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2007.12.19
 
 


炭酸ガス排出量削減問題で考えるべきこと…

 2007年12月3日、COP13がバリ島で開催された。(1)

 1万人がヌサデュア・ビーチに集まり、しかも、オーストラリアの首相が批准書に署名し、すぐにでも批准できるというので盛り上がった。(2)

 ともあれ、de Boer首相の“What is your response to what the scientists are telling you? What are you going to do about this? I hope there will be a bold answer.”という雰囲気だったようである。(3)

 しかし、その一方で、醒めた意見も見かけるようになってきた。
 なかには、原因と結果の読み方がおかしいという意見もある。温暖化したから大気の炭酸ガス量が増えたと見ることもできるというもの。要するに、自然原因がほとんどであり、人が努力しても効果は無いというのだ。(4)
 別にニヒリストでもなければ、悪意ある反論でもない。熱狂に流されず、冷徹な判断に基づいた発言が多い。

 ただ、次のような論旨の意見は、注視すべきだし、十分議論した方がよかろう。

 (1) とてつもないお金をかけ、
   今のような炭酸ガス排出量削減対策を打ったところで、
   その効果は余りにも小さい。
   従って、
    (a) 温暖化防止はあきらめた方がよい。
 (2) 水面上昇だけを考えれば、その影響は限定的である。
   従って、
    (b) 被害を受ける地域対策にお金を投じた方が、
      費用と効果を考えれば合理的だ。
 (3) 温暖化対策に投入するお金の一部を、
   アフリカのHIV対策や最貧国の経済開発に回すだけで、
   何百万人の命が救える。
   従って、
    (c) 温暖化防止より、直面する何百万人の命を救うことが急務だ。

 (1)〜(2)の前段での指摘はその通りだが、“従って、”以下はこう書くべきではないか。
    (a') 今のままでは、どうにもならない。
    (b') 今のままでは、もぐら叩き的な被害対策に流れること必定。

 現実を眺めると、効果無き防止策でお茶を濁しかねないということ。
 ともかく、大変革に歩を進め無い限り、ほとんど効果は期待できない。
 それが、炭酸ガス削減問題なのである。

 従って、(a)〜(c)で書くべきことは以下のようなこと。
    (A) 炭酸ガス排出量削減技術開発に本気で取り組むべきである。
    (B) 温暖化による被害防止から議論すべきではない。
    (C) 炭酸ガス排出量削減は他と優先度を比較すべくもない重大問題である。

 ただ、醒めた意見が登場してくるのもわからぬではない。
 なにせ、周囲は情緒的な動きばかりなのだ。
 最たるものは、GDP当たりのエネルギー消費で高効率の国がさらに高効率化を狙うという動き。大変な努力が必要な割りに成果は小さい。
 家庭の運動も同じようなもの。日本のエネルギーシェアは約5%で、家庭はそのうち1割強。全家庭がいくら頑張ったところで、10%節約がいいところだとすれば、どれだけ貢献できるかすぐにわかろう。
 効率が悪い国を助ければ、削減絶対量は桁違いに多いのだ。本気で、生存の危機を突破したかったら、そんなことができる仕組みを考えるのが普通だろう。

 こんな姿勢を見ていると、ヒトの生存が脅かされていると考えてはいないのではないかという気がしてくる。
 それは、冒頭の醒めた見方をする人達にもいえそうだ。

 問題認識が違うということかも知れぬ。
 しかし、それは無理もない。
 “ヒトの生存の危機”と言っても、それを証明する術はないからだ。
 「直観」にすぎないのである。

 こんなところが、この問題の難しい点である。
 気候大変動で大被害を被ることと、ヒトの生存そのものが脅かされることでは、全く質が違う。被害の大きさを誇張して危機感を煽ったり、シミュレーション結果で変化の大きさを示しても、それは所詮は前者でしかない。
 後者の問題であることを認識しない限り、大変革はできないのである。

 なかでも厄介なのは、合理的に考える、良質な層がこの「直観」を信じようとしないこと。
 そうなると、冒頭に示したような見方になってしまうのである。

 冷静になって、「直観」を働かしてもらい、炭酸ガス削減問題の重要性を理解してもらうしかないということだ。
 合理的に考える人達が知恵を絞ってくれない限り、この問題は解決できないから、これができないと先は暗い。

 それではどうしたらよいか、と言っても、アイデアもないが、少なくともセンセーショナルな言辞は逆効果になることだけは確実である。
 まあ、お勧めとしては、炭酸ガス濃度変化を見ることか。どの程度の問題か考えてもらえば、理解してもらえるかも知れない。
 図を見てわかるように、驚くような速度で濃度が上昇している。この傾向が続くとすれば、すぐに500ppmを超える。そのまま外挿すれば、将来、どの程度になりそうかは、素人でも予想できる。
 ヒトが安全に生活できるレベルは5,000ppm(労働安全基準)とされていることを思えば、結構、危ういレベルに来ているとは言えまいか。ここがポイント。

 間違ってもらってはこまるが、炭酸ガス濃度上昇自体が危険領域に入るか否かという話ではない。
 低濃度炭酸ガスの大気のなかでヒトは住み続けて来たが、それとは“違う世界”に突入し始めたことに注目しているのである。

 ここで、重要なのは、“違う世界”への突入という点。どうなるかわからない環境に踏み込むということである。とてつもないリスクだと思うが。
 これを気候に当てはめるとどういうことか考えてみるとよい。ただ、こう考えるのが正しいという論拠は無いから、納得してもらえるとは限らないが。
 温暖化すれば、氷が溶けて、海面に淡水が広がる。当然ながら、海流が変わる。水面が上昇し、気候が荒れるが、その程度では済まない可能性があるということ。
 現在の気候バランスの仕組みが一気に崩れてしまうから、暑くなる一方になるかもしれないし、逆に進めば氷河期に突入してもおかしくないのである。
 炭酸ガス削減という課題は、他の問題と比較すべくもない重要問題というのは、このことなのだが。

 --- 参照 ---
(1) http://unfccc.int/meetings/cop_13/items/4049.php
(2) “Key climate meeting opens in Bali as Australia ratifies Kyoto” AFP [2007.12.3]
  [WBCSDによる再掲News] http://www.wbcsd.org/plugins/DocSearch/details.asp?type=DocDet&ObjectId=Mjc1NTI
(3) MARGARET CONLEY: “Can Climate Progress Succeed Without U.S.?
  On Eve of Bali Talks, World's Top Greenhouse Gas Emitter Still Won't Sign Kyoto Protocol ” ABC News [2007.12.3]
  http://abcnews.go.com/Technology/story?id=3946670&page=1
(4) 槌田敦: 「CO2を削減すれば温暖化は防げるのか」 日本物理学会会誌 62(2) [2007.2]
(空気のイラスト) (C) Motoko Mizuhara “CHEMICAL GARDEN” http://chemgarden.hp.infoseek.co.jp/
(グラフの元画像) [Wikipedia] CO2-Mauna-Loa.png http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:CO2-Mauna-Loa.png


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