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2006.6.14
 
 


黄河新文明隆盛の波紋…

 中国の一人当たり淡水資源量は世界平均の4分の1だそうだが、2006年5月、政府の担当者が水資源保護を強化することを表明した。(1)
 水資源モニターの仕組みや、水市場を創設するという大方針(2)は決まっているから、いよいよ、水消費の統制を始めるということかも知れぬ。

 中国は、水資源の地域偏在が激しいから、一人当たりの淡水資源量の数値など意味がない。南の揚子江(長江)は水が豊富だが、北の黄河は基本的に水不足状態が続いてきたのである。
 黄河流域は、今のままなら、供給不足でどうにもならなくなるのは自明である。(3)

 このことは、中国の持続的発展は望み薄ということである。10年先大混乱の可能性も否定できない。
 そんなことは為政者もよくわかっている。そこで、中国の伝統ともいえる、大型治水計画が喧伝されてきた。長江の水を北に引くという、「南水北調」計画である。いかにも中国好みの、歴史的偉業の類である。
 上流での計画は、黄河と長江を隔てる山脈に貫通トンネルを掘るというもの。耐震を考えれば、相当な難物と思われる。
 中流の計画は、支流のダムから取水することになるのだろうが、その辺りの水利問題はおそらく複雑だろう。さらに、黄河の下をトンネルを通すという、地盤的にも厄介な工事が必要になる。
 コストに比してどれだけメリットがあるか大いなる疑問だが、それはおいておくとしても、どちらにしても、時間的には間に合うまい。
 一方、作ること自体は難しくないのは下流である。そのままなら海に注がれる低地の水を、既存の運河や水路をできる限り活用し、順次ポンプで水を汲み上げて流していく方式だからだ。しかし、残念ながら、それほど大きな効果は期待できそうにない。
 などと議論しているうちに、おそらく、水問題は深刻化していく。

 この問題は極めて厄介である。
 水の大半は農業が使うからだ。旺盛な食糧需要に応じて、農業地域は生産増強に励むことになる。この地域は農業以外に経済成長の道はない。農地は増えるし、水量削減を図るどころの話ではなかろう。
 だが、工業用水と都市生活用水需要は経済発展と共に急拡大が続くのだ。
 供給が増える見込みがないのだから、理屈から言えば、水資源量に合わせて、都市人口を制限したり、工業用水制限を図ることで乗り切るしかないが、そんなことができるとは思えない。富かに発展し続ける地域と、生産性が低い農村部で、水資源取り合いになるのは必至である。
 政府としては、生産性が高い分野に優先配分するしかないが、軍事独裁政権だから簡単という訳にはいかないだろう。

 今までの中国共産党の歴史からすると、権力闘争に繋がりかねない問題だからである。

 それだけではない、経済成長を優先すれば、中国の食糧生産はさらに減少することになる。米国からの食糧輸入はさらに増大することになる。

 この時、この需要に応えるだけの生産量を米国農業が保っているだろうか。
 こちらも、米国の穀倉地帯の水資源がこの先も潤沢かは不透明である。もしも、不調なら大事である。世界は供給不足に見舞われる。

 黄河新文明隆盛による世界経済破綻のシナリオである。

 歴史を紐解けば、文明の衰退は、水・エネルギー・土地という有限な資源の使い方を間違って発生することが多い。いよいよそんな時期が訪れたのかも知れない。

 ・・・などと気軽に言える立場にないのが、日本である。
 日本の食糧の大半は米国と中国からの輸入品だからである。

 こんな事態が発生したら、日本は、もう一つの有限な資源、人を使って乗り切るしかない。しかし、人的資源も高齢化するし、総数も減る。知恵が生まれないなら、没落必至である。

 --- 参照 ---
(1) http://peopleschina.com/maindoc/html/news/20060529/5.htm
(2) http://j1.people.com.cn/2005/09/22/jp20050922_53731.html
(3) 国際協力銀行開発金融研究所「中国北部水資源問題の実情と課題」2004年
  https://www.jbic.go.jp/japanese/research/report/paper/pdf/rp28_j.pdf


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