 そのため、どうみても極端すぎる見方が出やすい。といって、データが欠乏しているから、議論の深化も望み薄である。不毛な議論になりかねないのだ。

 このような分野では、ヒトでの蓄積がどうなっているのか測定データを集めることが極めて重要である。
 2003年1月に発行された米国CDCレポート(2)は、この観点で貴重だ。これを眺めると、一安心できる。
 DDT、PCB、鉛の血中濃度が減っているからだ。
 使用禁止政策が確実に効果をあげていることがわかる。

 先の元素についても、どのような規制が必要なのか、こうしたデータに基づいて検討すべきなのは言うまでもなかろう。

 しかし、どう見るべきかはっきりしないのが水銀である。

 すでに、有機水銀は過去大量に排出されている。今から放出規制をしたところで遅いかもしれない。
 (工場から排出され海水に放出されたものだけではない。かつては殺菌剤にも含まれていたから、農地にも蓄積している可能性は高い。)

 分解され無毒になる訳ではない上、食物連鎖で末端になるほど蓄積が確実に進む。すでに海産物では摂取制限せざるを得ない種が登場しているのだから、そのうちにヒトに影響がでるのは確実だろう。
 ところが、どの程度のスピードで進むのか分からないし、個人差もあるから、そのリスクはよくわからない。
 最悪を考えれば、魚の摂取量の上限設定もあり得る問題であり、どのように対処すべきかオープンな議論が必要だろう。

 少なくとも、日本人への水銀蓄積がどの程度まで進んでいるのか、その速さはどの程度か、はっきり見えるデータを公開すべきである。

 --- 参照 ---
(1) 浅見輝男著「データで示す―日本土壌の有害金属汚染」アグネ技術センター 2001年
(2) http://www.cdc.gov/exposurereport/pdf/95thpercentiles.pdf


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