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2006.3.20
 
 


動物実験棟建設問題の報道を眺めて…

 新設されるOxford大学 Biomedical Research Centre の傍らで、数百人のデモがあった。

 BBCの報道には、「ANIMAL TESTING」と大書した横断幕を押し立てたデモ隊の写真と、“My message to the extremists is that you will never win.”との一言が掲げられている。(1)

 チラッと見ただけでは、動物実験の反対運動と勘違いしてしまうが、逆なのである。

 この発言をした Local MP Dr Evan Harris は、自分はHIV/Aids 治療法開発のための“human guinea pig”になると、集まった人たちに語って喝采を浴びた。

 当然だろう。

 現状では、実験動物無しで治療薬開発など無理なことがわかっているにもかかわらず、動物実験を止めろという人達が闊歩する状況が続いているのだ。
 それでは、HIV/Aids の蔓延を放置するつもりか、と聞きたくなるのは当然である。
 絶対反対運動は、医薬品の服用を拒否する、特殊な宗教観に根ざしたものと言わざるを得まい。

 ようやく、まともな運動がマスコミに取り上げられるようになったと言えよう。(2)

 しかし、一寸離れた場所では、反対勢力の集会が開催されていた。今回は、直接衝突は避けられたようだが、この先、衝突は避けられないかもしれない。

 なにせ、実験動物反対のExtremists は all staff and students at Oxford to be “legitimate targets”とみなしているのだから。

 とはいえ、このような、pro-test v.s. anti-test の対立は歓迎すべきだろう。(3)

 Extremists に対しては、その行動の責任をとってもらうことになるが、こうした意見表明自体を潰す動きは絶対にとるべきではない。そして、もっと重要なのは、その意見を無視すべきではないという点。ここが肝要だ。

 pro-test v.s. anti-test の対立を公然化できるような社会にできるか否かが、問われているのだと思う。
 この問にどう応えるかで、社会の行く末が決まるのではなかろうか。

 もともと、政治家は、周到な準備の後、先ず、叩くための「標的」を決める習性がある。騒ぎたてることで、思想宣伝を図るのだ。これは、常套手段である。
 但し、卓越した指導者が存在していると、騒ぎによって、一定の関心が集まったら、沈静化に舵を切り変えることが多い。それ以上騒ぎたてても、支持者が増えることはないし、対立が深まるだけで、一歩も踏み出せなくなり、袋小路に入り込みかねないからだ。

 しかし、そのような変化は当該組織内では、嫌われることが多い。騒ぎ立てることで注目を浴びることが楽しい勢力にとっては、面白くないからである。その結果、目立つために、さらなる大騒ぎを企画することになる。場合によっては、暴力的な行動に移ることもあり、泥沼化して動きがとれなくなる恐れもある。

 独特な宗教観や偏狭なナショナリズムをベースにした運動の場合、こうした動きは避けようがないかもしれない。

 問題は、こうした運動そのものではない。

 そのような思想が生まれることを防ぐことなどできる訳がないからだ。

 厄介なのは、こうなることを想定している、老獪な政治屋集団の存在である。彼らは、泥沼化への流れを利用して権力を握ろうと画策する。

 こうした勢力は、最初に騒ぎが発生した時、無視を決め込むことが多い。

 そして、暴力的な動きが発生して、Extremists への対応が問題になった頃を見計らって、颯爽と登場するのである。一見、民主主義者に見えるが、民主主義を衆愚政治の元凶と考える頑迷な政治屋であることが多い。
 こんな政治屋に台頭されたのでは、たまったものではなかろう。

 「pro-test 運動」が立ち上がるかどうかで、そんな危険性がある社会か見えてくる。

 --- 参照 ---
(1) Animal lab supporters go on march BBC News [2006-2-25]
  http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/oxfordshire/4750516.stm
(2) Brendan O'Neill: “The pro-test protesters” BBC News [2006-2-22]
   http://news.bbc.co.uk/1/hi/magazine/4739376.stm
(3) Timothy Garton Ash: “The creeping tyranny of taboos” Los Angeles Times [2006-3-2]
  http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-garton2mar02,0,650016.story?coll=la-news-comment-opinions


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