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2005.9.15
 
 


無袋減農薬栽培リンゴを眺めて…

 購入したビニール袋入りリンゴに、“農水省新ガイドラインによる表示”なる紙切れが入っていた。無袋で減農薬栽培とのふれこみの商品である。

 それによると、“特別栽培農産物”だという。そして、“使用した化学合成農薬”が記載されていた。
「減農薬栽培リンゴ」
“使用した化学合成農薬” 表示例
用途 農薬名 回数
殺菌 ミクロブタニル
ジフェノコナゾール
プロビネブ
クレソキシムメチル
トリフロキシストロビン
塩基性硫酸銅
有機銅2種
5〜8回
殺虫 テブフェノジド
フルフェノクスロン
クロチアニジン
フェンプロパトリン
フルアクリビリム
ミルベメクチン
アセキノシル
チアメトキサム
チオファネートメチル水和
3〜6回
植調 ジクロルプロップ 0〜1回
  ・化学合成農薬: “当地比/50%減 (使用回数(1))
  ・化学肥料: “当地比/90%減 (窒素成分)

 10年以上前からエコブームで農薬が嫌われているため、農産物もこのような表示が増えてきた。

 ここだけ見れば進歩したとも言えそうだが、疑問がわく。

 「農薬が沢山ついているリンゴは皮ごと食べるのは心配。減農薬栽培のリンゴなら安心です。」といった噂を流している人達が多いからである。
 ここには、非科学的な見方を喧伝して、上手く時流に乗ろうとの考えが見てとれる。

 対象は屋外栽培の皮が厚い果樹である。
 常識で考えれば、農薬を余程沢山撒かない限り、使用した農薬量で結果にそう違いがでるとは思えまい。減農薬栽培で残留農薬がどれだけ減ったか、是非、明確なデータで示して欲しいものだ。

 消費者にとっては、減農薬とは、減残留農薬と思ってしまうが、そんな効果などゼロに近いと思う。

 減農薬より重要なのは、安全性が確認されている「登録」農薬を適正に使っていることと、出荷前に農薬散布をしないことである。
 回数を減らしても、出荷前に撒かれたのではたまらない。

 もっとも、農家は、この辺りの情報は開示するつもりがないようだ。

 要するに、リンゴ栽培における減農薬の意義とは、イメージ向上でしかない。実質的な意義は、農家の健康増進と、多少の農薬費用抑制だけだろう。

 そもそも、リンゴのように病気に弱く、虫にも好かれる作物では農薬は不可欠だ。しかも、リンゴは木である。減農薬で被害が発生でもすれば、その後数年間は、元の元気な状態に戻れないのではなかろうか。
 本当に減農薬によるリンゴ栽培業の梃入れがプラスに働くのか考えてみる必要があると思う。

 美しい林檎村の建設と言った情緒的な見方でビジネスが成り立つ筈がないだろう。
 イメージ商売は、実態がわかった瞬間没落する。そんな商売は止めるに限る。

 減農薬だけではない。
 化学肥料を撒かないとの訴求も急だ。面倒で高価につく自作肥料を使うのだろうか。
 そうすれば、土は自然に戻るかもしれないが、その土に生きるミミズや昆虫を目指して、動物が来ることになる。木の根は傷つけられ、果樹園は痛めつけられてしまうと思う。

 それとも、果樹園の周りには動物が棲めないようにするつもりなのだろうか。是非とも聞いてみたいものである。

 なんのメリットもないのに、お金と手間がかかる、農薬や化学肥料を散布する訳があるまい。農薬や肥料の使用を抑制すれば、今まで享受していたメリットが失われたに違いないのである。それは一体なんなのか、よく考えるべきである。

 袋がけにしたところで、袋をかければ美しくなるから価格が上がるから面倒な作業をしていたのではないか。しかも、貯蔵性が向上し、収穫時期調整が可能になる。
 無袋にすれば、このメリットは失われてしまうだけのことである。

 成熟した社会では、単純に解決できる問題は極めて少ない。

 因果関係の連鎖構造をじっくり見つめて方針を立てないと、物事は良い方向に進んでいるとは限らないのである。

 --- 参照 ---
(1) 「りんご病害虫防除基準」より農薬散布回数を減らしたという意味.


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